双子白雪姫
それはとある国のこと。白雪姫と噂される者がいた。雪のように白い肌、血のように赤い唇、黒檀のように黒い髪をもつ双子だった。白雪姫は美しく可愛いというのが世間の評価だ。そんな二人を生んだ王妃は亡くなってしまい、王は新しい妻を迎える。後妻になった王妃は美しく愛らしい二人を溺愛し、今や婚約者探しに必死だった。
「鏡よ鏡よ鏡さん、世界で一番美しいのはだあれ」
「それは白雪姫っすねー」
「鏡よ鏡よ鏡さん、世界で一番可愛いのはだあれ」
「それも白雪姫っす」
随分軽い口調ではあるが、魔法の鏡は真実を言葉にした。王妃自身も美しいが、彼女は悔しがることもせず満足そうに頷いた。
「そうよね! それなのにあの子たちは婚約者も決めず、もう十六歳になってしまったわ! これは何としても結婚相手を探さないと!」
「白雪姫のガードがかたいっすからねー。まずは白雪姫を引き離さないと」
「どっちの白雪姫よ」
そう。この国には、白雪姫と噂される者が二人いるのだ。美しく可愛らしい二人は白雪姫と呼ばれ、親しまれていた。しかし、今回のように話す時に区別がつかないのが難点だった。
「姉の白雪姫をガードしてるのは、弟の白雪姫っす。思ったんすけど、どうして二人とも白雪姫で?」
「それは美しくて、可愛いからよ! 当然ね」
「逆に分かりにくくないっすか? あっしは普通にスノウ姫、ホワイト王子と呼ばせてもらうっす」
その後、おっとりした姉のスノウを森に連れて行き、そこでお見合いさせようという話になった。その様子を盗み聞きしていたのがホワイトだ。
「スノウにお見合いだって!? そんなの僕が認めた奴しか許さない。断固として拒否だ!」
彼は大変シスコンだった。姉な余計な虫がつくのをよしとしない彼は、早速姉に入れ替わろうと話をもちかけた。顔立ちが似ているため、化粧をしてカツラをしてしまえば今までばれたことはない。悪戯好きなホワイトは、スノウとよく入れ替わって遊んでいる。そのためスノウは何の疑問も思わず、仕方ないわねと了承した。
ホワイトは予定通りに姉の身代わりとなって、猟師によって森に連れられた。美味しい猪を捕らえるので一緒に食べようという誘いだったが、すでに王妃の狙いを知っているホワイトは油断しなかった。猟師が猪を捕らえようとしている隙に抜け出し、姉のお見合いを壊すため、それらしき建物を探す。そして森の中だというのに立派な屋敷を見つけた。ホワイトは屋敷の扉を開く。
扉を開けると、そこには平均男性より身長が低めの男がいた。見たところ、三十半ばだろうか。焦げ茶色の前髪を後ろになでつけ、執事のようなフォーマルな服を着ている。褐色の瞳は年齢を感じさせる知性の光が宿っていた。身長はホワイトより低いが、彼の紳士らしい雰囲気はおっとりした姉を大切にしてくれるかもしれない。そこまで考えて、彼は頭を振る。
だめだ、姉を守るのは僕の役目なのだから。
「おや、白雪姫様でいらっしゃいますか? わたくしはこの屋敷の」
「スノウはお前には渡さないからな!」
おっとりしているスノウ姫のはずが、眼前の姫は苛烈な瞳を輝かせている。彼は目を瞬かせ、なるほどと一人納得した。眼前の美しい姫は双子だった。スノウではないとすれば、消去法で自ずと分かる。
「ホワイト王子でいらっしゃいますか。ですが、安心なさってください。わたくしはこの屋敷の管理人、エリクです」
「ホワイト、この屋敷に入ってどうしたの?」
ホワイトの後ろから、城にいるはずのスノウが顔を覗かせた。ホワイトはいつも何かしらの悪戯をして、騒ぎを起こす。彼女はそんな弟を心配して、こっそり着いてきていたのだ。彼は彼女が来ては意味がないと顔をしかめた。
「スノウがどうしてここに」
「だって。ホワイトったら、たまに無茶するじゃない」
「今回はそんなのじゃないって」
「おやおや、仲がいいのですね」
