story12 今日の夕飯
「さ、今日の夕飯はオレが作るよ。何食べたい?」
ようやく、私の気持ちがすっかり落ち着いたのを見計らって子龍くんが言った。
「オムライスが食べたい!」
「オムライスねー。そうだ、さっき言い忘れてたんだけどその花さ。道案内したらその女の人にもらったんだ」
「へぇー青のカーネーションだ!お母さんが好きなんだよね。花瓶に挿しとくね!」
「うん、ありがとう。…やっぱりあの人は詩音のお母さんだったのかな。名前は花咲寧さんらしいんだけど」
「それ私のお母さんかも、会ったの!?何で!?」
「花屋で声かけられて、娘の住んでるとこに行きたかったけど道に迷っちゃって諦めた、て話されて。近くの駅教えたんだ」
「そうなんだー。今日来るって言ってなかったのになぁ」
「…」
急に子龍くんが黙り込む。そして気まずそうな表情をした。
「子龍くん?どうしたの?」
「…あー、いや。寧さんが、悪い男連れ込んでないか抜き打ちテストで来たって言ってたから。…オレは悪い男に分類されるのかとか考えるよな」
あんまり真顔で言うので思わず吹き出してしまった。
「子龍く、子龍くんが悪い男って…ふふ」
「それはどういう意味だ」
「褒めてる!褒めてるから!ふふふ」
「もー、何なんだよー。詩音は急に泣いたり爆笑したり忙しいな」
「そんなこと言われたの初めて…」
子龍くんといるからだろうか。私はすぐ泣く子でもないし、たくさん心の底から笑うこともあまり無い気がする。子龍くんが私をそうしているんだろうな。
「ほら、出来た」
今日も子龍くんが作った夕飯はとても美味しかった。明日は何を作ってもらおうかな。そんなことを自然に考えられるのは、とても幸せなことなんだと思う。




