story10 帰り道
オレ須藤子龍は、バイトが予定よりも早く終わり、帰路についているところだ。
最近オレは小さな花屋を見つけた。昔から花が大好きだったこともあり、バイトの帰りには必ずと言っていいほど寄っている。 今日は店先の花を見ていこうか。と、ざっと目を通していた時だった。
「あらー、イケメン!私タイプだわぁー」
いきなり隣から耳元で大声を出され、思わずびくっとする。横を見ると、青のカーネーションの花束を抱えた、自分の母と同年代くらいに見える女の人が笑顔でこっちを見ていた。
「私の娘があなたと同じくらいの年なのよー。高校生なのに一人暮らしだから悪い男とか連れ込んでないか心配でね!もー、抜き打ちテストしちゃおうと思って何も連絡しないでここまで来たの私。でもね、ふふふ。迷っちゃって。ここがどこだか分からないのよー」
饒舌な人らしく、すらすらと言葉が出てくる。オレはやや圧倒された。
「え!?携帯とかは…」
「あー携帯ね!家に忘れて来ちゃった」
「えぇー…」
「でも今日またこれからあの子んとこを探すのはもう面倒くさいからまた今度にするわ。帰りたいんだけど、近くの駅とかバス停とかを教えてくれないかしら」
「ああ、それなら…」
とりあえず、近くの駅まで案内した。方向音痴な人のような気がしたのであえて言葉で説明するだけの道案内は避けたからだ。
「まあーありがとう、助かったわ。あなたかっこいいだけじゃないのねぇ。あ、ここまでしてくれたのに名乗らないのは失礼よね。私、花咲寧といいます。あなた花が好きなの?」
花咲、聞き覚えがある…花咲…、まさかこの人詩音の…!?
「そ、そうですね、花好きです」
「じゃあこれあげるわ!ホントは娘にあげるつもりだったけど、家に持って帰っても枯らすだけだしね」
その人がずっと持っていた青のカーネーションの花束を半ば押し付け気味に渡された。
「え、でも悪い…」
「いいから!私カーネーションの中でも青が一番好きなのよ、色も花言葉もロマンチックでしょう?ふふふ、じゃあ今日はありがとうね、あなたとはまたいつか会える気がする!」
「え、あの」
青いカーネーションと一緒に取り残されたオレは、また詩音がいるアパートへ向かう。赤いカーネーションはよく見るけど青いカーネーションは普段あまり見ないし、母から娘にカーネーションを贈るというのも少し不思議だった。詩音のお母さんだったのだろうか…帰ったら聞いてみよう。
「青のカーネーション、は何だったかな」
ああ、”永遠の幸福”だ。確かにロマンチックかもしれないが、今はまだ永遠の幸福なんて信じることができない。いつかオレにもそれを感じられる日が来るだろうか…。




