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NPC用AIのVRMMO徒然日記  作者: NPC用AI
初日
18/35

16頁 初日から、街中パルクール

 畜産業組合は、天国でした。ぴこぴこ、ふりふり、ふわふわ、もこもこ、もふもふでした。職員の大多数が獣人だったんです。出入りしたことがありませんでしたから、知りませんでした。こんな天国が身近にあったなんて……。

 耳や尻尾など身体の極一部が獣なパーツ種、頭が獣なヘッド種、獣が二足歩行しているようにしか見えないウェア種。すべてのタイプがいました……ツナギの作業着を着て。受付の職員さんまでツナギ姿だったのはちょっとびっくりしましたが、女性のツナギもいいですね。仕事します感がビシバシでした。

 結局、うさぎさんに握手してもらっちゃいました。ふわふわでした。うさぎは肉球が無い生き物なんですが、うさぎさんもやっぱりありませんでした。何か不思議な感じがしましたけど、純粋に気持ちよかったです。ツナギには尻尾を出す穴があって、そこから出ていたうさぎさんしっぽがまた可愛らしくて、私のプログラムが暴走しかけてしまいました。

 暴走警告アラートが鳴ってしまいましたが、なんとか持ちこたえましたよ。


「……アブナイアブナイ」


『ピ?』


 私たちNPC用AIは基本的にログインしっぱなしです。何か問題が発生しない限りこの世界に降りたままいるわけです。が、そんなブラック社員な私たちにもちょっとした弱点があります。それが、感情の急激な高揚によるプログラムの暴走です。まぁ、私一人分のプログラムが暴走したところでマザー・ガイアやゲームには全く影響ありませんし、暴走してどうにかなってしまったとしても自己修復プログラムが組み込まれていますから特に問題は無いんですが……あまりにも暴走が酷すぎる場合は強制ログアウトになるんです。他のAIには影響を及ぼさないように、プレイヤーには変な誤解を与えないように、大事をとるわけです。

 ちなみに、暴走状態のままログインしていると、重症な風邪の状態になります。高熱、悪寒、頭痛、関節痛の状態異常がつくんです。混乱とか、高揚とかの感情異常だけで良いと思うんですがね。プログラム状態で異常状態になるのは自業自得ですから納得できますが、その影響がゲーム内のアバターにまで出るのは……ゲームの設定です。設定といえば聞こえは良いですが、突き詰めてしまえば、GMの嫌がらせなんです。

 生身の人間はログイン時間に制限があるのに、AIが何も制限が無いのはおかしいと思う……と、誰かが言い出したせいです。意味がわりません。こちとら仕事なんじゃ、って感じです、本当に……困ったものです。

 はっ、話が逸れてしまいました。……何が言いたかったかと言うと、暴走には段階があって、初期段階は警告アラートが鳴り、その状態で落ち着けば回避できると、それが言いたかったわけです。


「さて、今度こそお肉屋さんです」


 伸びに伸びたお肉屋さんに向かうとしましょう。

 採取鞄を地味に圧迫していた雑草も卵と一緒に売ってきました。毒のある草が何も混ざっていなかったようで、そのまま餌にするのにちょうど良い雑草だったみたいです。雑草にしては良い値をつけてもらえました。ウィンウィンですね。

 空いた鞄にクックを入れてあるので、好奇の目から晒されることは少し減ったような気がします。……いえ、やっぱり装備のせいか、視線をまだ感じます。しかし急ごうにも人が多いので、走ることが出来ません。困りましたね。あまり使いたくない手段を、使ってしまいましょうか。向かう先は、再びの裏路地です。


「もう少し待ってくださいね」


『ピッ!』


 良いお返事です。さぁ、今度こそ寄り道せずにお肉屋さんに行きましょう。

 しかし、何のお肉が良いですかね……鳥、牛、豚、羊、蛇、猪……いえ、家畜肉ではなく、魔物肉の方がいいかもしれませんね。自然の青雲鷲は森の奥深くと山にしか生息しませんから、家畜を食べる機会は無いと言って良いでしょう。消去法で魔物肉になります。まぁ、魔物肉の方が美味しかったりするんですがね。私は魔物肉の方が好きだったりします。

 そして、検証が山積みです。花と鷲の関係、雛の語解力、雛の肉の好み、その他諸々、雛に関係する検証が。

 あの宿屋、従魔可でしたっけ……ちょっと不安です。うーん……隠しておくと逆に怒られそうですから、事情を話して……もしダメだったら交渉しましょう。幸いにも懐は卵と雑草でさらにホクホクですからね。

 少し暗い裏路地に舞い戻って着ましたよ。……人は、いませんね。裏路地から更に暗い路地へ続く人が一人ギリギリ通れるところが一番良いんですが……ふむ、ここが良さげですね。両脇の建物は全ての雨戸が固く閉ざされ、何に使われているかわからない感じで、人の気配もありません。では、参りましょうか。


「せいっ!」


 踏ん張ると共に、【跳躍】が発動。高めに跳んでいます。跳ぶ先は、片方の建物の壁の出っ張り。さらに壁を蹴って【跳躍】し反対側の建物の上の方へ。目指すは、屋根です。……屋上があるタイプだったようですね、これは登り切るのが楽です。屋根が出っ張っていると腕力だけで逆上がりしなければなりませんでしたから。

 さて、登りきった建物の上からの景色は、絶景かな絶景かな。この町の建物の高さは一定以上の高さにしてはいけない決まりがあります。塔が見えるように、景観に配慮しているわけです。塔に向かって、屋根伝いに走り出します。いやぁ、人と言う名の障害物が全く無いって、最高ですね。

 裏路地の結構な奥の方にある建物を選んだせいか、大通りの雑踏は聞こえません。ちなみに、建物の屋根は様々ですが基本的には瓦です。と言っても煉瓦っぽい瓦ですが。冬になると雪が降りますから、雪が滑り落ちるように傾斜がついています。尾根を走れば、まず落ちることはありません。建物と建物の間を飛び越えなければなりませんが、そんなに開いていませんし、高さがすごく離れていると言うこともあまりありません。【跳躍】で充分事足りますし、【悪路走破】はパルクールとあまり変わりありませんし、結構なレベルに育っていますから問題ありません。

 大分塔が近くなって来ました。もう直ぐ東の大通りですね。降りましょう。面倒なので飛び降ります。ダメージを受けないように着地する技術も【跳躍】に組み込まれていますから、建物の高さくらいならダメージはありません。……そう考えると、あの木、実は相当でかかったんですね。

 裏路地を二本出れば、塔を中心にした環状広場が広がります。プレイヤーだらけです。これは、人ゴミが苦手な人には地獄でしょうね。露天商もちらほら見受けられます。食べ物系が多いでしょうかね。あぁ、小物売りも居ますね。

 さて、お肉屋さんは塔の南の大通りで比較的すぐ側にあったはずです。店仕舞いしていなければいいんですが……こんなこと言うとフラグになりますかね。

 早いとこ行きましょうか。

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