story19 奇跡、そして
「ほー、なるほど…」
大体の説明を聞き終えた母はそう言いながら少し考え込んだ。そしてその後すぐ、ふふ、と笑った。
「素敵じゃない!」
「…えっ?」
予想外すぎる言葉に私と子龍くんは驚きを隠せない。
「まるでおとぎ話だわ!運命の出会いってやつかしら…あ、こんなこと言うのはきっと母親としてダメなのよね…でも!」
母が子龍くんの顔を見る。
「子龍くん、この子はきっと良い子だと思うのよ。初めて会った時からそんな気がする!だから2人で住むの許すわ。その代わり詩音に何かあったら…。分かってるわよね?」
子龍くんの緊張して強張っていた顔がふっとやわらいだ。
「…はい。ありがとうございます」
「よし、じゃあ私は帰ろうかしら」
帰り際、母は私だけに「応援してるわ」と意味ありげな笑顔で囁いていった。見送ってから部屋のテーブルに花が置いてあるのに気づく。母が置いていったのだろう。子龍くんがそれを手に取る。
「青いバラか。綺麗だな」
あとで調べたけど、花言葉は”奇跡”。母は青い花が好きなのか、それとも花言葉を知った上で花を買っているのか…。謎が多い人だなと思う。
ーーーそれから数ヶ月が経ち、真夏日が続くようになった。
久々に花恋の新巻が出たため、下校中に遠回りをして本屋に寄り、私はご機嫌で家に向かっている。今日の夕飯は私が作っちゃおうかなぁー、いつも子龍くんに任せっきりだもんね、今日はバイト休みらしいけどたまにはゆっくりしてもらわなきゃ。と住み慣れたアパートのドアを開く。
「ただいまー!」
部屋には誰もいなかった。
「あれ…子龍、くん…?」
出かけてるのかな…そう思いたい。色々な不安が私を襲う。
「子龍く…」
無意識のうちに涙が頬を伝った。今日はバイトがないから家にいるって言ってたのに…。ハッとした私は、本棚にある花恋の一冊に手を伸ばす。
ページを開いた瞬間、私の中の何かが崩れ落ちる音がした。




