story22 一生をかけて
”オレも好き…?”
何が起こっているのかよく分からなかった。子龍くんが戻ってきたのも驚いたけど…あれ、子龍くんがここに存在すること自体が既に科学的には証明できないことなんだよね。そんな子龍くんが私のことを好きって…これは夢だろうか。それから鳥戸間くんのこともまだ解決していない。頭がパンクしそうだ。
「あの」
鳥戸間くんの、私たちを呼び止める声に反応して、子龍くんが立ち止まる。
「子龍…でしたっけ。この世界の人ではないんですよね」
「…そうだね」
「そんなんで花咲を幸せにできますか」
「…」
幸せにできる、と言ってくれるだろうか。言ってほしいというのが私の望みだけど。
「オレは前好きな人がいたんだ」
桔梗ちゃんのことだ。
「でも突然会えなくなった…。辛い思いもしたよ。でも、そんな中で幸せをくれたのが」
ふと子龍くんは私の方を見る。そして微笑んだ。出会った時と変わらない、甘く優しい笑顔。
「詩音だった」
そして続ける。
「いつの間にか、詩音といる時間がずっと続けば良いと思ってたよ。でもそれもまた長くは続かなかったんだ。なぜか分からないけど、オレはまた在るべき場所に引き戻された」
いなくなって元の世界に戻ってしまったのは、子龍くんにとっても突然のことだったんだと理解する。
「戻って、改めて感じたんだ、詩音に会いたいって。もしもう一度だけでも会えたなら伝えたいとも思った。好きっていう気持ちをね」
「子龍くん…」
「オレは本当はこの世界の人じゃない。だから一生詩音を幸せにしてあげられるかは分からない。けど、一生一緒にいたいと思ってるよ」
思ってるんだ、と私に向けてもう一度言った。強い意志を持っているように見えながら、それでもどこか不安そうな目。いつ自分が消えてしまうか分からないという気持ちからだろう。
「…は」
鳥戸間くんが寂しそうに笑った。
「何なんだよほんと…」
「…ごめんね、鳥戸間くん。私にはやっぱり子龍くんしかいない」
「ああ、そうらしいな…うん。ほら、行けばいい」
私は子龍くんにずっと腕を掴まれた状態だったのに今気づいた。行こうか、と子龍くんが微笑む。
「うん、…鳥戸間くんばいばい、また学校でね!」
「ん」
そして私たちは歩き出した。2人で帰ろう。これからもずっと、こんな日々が続きますように。