にこやかに笑っているエリクを見て、スノウは頬を染めた。ホワイトは嫌な予感がした。まさか、惚れたなんてことはないだろうな。
「ねぇ、ホワイト。こちらどなた?」
ほら、予感的中だ。スノウは目を輝かせて双子の弟に尋ねた。恋を知った姉はとても可愛く見える。答えたくないけれど、スノウの質問だ。顔をしかめ面にして答える。
「この屋敷の管理人エリクだよ」
「初めまして。お会いできて光栄です、スノウ姫」
「初めまして! 私もお会いできて光栄ですわ、エリク様」
「スノウ姫、エリクで十分ですよ」
スノウは紹介された管理人を好きになってしまったようだ。それから、ホワイトはお見合いを壊すために住み着くようになり、スノウはそんな彼が心配だという名目で、彼女も住むようになった。
「鏡よ、鏡よ、鏡さん。世界で一番お嫁さんにしたいのはだあれ?」
「それはスノウ姫っすねー」
「鏡よ、鏡よ、鏡さん。世界で一番お婿さんにしたいのはだあれ?」
「それはホワイト王子っす」
「そう、二人は誰もが結婚したい存在なのよ! それなのにあの子たちったら、家出しちゃうなんてっ……」
王妃はさめざめと泣いた。鏡は内心、縁談を持ちかけすぎて逃げられたんじゃ……と思ったが大人しく黙っておいた。鏡を割られたらひとたまりもないからだ。
「でも、お見合い相手の王子が来るまでスノウ姫をあの屋敷にとどめておけば、バッチリお見合いできるっすよー」
「そうね! そうよね、鏡! これは私の華麗なる作戦なの! さすが私!」
「さっきまで泣いてたのは誰っすかねー」
「鏡、割るわよ?」
鏡は静かになった。そして王妃は考えた。王子とのお見合いのために、プレゼントをしようと。そうと決まれば即行動が王妃だ。
「あのー、王妃。何してるんすか?」
王妃は黒いローブを着て、大きな薬釜で何かを煮始めた。怪しい干物も入れているようだ。すでに、鍋の中はおどろおどろしい色をしていた。
「スノウ姫が王子を射止めることが出来るよう、魔法をかけた腰紐を作るのです! そして、よからぬ男に襲われるようなら、キュッと首に巻きつくものを作ります」
鏡は思った。そんな物があったら、姫さんの出会いが遠ざかるんじゃないっすかねと。しかし、賢明な彼は口を閉ざした。
一方、スノウ姫は初めての恋に夢中になっているようだった。彼はエリクが姉にふさわしいか見極めてやると意気込んでいた。
ある昼下がりに物売りが来た。ちょうどエリクが買い出しに行っている時のことだった。ホワイトが窓から見たところ、黒ずくめで怪しい。これは姉のお見合いのための仕掛けだと思った彼は、姉に家を出ないよう注意する。姉になりすまして家を出ると、黒いローブの女が腰紐を進めてきた。
「この腰紐はいいですよー。狙った男を落とすことができますから。また、不埒ものからはこの腰紐が守ってくれます! どうですか!?」
並々ならぬ物売りの熱意にホワイトはおされたが、明らかに怪しいと感じた。狙った男を落とすと言っているが、物売りの持ってきた腰紐はまるで蛇のようにピチピチと跳ねている。あれでは意識不明にする方の落とす、ではないだろうか。
「さあさあ、この腰紐をつけてみてください」
ホワイトは蛇のような腰紐を見て、覚悟を決めた。
「まぁ、何て素敵な腰紐かしら。肩こり改善によさそうだわ」
ホワイトは腰紐を掴んで、腕をブンブン回して草陰に放り投げた。物売りはしょぼんとしたが、奇跡が起こった。腰紐は運命の相手と出会ってしまったのだ。蛇とラブラブになった腰紐は寄り添いながらどこかへ消えた。物売りは呆気にとられた。実は物売りは姿と声を変えた王妃だったのだか、腰紐がなくてはどうにもならない。彼女はそのまま帰った。いろいろツッコミたかったが、ホワイトは結果オーライだと思うことにした。
