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閑山自撰詩篇

歯磨き

作者: 竹井閑山

あなたは歯磨きにどのくらい時間をかけますか

私は少なくとも8分かかります

えっ 8分は長いって?

とんでもない

8分より下は歯磨きのうちに入りません


お風呂掃除を考えてみてください

ひとつところをゴシゴシと

何度こすれば汚れが落ちるか


一本の歯の磨きどころは三面あります

表と裏と 上または下

その一面につき 軽く5秒は磨きます

一本の歯を磨きあげるのに最低15秒かかります

歯はうえしたに16本ずつとして

15かける32は ほうら8分かかったでしょう


歯を磨くのは歯を白くするためだけではありません

虫歯を防ぐためだけでもありません

昔の人はいいました

歯をていねいに磨くと出世するよ

私は出世こそしませんでしたが

健康体でいられました


「白玉の歯にしみとほる」の白玉は

白魂でもあるのでしょう

人間の骸骨の唯一露出している部分

白魂を磨くと必ずいいことがある

私はそう信じたものでした


今でも歯はていねいに磨きます

明日死ぬ人の磨きかたではありません

ほとんど無意識に歯ブラシが動くので

無意識も明日生きたがっているのだとあきれます

感心するというべきでしょうか


体が健康で無意識も健全

中間の意識だけがだだをこねます

意識はどこに露出するでしょう

どこを磨けば意識が高いと評価してもらえるでしょう


 白玉の歯にしみとほる秋の夜の酒はしづかに飲むべかりけれ


若山牧水はのちに第五句を「飲むべかりけり」と改作しました

牧水の意識の高さはこの推敲に表れています

たった一字の違いですが

白玉を丹念に磨きあげ

「れ」を「り」にまるくおさめました


 べくべからべくべかりべしべきべけれすずかけ並木来る鼓笛隊


私もまた

リストカットにて世を去った永井陽子の

代表歌の上二句を借りて

うたいおさめるといたしましょう


 べくべからべくべかりべし人の世は清濁併せ呑むべかりけり




(注)

 上記永井陽子の掲出歌は『樟の木のうた』(1983年)より引用。

 さらに遺歌集『小さなヴァイオリンが欲しくて』(2000年)から次の三首を挙げる。


 人の死の後片付けをした部屋にホチキスの針などが残らむ

 死ぬまへに留守番電話にするべしとなにゆゑおもふ雨の降る夜

 人間はほんにしみじみやさしくてやさしすぎたる者は死にゆく 

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