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NPC用AIのVRMMO徒然日記  作者: NPC用AI
初日
14/35

12頁 初日から、自己責任案件 ③※虫

※ NPC用AIからの重要連絡 ※


蜂が飛び交う表現があります。

【自己責任】でお願い致します。

 川の流れは大分細くなりました。助走なしで飛び越えられるくらいの細さです。水浴びした辺りが川幅五メートルくらいでしたから、大分細くなって来ましたね。その両側は高さ五メートルほどの岩壁に挟まれ、足場も岩ばかりの険しいものに変わっています。

 この川を挟む岩壁には色んな生き物が巣を作ります。鳥類、虫類、爬虫類とよりどりみどりです。ほぼ垂直に切り立っているので敵に狙われることが少ないんでしょうかね。

 そんな垂直の岩壁を僅かな突起を頼りに登攀して辿り着いた蜂の巣は、岩壁の僅かな隙間に作られています。内部は大分広くなっているようです。森の中で見つけた最初の蜂の巣から数えてかれこれ十六ヶ所目くらいになるでしょうか。この時期は当たり外れが激しく、全くハチミツの無い巣もあれば、既に行動を開始してハチミツを蓄え始めている巣もあって、本当に運任せです。

 そう言いながらも、あと一瓶分のハチミツを採取してしまえば、ハチミツは終了し、最後の簡単な湧水採取に向かえるわけです。防蜂網帽子は、暫く前から被りっぱなしです。辺りに日差しを遮るものはなく、岩肌も白っぽいせいで照り返しも強いです。何を言いたいかと言えば、非常に蒸し暑いです。さっきの水浴びで濡れた髪が網の中で乾いて蒸発したようです。先程感じた寒さが嘘のようです。まじくそあっつくてやってらんない……はっ、つい本音が。


「……最後の巣になりますように」


 もう、声を出して祈らずにはいられないほどです。暫く蜂を相手にしたくないほど蜂を見て来ましたので、もう勘弁してください。

 取り敢えず、手を突っ込みます。革手袋越しのわずかな感覚を頼りに、蜂の巣を家捜しです。ちなみに、隙間を出入りする蜂を観察し、ハチミツを作る種であることは確認済みです。

 手を突っ込んだ途端に飛び出してくるのは蜂の大群。ハチミツが蓄えられた巣を持って引き抜いた手は蜂団子状態です。集られています。厚い革手袋越しですから、蜂の針が刺さることはありませんが、見ていて気持ちいいものではありません。

 ですが、ハチミツはしっかり蓄えられ始めていたようで、綺麗な黄金色のトロリとした液体が手持ちの巣から溢れています。瓶で受け止め、蜂が瓶に入らないように防御するのがまた面倒臭いのですが……そんなことを考えているうちに一瓶溜まりました。瓶といっても試験管ですからね、溜まるのが早いのは当然でしょう。ですが、もう一瓶分はありそうです。ポーチからもう一瓶取り出し、ハチミツを溜めます。もったいない、もったいない。

 耳元でブンブン、眼前でブンブン、手元でブンブン。うるさいです。なんて考えている間にもう一瓶溜まりましたね。重畳です。これでやめて置きましょう。手にあるハチミツの残りは巣に戻して、瓶はベルトポーチに仕舞い、岩場に降りていきます。蜂を伴ってのロッククライミングです。

 岩場に戻ると置いておいた鞄や弓を担ぎ直し、川上へ走り出します。気性の荒い肉食種の蜂とは違って、ハチミツ種は巣から距離をとってしまえばそれほど執拗に追って来ませんから、岩を駆け上ったり、跳び移ったり、滑り降りたり、跳び越えたりして、確実に離れます。スキル【悪路走破】の本領発揮です。言ってしまえばパルクールなんですが、スキル【パルクール】……は、ちょっと個人的感覚から遠慮したいです。

 羽音が全く聞こえなくなったことを確認してから、ハチミツまみれの革手袋を外し、防蜂網帽子を脱ぎます。あぁ、網越しでない川風の心地よいこと。堪りません。が、あまり涼んでもいられません。さあ、最後の採集地に向かいましょう。


『ピィピィ』


「お腹……はまだ減りませんよね?」


 胸元で動く気配に装備の首元を少し寛げて覗き込みます。はて、孵化直後ですからまだお腹は減らないはずなのですが……おや、目が開きましたね。真っ黒なまんまるおめめです。


『ピィ?』


「はい、何ですか?」


 首を傾げる姿が、堪りません。頭が重くてそのまま、胸に倒れこむ姿もまた可愛らしい。つられて私まで首を傾げてしまいました。おかしいですね、こんな可愛い子ぶったような仕草はしたことすら無かったのですが。私は同年代で同性設定のNPCの中では比較的長身の部類に入ります。そんなヒョロナガ女が可愛い子ぶっても誰得って感じですよね、本当にすみません。忘れてください、ほんとに。


「水を採集したら、町に戻っておいしいお肉をあげますからね」


『ピィ!』


 もう食い気を発揮しているのでしょうか。いえ、まさか私の言葉を理解したとか……そんなはずがありません。偶然でしょう。ですが、早急に帰るべき理由ができました。


「もう少し、辛抱していてくださいね」


『ピッ』


 返事でもするように短く鳴いたかと思えば、雛自ら、懐の奥の方に潜っていきます。くすぐったいです。しばらくもぞもぞ動いたかと思うと、落ち着ける態勢にでもなったのでしょうか、その場で動かなくなりました。……やっぱりわかるんですかね、言葉が。まぁ、今は置いておきましょう。帰ったら要検証、です。

 それでは気を取り直して、首元をしっかり着直して。

 さあ、走りますよ!

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