数日後、物売りが櫛を売りに来た。例の黒いローブの女だ。今回も姉になりすましたホワイトが彼女に会う。
物売りに化けた王妃は考えた。香りから始まる恋もあるのではないかと。王子とのお見合いの前に櫛で髪をとかせば、髪に恋をしたくなるような匂いがつく櫛を作った。
「この櫛はどうですか? 恋する香りつきですよ。髪を櫛でとかせば、匂いがつきます」
ホワイトは櫛を見て、顔を引きつらせた。確かに櫛にいい香りをつけたのだろう。しかし多くの香りが重なり、もはや刺激臭となっている。どうすべきか考えた時、エリクが通りかかった。ホワイトはエリクを呼び寄せて、彼の頭に櫛を通す。
「この香り、好みじゃありませんから結構です」
ホワイトは物売りに櫛を返した。物売りは「そうね。好みの香りを考えるのを忘れていたわ」と素直に帰った。
エリクはそんな匂いをつけられたことにギョッとしたが、我慢した。匂いがキツいので、すぐ風呂に入ろうと決意した。
エリクが風呂から上がって髪を乾かそうとしたところ、スノウがタオルを渡してきた。まるでお嫁さんみたいなことをするなと思ったが、彼は表情には出さず、受け取る。
「髪を下ろしたエリクさんも、素敵ですね」
スノウの笑顔にエリクは思わず見とれた。しかし、ホワイトのシスコンぶりを思い出して、気を取り直す。そうですかと流して、髪を整えた。
王妃は諦めなかった。必ずやお見合いを成功させると、物売りに化けて再びスノウを尋ねる。いつもスノウになりすましたホワイトに返り討ちにされるが、先ほどお見合い相手の王子からは、到着が遅れると連絡があった。今回が最後のチャンスだ。王妃は恋する林檎を持ってきていた。
ホワイトは今回もスノウのふりをするために急いで着替える。ところが、物売りが何回もドアをノックする音にとうとうスノウが出てしまったのだ。
彼がヤバいと思った時は、すでに姉は素直に林檎を食べて倒れてしまっていた。地面に落ちた林檎をかじったアリが息絶えるのを見て、毒林檎を食べてしまったようだと推測する。守れなかった悔しさから、彼は打ちひしがれた。
エリクが買い出しから戻ると、ホワイトの様子がおかしいので不審に思った。いつもだったら遅いと憎まれ口を叩かれてもおかしくないのだ。彼は周囲を注意深く観察し、とうとう倒れているスノウを見つけた。思わず買い物袋を落とす。エリクは深い悲しみを抱きながらも、スノウ姫をガラス張りの棺に入れた。彼女が寂しくないようにホワイトとエリクで沢山の花を入れる。スノウは棺の中でも愛らしかった。改めて彼女は死んだのだと実感した。エリクは棺にすがりついて涙する。
ホワイトは考える。魔女の魔法によるものだとしたら、それを打ち破るのは想いではないか。彼はエリクにキスをするように言う。しかし、エリクは断った。女性の唇は神聖だと言うのだ。こんな彼だから姉は好きになったのだろうが、今はその誠実さが憎らしかった。同時にこうも思った。これほどまでに姉を大切にしてくれるなら、任せられると。
そこに、白馬にまたがった王子が来た。金のゆるやかにウェーブがかった短髪、碧眼の瞳は女性なら誰しも憧れる王子そのものだろう。ここでホワイトはピンときた。お誂え向きに来たこの王子は縁談相手で、ここで引き合わせるシナリオだったのではないか。おそらく、キスで目覚めさせるように言っているに違いない。案の定、王子は棺の前に立ち、悲しそうな顔をした。
「ああ、なんてことだ。これほど可愛らしい人が、このような姿に。どうか私の口づけで目覚めてほしい」
棺のガラスを開け、二人の顔が近づいていくのをエリクは噛みつくような目で見ていた。
よし、十分たきつけただろう。着替える暇がなくドレスを着たままだが、王子をスノウから引き離そうと試みる。
「王子、中で少しお話しませんか」
「姫が二人……!?」
「早くこちらへ」
