最終話 花恋に永遠を
私、詩音の腕を掴んだ子龍くんの手は家に着こうとする今になっても離れない。
「子龍く…」
「待って」
「え?」
待つって何をだろう…と思い、前を歩いていた子龍くんの隣へと走り寄った。子龍くんの顔を覗き見ると、赤くなっていた。
「見ないで」
「え」
「ちょっと今ダメだから…」
「何が?」
「さっきまでは両想いってことになってなかったのに、勝手に嫉妬してたし…。両想い、てなったらなったで、すごい恥ずかしいっていうか…」
顔が赤くなるのは伝染するんだろうか。顔が熱い。心臓がもたないような気がして、話題を変えた。
「…き、桔梗ちゃんは…?」
少しの沈黙の後、子龍くんが答える。
「一旦漫画の中の世界に戻ったでしょ、オレ。したら何か物足りなくてさ、何だろうって考えてたんだけど」
「うん」
「詩音がいないからだなーって」
「え?」
「詩音と花に囲まれて夕飯食べたりするのが、オレにとってすごい幸せな瞬間だったんだなぁって思った」
その言葉は暖かく、胸に沁みるようだった。
「私も子龍くんがいないと寂しかったよ」
子龍くんといると、ドキドキが止まらないのになぜか安心できる。とても不思議で…幸せだ。
急に、あ、と子龍くんが立ち止まった。
「これ渡すの忘れてた」
子龍くんが紙袋をガサゴソあさる。そういえばさっきから子龍くんは大きめの紙袋を手から下げていた。その中から出てきたのは…
「花束…!」
「そう、はい。ちょっと早い誕生日プレゼント」
「え、何で誕生日…」
「シオンって秋の花だから、勘(笑)やっぱりもうすぐなんだね」
「うん。ふふ、ありがとう…キキョウにアイビー、ルコウソウ、アカシア、トリトマ、カーネーション…あ、シオンとコリウスも」
あまり花束に使われない花も多いようで、少し不恰好だった。それでも、私にとっては綺麗に見える。
「季節とかの問題もあって、本物の花は用意できなかったんだけど」
そう、全部造花だ。それでも私は、この花たちを集めてくれたことが何より嬉しかった。
「オレは花の儚いところもまた好きだけど、詩音と過ごす時間は儚くあってほしくない。…だからその花束が枯れるまで、一緒にいてほしい」
「…嬉しい、嬉しい…。大事にするよ、この花束、絶対枯らさない」
「…造花枯らすとか難易度高いんだけどね」
ふ、と2人で微笑み合う。
「さ、もうすぐ家だ。今日の夕飯はオレが作るよ」
ーー違う世界にいた私の片想い人が急に姿を現した。この不思議な現象は何故起こったのか、これから何が起こるのか。誰も知らないし分からない。でも、曖昧で儚げに見える私たちの関係を、確かに繋ぐものがそこに存在する。それは花。これこそ儚いものだけど…
子龍くんからもらった花束を抱きしめ祈る。
”花のような恋に、どうか永遠を与えてください”
ー花恋に永遠をー
END




