21頁 初日から、カミングアウト ①
なんですか、幻種って。いや、知識としては知ってますけどね、こんな簡単に派生しちゃダメでしょう。
でも、ランクは星一個……いえ、黒くないです、白いです。黒星十個で白星一個ですか、そうですか……星十ってどんだけですか。その前に、成層圏飛べるってもう生物じゃない気がするんですがね、私の気のせいでしょうかね。
目の前で役目を終えたように、聖雲蓮の花が光の粒になって消えていきます。
残された雛と向き合います。真っ黒だった瞳は、中心から輪郭にかけて、薄い赤紫から濃い青紫へのグラデーションに変わっています。星屑がちりばめられたようにキラキラしてます。ゴミとか異物が瞳の中にあるわけではなく、虹彩の模様ですね。散光星雲を凝縮したような感じです。
『ピ?』
「可愛らしくしても誤魔化されませんからね何なんですか貴方は普通の魔物用AIではありませんよね今こそ白状していただきたいのですが白状してくれますよねきりきり吐き出してくださいさあさあ!」
ベッドの上で雛がどんどん小さく萎縮していきますが、構っていられません。
「貴方も貴方です我々AIはNPCの範疇を超えないように行動に制限がされているはずなのに何なんですか止めもせず傍観するばかりで楽しんでいますよね私が暴走する姿を見て愉しいんですかそうですかどんな悪趣味なんですか一度プログラムから組み直してもらったほうがいいと思いますよ。さぁ、きりきり吐きなさい」
「はいはい。
まず、青雲鷲が聖雲鷲に変異するのに必要なのは聖雲蓮の蜜一雫。普通種が稀少種になることを変異、亜種になることを転異と言う」
「時すでに遅しでしたけどね」
雛から視線を移すと、男は乾いた笑顔でベッドをぽふぽふと叩きます。座れと。そうですね、腰を落ち着けて、OHANASIしましょうか。
「それは、ごめんって。
……で、青雲鷲から星雲鷲に転生するのに必要なのが満開状態の聖雲蓮の蜜と花が一羽に対して一輪分。そして、普通種から幻種になることを転生と言う。
希少種や亜種は少し強くなる感じだね。芋虫が蝶になるのに蛹の中で一度ドロドロになるけど遺伝子情報は変わらないでしょ。そんな感じ。
対して幻種は遺伝子から組み換えられた生物の完成体。僕たちAIに例えたら、プログラムの一言語から全部打ち変えられても変わらない自我を残しつつ思考回路やら何やらが比べ物にならないくらい最適化された感じ。だから、生まれ変わるって意味で転生」
「ご都合主義にもほどがありませんかね、条件も簡単すぎる気がしますが?」
「まぁね、星雲鷲は幻種の中でも最低ランクだし、そんなもんでしょ。まぁ、鳥類では最高ランクかな。鳳凰は神霊種だし、迦陵頻伽は精霊種になるし……うん、純粋な鳥型魔物では最高ランクだと思うよ」
「……」
悪びれもなく、いけしゃあしゃあと謝罪されても怒りが積み重なるだけなんですね。知りませんでしたよ、えぇ。この怒りをどこに向ければ良いのやら。
そして、鳥類の最高が白星一であることに安堵すべきなのか、それともさらに上が五万と存在することに恐怖すべきなのか……計りかねます。
まぁ、今考えるべきは雛のこれからです。
取り敢えず、青雲鷲と聖雲鷲の星数が多いのは偏に魔法が使える上に高高度を飛行可能であることに由来するのでしょう。星雲鷲はさらにその上を飛ぶのですから、まぁ、理解はできますがね、納得できるかはどうかは別の問題です。
この可愛い雛を私にどうしろと言うんでしょうか。育てろと。何を食べるかわからないのに。手詰まり感が半端ないです。いつの間にか寝てますし。すぴょすぴょと寝息が聞こえます。雛なのに寝息がこんなに大きく聞こえるとは……寝息まで規格外なんでしょうかね。
「龍とか精霊の幻種なんて白星四とか五とかザラだから。そこまで高位になると、星表記とか種族とか、その他諸々隠せるようになっちゃったりするから、知らないうちに出会ってました、なんてことも有り得るね」
「イベントはいりません。全て熨斗つけてお返しする方向でお願いしたいです」
雛から話が離れて行きますが、今私が声を大にして言うべきは、つまるところこれに要約されるでしょう。
イベントはこりごりです。せめてクエスト形式にしてください。終わりが見えないイベントは、要りませんよ。この男だけでもうお腹いっぱいなんです。ただでさえ終わりがわからないのに……
「僕のイベントをなんだかんだ言いながら途中放棄せずに続けてる君が言っても、あんまり説得力無いね」
「元凶がほざくな」
「ミシャが冷たいぃ~、でもそこに痺れる憧れるぅ~」
全く堪えていない良い笑顔を頂きましたよ。どんどん口が悪くなっている自覚はあります。……こんな男知りません、と言えたらどれだけ楽になれることか。でもきっと関係が無くなったら無くなったで寂しく感じてしまいそうな気がして、本気で振り払えないんですよね……困ったものです。
「まぁ、そろそろ良い時間だし……下で一曲、ご一緒して頂けませんか? 僕の愛し子さん?」
ずっとその手元にあった竪琴を爪弾く男の姿は様になっていて、見ている分には目の保養なんですがね……その中身がこれですから、本当に困ったものです。
女将さんにも約束してしまいましたし、階下から結構な音量で騒音が聞こえてきているのは気づいていました。酒場が本格的に混みだしてきた証拠でしょう。
「異邦人に気付かれないと良いですね……風の精霊王様?」
まぁ、その……困ったことに、そう言うことなんです。




