佐竹龍平
人がまばらだった教室も席が次第に埋まっていく。比較的早い段階で全員集まったようだ。教室の喧騒に似合わない物音が真後ろで聞こえる。いびきだ。握手をし終えた永井が自分の席に戻っていたので後ろを指差すジェスチャーで尋ねてみる。
「…いつから寝てたの?」
「あー佐竹君?私が挨拶に来る頃はまだ起きてたよ」
佐竹でクラス名簿を探すと俺の次に載っていた。例に漏れず席順は名前順で決まってるようだ。佐竹龍平、図太い居眠りと彼の特徴をインプットする。
「結構早く来たつもりだったんだけど佐竹君の方が早かったんだよね」
「早いってどれくらいに?」
「私が一時間前に着いてたから、それよりも前にはいたことになるね」
「たかだか入学式に張りきりすぎでしょ二人とも」
「いやー、いよいよ高校生になると思ったらいつもより早く目が覚めちゃって」
えへへっ、と頭を掻いて照れる永井。女の子が照れる姿はそそられる。
「そういえば挨拶した後すぐ寝ちゃったんだよね、その後なんて言ったと思う?」
すると、永井は声を少し低く変え 『頼む、時間になったら起こしてくれ』 と芝居がかった言い方をして机に突っ伏す。佐竹のマネのつもりだろうか、拗ねた仕草にしか見えなくて可愛い。苦笑いしか反応できないけどごめんな永井。
その後、言われた通り永井は佐竹の体をゆすって起こしてあげていた。
「おーい龍平!おーきろー」
「…んぅ…おう、ありがと…」
その光景を羨ましく眺めていると、寝ぼけまなこの佐竹が俺を見据える。
「あ、ども。佐竹龍平です」
「草野洋介です」
お互い軽く会釈した所で、入学式が始まるので廊下に並ぶよう上級生の実行委員らしき人に促される。
佐竹は移動中や式典中でもかまわず色々と話しかけてくる。どこの中学だったか、兄弟はいるのか、部活はどうするか、好きなゲームは何か。ありふれた話題ではあるが、構えず楽に話せる相手という印象を持った。
「んあー、終わったぜー」
「相変わらず眠そうだな」
ぐーっと伸びをする佐竹と教室に戻る途中。入学式自体は特にこれといった面白味も無くサクっと終わった。途中、吹奏楽部の演奏で体育会系の部活が校歌斉唱したくらいか。上手さの良し悪しは抜きに声がよく出て迫力があった。
「俺も来年ああやって歌うのかなー、絶対出たくないんだけど」
「そっか、佐竹君はサッカー部入るんだっけ」
「ここ神無月もそこそこ強いって有名だからな、部活目当てで入学する人も多いぜ。洋介はどっか入らないのか?」
「あー…、サッカー部以外なら前向きに検討するよ」
「なにー?そんなにサッカー部に来たいのか?しょうがねぇなぁ」
「誰かー通訳お願いしまーす」
そんなこんなで教室で荷物を取り、駐輪場まで行く。そこで佐竹に尋ねられる。
「洋介、まだ時間あるか?行きたい場所があるんだ」




