story4 桔梗への恋心
オレは須藤子龍。
なぜか目が覚めたら違う世界にいた。何が起こったのだろう、本当に。
この部屋に住む詩音がいい人そうだったのが何よりの救いのような気がしている。同い年くらいだったかな。詩音は見知らぬオレのために朝食まで用意してくれていて、オレの大好きなカレーだった(朝から重い気もするが)。
「…うまいな」
食べながら考える。これからどうするのか。とりあえず、しばらくは帰れないかもしれないが、そうなるとずっとここにいるわけにはいかない。
食べ終わり周りを見渡すと、さっき詩音がしまい忘れた漫画がふと目に入った。1ページずつめくってみる。どの場面も思い出は頭にあるが、その絵の中からオレは消えていた。
オレは漫画の世界の人だったのか…
まだ信じられない。でも、信じるしかないようにも思える。
「愛日、…桔梗…」
もう二度と会えないのだろうか。オレがいない方が2人は上手くいくのかもしれないけど、オレは…
「桔梗に、好きって言っときゃ良かった」
この世界では、桔梗の動く姿とかを見たり、声を聞いたりすることができないようだ。
”子龍くん!”
桔梗の声が蘇る。
”私は子龍くん好きだけど”
最近は慣れてきたが、桔梗は勘違いさせるようなことをさらっと言ってしまう人だった。オレはそんな無邪気なところに惹かれたのだ。でもいつからかこの恋が叶わないことに気づいていた。もしかしたら、オレの名前の由来ーーコリウス[叶わぬ恋]に気づいてしまった時からかもしれない。
オレが、愛日や桔梗たちの世界にいようと、この世界にいようとこの恋は叶わないけど、もう少しだけ想っていてもいいだろうか。いつかもし帰れたら、伝えるだけ伝えたい。
好きだ、桔梗。




