story16 トランプ
「にしてもほんっと花多くね?」
そう言ったのは赤石阿くんだった。なんだこいつ馴れ馴れしいな、チャラいな、と思ったら負けな気がする。
「この香りだよー!詩音の香り!とっても落ち着く〜」
琉香は楽しそうに部屋中の花を見て回っていた。もう1人…鳥戸間くんはあまり喋らない人なのかもしれない、ずっと無言だ。というか琉香意外はほぼ初対面なんだよね。一言二言話したかなってだけで。琉香と赤石阿くんは幼馴染らしいけど。ずっと花を見ていた琉香が急に「あ」とバッグを漁り始めた。
「あたしトランプ持ってきたんだ〜ほんとはもっと大きい何かを持って来たかったんだけどさすがに荷物だったんだよねぇ」
「いいじゃんトランプ、オレすげえつえーよ!でもババ抜きとかだったら鳥戸間に勝てる気がしねぇかも、ポーカーフェイスだもんな」
その時初めて鳥戸間くんが口を開いた。
「…別にそんなことない」
「なんだよ鳥戸間ー!今日テンション低いな!?」
「低くない」
2人のやり取りは凸凹な感じで、聞いてて意外と楽しかった。そんなこんなでババ抜きを始め、接戦を繰り返したのち、いつの間にか5時になっていた。
「なんだよもう5時?ババ抜きしかやってねーじゃん、てゆーか全部鳥戸間の勝ちだし!」
「ほんと強いね」
「ねー、あたしはもう疲れたよ…夕飯作る元気がない〜」
お、と思った。
「じゃあ今日はこれで解散にしようか?」
驚いた顔で琉香が私を見た。
「何…言ってるの…?夕飯は詩音が作ればいいと思うよ…私はそれを食べたら帰るから…!」
「え、なに言ってるの、私!?」
なんでそんな面倒くさいことに。楽しいけど!楽しいけどお願いだから早く帰ってほしい。
「花咲!大丈夫だ鳥戸間がついてる!」
赤石阿くんの謎のフォロー。それは、私に夕飯を作れということか。
「…は、なんで俺が」
そりゃそうだ。
「小さいこと気にしてたらハゲるぞ!分かったら2人で夕飯を作るんだ」
「あたし達はデザートになるもの買ってこようか、そういうの何も買ってなかったし」
引き止める間もなく、じゃ、と言って琉香、赤石阿くんが出かけてしまった。
私はしばらくドアのところに立ち尽くしていたけど、そっと鳥戸間くんの方を振り返った。
「えっと…とりあえず作ってみる…?夕飯」
「…ああ」
どうしよう、色々…この空気、それから、子龍くんが帰ってきてしまう件についても何も解決していないのに。