あとはエリクに任せればいいだろう。彼に目配せをして、ホワイトは強引に屋敷へと連れ込んだ。
「あの、私は頼まれごとをされているのです。それに棺をあのままにしておくのは……」
「スノウは寝ているだけです。あそこでないと落ち着かないみたいで」
ホワイトはしれっと嘘をついて、王子に紅茶と茶菓子を出す。王子は戸惑いながらも紅茶を飲む。
「しかし、男が泣いていた」
「姉の美しさに、泣いていたのでしょう」
無理なこじつけだが、はりつけた高貴な笑顔で言い切る。そこで、王子は目を瞬かせた。
「美しい? 姉君は可愛いと言った方がいいだろう。君こそ美しいと言うべきだ」
こんな時に何を言っているのだろうか。この王子、天然タラシらしい。ますます姉から守らなければいけない。
そこで自分が何を着ている服を思い出す。姉の身代わりをしようとして、ドレスにカツラを被っていた。今まで家族以外は欺けていたのだから、この王子も女だと思っているのだろう。
「こんな時に口説いてるんじゃねーよ」
「えっ、その、口説いてるつもりは……!」
「女物の服を着ているが、僕は男だ」
証明するために背中の紐をほどき、まっ平らな胸板を見せる。これで分かったか、と王子を見ると甲高い悲鳴が聞こえた。よくよく見れば王子は顔を赤く染めて、ホワイトの体が見えないように目を手で隠していた。
何だ、今の高い声。それにどうして同性でこんなに恥じらうんだ。そこで彼はとあることに気づき、策を考えた。
「お前、女だろ」
王子はビクリと跳ね上がる。分かりやすい反応だ。そう、よくよく見れば体の線が細く、正装の下に女性らしい曲線がうかがえた。
「ちょうどいい。あんたのこと気に入った。姉のおもりはそろそろ卒業しようと思ってたんだ」
新しいオモチャが手に入り、機嫌がよくなる。それを察した男装姫は顔色を悪くした。
「その、私は今回兄上の代わりに来ただけで、本来ならこのような格好は」
苦し紛れに言い訳する男装した彼女を、改めて観察する。やはり、着慣れている印象がある。
「してないのか? 本当に?」
「……してる」
「やっぱり。堂に入ってると思ったんだ」
「男物の服の方が動きやすいから、よく着てるんだ。でも、私だって……その、殿方の前では着飾りたいとは思うから」
男装姫はもじもじとホワイトから身を隠すように体をすくめる。真っ赤になってあたふたとする彼女の反応は、素直だ。そのまっすぐさが好ましい。そして加えて言うなら、さらにいじめたくなる。
「へぇ? 僕の前で?」
「な、なぜ、言い直すんだ!」
これはいいオモチャを手に入れたかもしれない。彼は笑みを深くする。
「間違ってるか?」
「……違わない、けど」
「うん、やっぱりお前気に入った。この国に来いよ」
「意地悪だ」
「いじめたくなるのが悪い」
ホワイトは服を普段のものに着替えて部屋に戻る。すると、本来の姿に彼女が見とれているのが分かった。男でありながら白雪姫と噂された美貌で自信たっぷりに微笑む。
「いい男だろ?」
「自意識過剰だ」
「はいはい」
****
王子がスノウ姫にキスをしようとした姿を目の当たりにして、エリクの心は荒れていた。使用人として仕えてきたはずなのに、スノウ姫を穢すなと怒りが込み上げたのだ。そしてその唇の味を、感触を知るのは自分だとまで思った。自身のドロリとした感情に目眩を覚える。
なんてことだ。これは使用人の範疇を越えた想いだ。エリクは己の炎を消そうとした。伊達に年を重ねてはいない。痛みに耐え、この感情を閉じこめていれば次第に消える。
しかし、彼女の弟であるホワイト王子が王子を引きはなす際に目配せをしてきた。あれほど過保護だった彼が『やれ』と目で言ってきたのだ。認められているのか。思わず、フッと笑ってしまった。なんて、心強い。
