story5 幸せの先
もしかしたらまだいてくれるかもしれないという期待と共に私は急いで帰宅した。
「ただいまー…」
なんて。いるわけないか…
「おかえり」
「…あ」
嬉しすぎてなのか、でも幸せなこの状況がいつまで続くか分からない不安もあってなのか、視界がぼやけた。子龍くんが目の前にいる。あり得ないことだからこその儚さも胸を苦しくさせる。
「うう…」
「ちょ、どうした!?えっと…あ、ほらティッシュ!」
「あり…ありがとううう」
「ほら…ごめん勝手に台所使っちゃったんだけど、夕食作ってみたから食べない?」
そうだった、子龍くんは料理できる系男子。漫画の中でもよく料理してて、食べたいなーとか思ったりしてたな…。そんな子龍くんの手料理が食べれるなんて。
…とか言っちゃったらストーカーとかと間違われるかもだから言わないけど。
「うぅぅ食べるうう」
「どうぞ、面白いね詩音って」
クスッと笑う子龍くんに思わずドキッとする。こういうのを甘い笑顔だとか言うんだろうか。心臓がもたない…
料理は想像以上の美味しさだった。全部冷蔵庫の残り物を使ったらしかったが、そうとは思えないほどだった。
「美味しかった!ごちそうさまでした」
「ほんと?口に合って良かった」
幸せだ。この幸せがいつまでも続いたらいいのに…。と、その時子龍が言った。
「あのさ、オレこれからのこと考えたんだけど。とりあえずどこか住むところ探そうと思って」
スッと体が急に冷たくなった。そうだ、こんな幸せずっと続くわけがないんだ。
「この辺のこと知らないからさ、色々教えて欲しくて」
「こっ…」
口が勝手に動いた。
「…こ??」
「こ、ここに…住んでも大丈夫…私は、私は大丈夫だけど!!」
「…へ?」
呆気にとられたように子龍くんの動きが止まった。と同時に私は遠回しな「一緒に住もう」発言がとてつもなく恥ずかしくなってフリーズしてしまった。
しばらくの間沈黙が部屋を包み込む。