表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ジキルとハイド

作者: 潮路

「さて、どうしようか」


 男は目の前の状況を見て、そう呟いた。  


 綺麗な七三分けである。整ったハンサム顔に、鋭い眼光が宿る。

 その顔には不敵な笑みが、その腕にはロレックスの時計が付いている。

 全身がブランド物に包まれ、圧倒的な優雅さを生み出している。

  

 どうすればこの状況を打開出来るのか。そもそも打開出来る状況なのか。


 幾度となく浮かべてきたその問いを、男は心の中に投げ込んだ。

 

 しかし、結論はいつだって一緒だった。


(決まっている。打開出来る、出来ないではない。打開するのだ)


 男の名前は安城。誰もが羨むエリートサラリーマンである。

 大手コンサルティング企業の幹部であり、数千人の部下をまとめ上げている。

 社長の右腕として働いてはいるが、実質的に会社を支配しているのは安城であった。

 恐ろしいまでの事業範囲、手際の良さ、無秩序さにより、対抗馬も対応に四苦八苦している。


 だが、安城にとってそんなことはどうでもよかった。

 経済紙で連日絶賛されようが、売上を10倍にして企業の社長から感謝されようが、抱かれたいランキング首位だろうが、政治力を所持しようが、である。

 取り立てて興味もないし、動じるようなものでもない。

 この快感を覚えてしまった自分にとって、この世のすべてがどうでもいいものだ。

 そんなことを考えてはニヒルを気取る。それが安城の癖になっていた。

  


(もう、引き返すことは出来ないだろうな)


 男は溜め息を吐きながら夜空を見上げた。


 ボサボサの髪に、無精髭。だらけきった顔に、血走った目。

 その顔には自嘲的な笑みが、その手には血濡れのナイフが付いている。

 傷だらけのジーンズのポケットには、しわくちゃになった一万円札が数枚、乱雑にねじ込まれている。

 

 どうしてこんなことになったのだろう。どうしてこんなことをしているのだろう。


 幾度となく浮かべてきたその問いを、男は心の中に投げ込んだ。

 

 しかし、結論はいつだって一緒だった。


(そんなの、こんなことをヤろうと思った奴に訊いてくれ)



 男の名前は野崎。閑静な住宅街で発生した恐怖の連続通り魔である。

 ここ一か月で既に二桁以上の住民に危害を与え、その中には重症を負った者もいる。

 場所、時間、老若男女問わず、通りがかりにナイフの餌食にする。

 恐ろしいまでの出没範囲、手際の良さ、無秩序さにより、警察も対応に四苦八苦している。


 だが、野崎にとってそんなことはどうでもよかった。

 テレビで連日放映されようが、餌食となった中学生の母親が泣きわめこうが、警察が苦慮してようが、捕まって死刑になろうが、である。

 取り立てて興味もないし、動じるようなものでもない。

 動機すら思い出せなくなった自分にとって、この世のすべてがどうでもいいものだ。

 そんなことを考えてはニヒルを気取る。それが野崎の癖になっていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