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NPC用AIのVRMMO徒然日記  作者: NPC用AI
初日
17/35

15頁 初日から、ふわふわうさぎさん

「残業は、いやぁあ~っ!!」


 帰りは裏口からです。誰かさんの声が外まで響いてきます。

 私は何も知りませんよ。採集したものは雑草を除いて、全て渡してきたことしかわかりません。多く渡したことで、追加の依頼料があの売り子さんから出され、懐はホクホクです……ふふっ。

 ついでに懐の雛は機嫌をようやく直してくれたのか大人しく顔だけ出して外を眺めています。……ここに来て成長が早くないですかね。孵化してから数時間しか経っていないはずなんですが。


「……取り敢えず、お肉屋さんにいきましょう。クックを捌いてもらわないといけませんからね」


『ピィイッ』


 これまでで一番甲高い声です。嬉しいんですかね。やっぱり、私の言葉わかってますよね。

 まぁ、今は捨て置きましょう。今はお肉の方が先決です。残念ながら私の【解体】はレベルが低すぎるので内臓を捨ててしまうことになります。勿体無さすぎます。レベルアップのためには練習した方が良いのですが……今回はハツと砂肝のために遠慮しましょう。


「アルテミシア!」


 今、後ろから一番聞きたくない人の声が聞こえたような……気のせいですね。狩人組合長の声が聞こえたような気がしましたが、気のせいです、きっと。

 さぁ、南の商店街にあるお肉屋さんに行きましょう。走りますよ!


「こら待てぇい! たまには組合に顔を出さんかぁっ!」


 やなこった。行ったら面倒臭い賞金首リストを押し付けられるのが関の山です。誰が行くものですか。私には今、この可愛い可愛い雛のお世話とその検証と言う大事な大事な仕事があるのです。行けるはずがありません。

 裏路地を走り、取り敢えず距離を取りながら、大通りへ出るわき道を探します。あ、ここから出られそうですね。迷わず細路地に飛び込み大通りへ一直線です。

 組合が並ぶ北の大通りは、まるで人がゴミのよう……いえ、人の海です。初期装備のプレイヤーでごった返しています。……この中を、私が歩くのは、大分浮いて見えるかもしれませんね。結構、レア度の高い装備ですから。私の装備の話なんて、そんなものはどうで良いです。お肉屋さんが私を待っているのです。

 ……いえ、その前に、クックの卵を売ってしまいましょう。組合の方が早く閉まってしまいますから。

 売る先は、畜産業組合か従魔組合のどちらかですね。両方とも北の大通りで一番外壁側にあります。

 畜産業組合は、畜産関係に重きを置いた組合です。普通の牛や豚から、畜産になり得る魔物を売買したり、副産物を市場に卸したりします。

 従魔組合は、従魔となる魔物を取り扱う組合です。魔物が従魔となり得るように躾けたり訓練したりします。ちなみに、隷属契約、なんてものはありません。主となりたいなら従魔に認められなければいけません。報酬、強さ、認められる手段は様々ですがね。


「あ、クック……」


 見ているのは畜産業組合の畜舎です。マジックミラーならぬマジックウォールになっていて、外からは獣の姿が見れますが、獣側からはただの壁にしか見えません。ストレスに配慮しているわけです。

 そんな畜舎の中に、クックの雌雄ペアがいました。大分若いですね。


「クックが気になりますか?」


「あ、いえ……飼いたいわけではないのですが、ずいぶん若い個体だなと思いまして」


 いつの間にか、隣には作業着を来た獣人が立っていました。組合の飼育員さんですかね。頭が完全なうさぎさんです。飼葉用のフォークを持つ手もうさぎさんのそれです。真っ白でもふもふふわっふわ、アンゴラウサギ系です……触りたい……。


「去年生まれた子達で、とってもおとなしいいい子たちなんですよ。でも、ちょっと子作りがうまくいかなくて、無精卵しか生まれなくて……取り上げるしかなくて……」


 それにしては、さっきから雌の方は頻りに卵をつんつんしていますが……あぁ、理解しました。


「擬卵ですか」


「よくご存知ですね! 本当はそのまま温めさせてあげたかったんですけど、無精卵は腐ってしまいますからね……」


 クックの体温は37度以上あるはずですから、そんなところに発生するはずのない、ぶっちゃけて言えば生卵をおいておいたら、腐りますよね、そりゃ。

 ちなみに、擬卵というのは、卵に似せたものです。材質は……何を使っているのかわかりません。よくある使い方としては卵を温めるのが上手ではない子に本物の卵の代わりに抱かせて人工孵化させた雛と交換したり、産卵期になると卵を一定数産み続ける小鳥の過剰産卵を防ぐために産んだ卵と交換したり……ですかね。


「最初の卵を抱いてから3週間くらい経ってますから、きっと孵らないことが不思議なんでしょうね……かわいそうなこと、しちゃいましたかね……でも、練習にはなるかなって思って」


 クックの卵は21日くらいで孵りますから……そうですね、三週間くらいですね。しかし、孵卵の練習ですか……いや、有精卵だったら戻すつもりだったんでしょう。それが無精卵だったから返すに返せなくなったままいると、そんなところですかね。腐りますものね、生卵なわけですから。

 目の前で可愛らしいうさぎさんがしょんぼりとうなだれます……これは、もう……如何ともしがたいです。


「私、これを買い取ってもらいたくて来たんですが……どれくらいの値段になりますかね?」


「え?」


 取り出すのは、もちろん、二つの卵です。目の前の超絶愛らしいもふもふが落ち込んでる姿なんて、見てられません。もふもふのためならなんとやら、です。


「明日とか明後日には孵るみたいなんですが、あの子たちに育てられますかね?」


「フライングクックの卵じゃないですか! きゃあぁあああっ!!」


 うさぎさんのテンションが天元突破してしまいました。垂れていた耳が立ち上がっています。あれ、その耳立つんですか。

 私の手にある卵に触ろうと手を伸ばしながらも、何かと葛藤しているのか触れずにあたふたしています。

 先程までのしょんぼり具合はどこかへ吹っ飛んでしまいました。これもまた可愛いです。


「狩りの最中に巣を見つけましてね……孵化前でしたから、畜産か従魔か迷っていたんですが……」


「買い取らせてくださいぃぃいいい!!!」


 ものすごい早さのうさぎさんステップで背後に回られたかと思うと、背中がふわふわな手で押されます。ここが天国か。

 こうして、私は畜産業組合へと拉致されました。まる。

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