エリクは知っていた。彼女の目がいつだって自分に恋情を訴えていたことを。その視線に燻られて、自分も次第に彼女を想うようになっていた。彼女のまっすぐな想いに踏み出す勇気はもっていなかったが、思いを伝えずとも彼女のことが好きだった。衝動で動くほどエリクは若くなかった。
開けられたままになっている棺にしゃがみ、彼女の名にふさわしいほど雪のように透き通った肌を見つめる。この肌が、自分を見るときには桃色に染まるのだ。
彼女の頬に手を添え口づけた。林檎のように赤く艶のある唇を軽くはみ、感触を楽しむようにキスを重ねる。すると彼女の瞼がふるえた。目覚めさせるのは己なのだと歓喜に心が震える。しかし彼女が目覚めるには、まだ足りないのだろうとも思った。彼女の唇の中に割り入り、彼女の舌を絡めとる。一方的に舌をなぞり、吸い上げると彼女はピクリと体を揺らし、咳をした。のどの奥から、詰まらせていた林檎の欠片が出てきた。
とうとう彼女は目覚めた。スノウは想い人であるエリクと深く唇を重ね合わせていることに目を白黒させる。その隙に林檎の欠片を奪い取り、自身の口内で噛みきった。心配そうに彼女が見ているので、軽く唇を重ねて安心させる。
「わたくしは大丈夫ですよ。これでも、もしもの時にあなたを守れるよう鍛えているのですから」
「よかった」
スノウは安心したと目尻に涙まで浮かべる。エリクはその涙を拭って、彼女に手を貸して身を起こすのを助けた。
「あなたには参りました。スノウ姫が好きです」
「嬉しい」
「おやおや、そんなに泣かれては目が腫れてしまいますよ」
「いいのよ、うれし涙だもの」
そこに、馬に跨っている男装姫とその馬を引くホワイトが現れる。スノウはきょとんとして二人を見た。ホワイトは目覚めたスノウの姿に、ニッと口角を上げてエリクを見る。エリクも誇るかのように微笑んでいた。二人の無事を確認したホワイトは、颯爽と彼女の後ろに乗る。そして彼女のお腹に腕を回した。
「やめろ、触るな!」
「はいはい。さっさと城に行こうぜ。僕が案内するからな。ってわけでスノウ、僕こいつと婚約することにしたから。じゃあな」
馬が森を抜けるように駆けていく。行き先は二人が育った城だろう。
「我が弟ながら、嵐のようね」
それから、双子に結婚相手ができたことを知った王妃は大喜びした。実は物売りが王妃だったことを鏡に知らされる。ホワイトは察していたらしく、「やっぱりね」と頷いた。スノウは知らなかったので驚いていた。
「恋する林檎はキスで目覚めるの。ロマンチックでしょう?」
スノウはエリクとのキスを思い出して赤面した。まるで林檎のようだ。
「まあまあ、スノウったら可愛いわ」
「王妃様、そこまでにしてあげてください」
「うふふふ、まさかエリクが相手になるとは思わなかったわ」
からかう王妃とからかわれるスノウとエリクを、ホワイトは離れて見ていた。今までならスノウをかばっていただろう。
「いいんすか? 放っておいて」
鏡がホワイトに気遣うように声をかけた。彼は肩の力を抜いたような気安い笑顔で、大丈夫と言った。
「スノウを守る人が出来たからね。それに僕にもこいつがいる」
「オモチャって言ってたじゃないか」
正式に姫の装いをした彼女は、凛々しく咲きほこる花のようだった。
「そうだね。兄王子に言いくるめられてこの国に来たんだろうけど、君の真っ直ぐなところが気に入った」
「へ、へぇー」
「婚約者として、よろしくな」
目に見えて分かるほどに動揺した彼女を、優しく目を細めて見つめるホワイト。動揺して目を泳がせる彼女は知らない。鏡だけが知っていた。
その後、スノウ姫はエリクと結婚。思い出の屋敷で過ごしているらしい。そしてホワイト王子は男装していた姫、リュシエンヌと婚約。ホワイトが時期王となるため、二人には教育が山積みだった。それでもホワイトは今も彼女をからかいながら、幸せに暮らしているそうな。めでたし、めでたし。