ファーストコンタクト
(えっと、挨拶されたから挨拶するべきだよな…?というかなんで俺に?いきなり一目惚れされて?いや、俺はそこまで容姿が突出してるわけでもないぞ。その線は薄いか、となると何が目的だ?)
一瞬の思考で答えが出る訳も無く、考えるのをやめる。
「うん、おはよう」
よし、挨拶を返せたぞ。
「……プッ、ハハハハ!」
挨拶をした女の子が小さく笑う。あれ、何かおかしなことしたか?
「フフッ、ごめんごめん。間の取り方がちょっと面白かったから」
「…そうか?」
「ほら、あいさつされたら普通間なんか空かないじゃない?」
「それは…、知り合いがいないから声掛けられると思わなくってな」
女の子は俺の方に向かって座り直すと、「よろしくね」と言って左手を差し出す。女の子からのいきなりの握手に少したじろいだが、すぐに自分も手を差し出して握手した。
「こうやってクラスメイトの子達に挨拶してるんだ」
「え?そうなの?」
「うん、私の知り合いはみんな他のクラスだったし。クラスメイトに早く顔覚えてもらおうと思ってさ」
「それでみんなと握手して回ってると?」
「そそ、大事なのはファーストコンタクトって言うしね」
ファーストコンタクト…?第一印象って事?
大事なのはその後のギャップだぜ。そんなこと言わないけどさ。
「名前は見てもらえば分かると思うけど、私は永井真琴。よろしくね」
「俺は草野洋介、隣同士みたいだしよろしく」
「洋介ね。うん、覚えたからね!」
いきなり名前呼びか。初対面でさすがに馴れ馴れしくないか?俺の気にし過ぎ?あ、俺が草野洋介ね。言わなくても分かると思うけど。
新しく教室に入ってきた子がいるらしく永井はそちらに目を向ける。
「知り合いだった?」
「ううん、知らない子だよ。一応いま教室にいる人には一通り挨拶してあるんだ」
「へぇ、そうだったのか」
「あの子とはまだ挨拶してないから行ってる来るね!バイバイ」
「おう」
そのまま席を立ってパタパタと教室に入ってきた女の子に駆け寄る。別に男だけに挨拶してた訳じゃないのね。そんな奴だったら露骨過ぎて引いちゃう所だった。尻軽女と印象を持ったがそれは撤回しよう。足軽に昇格してやろう。それにしても入ってきた女の子の印象が強烈だ。聖女なんて言葉が似合いそうだ。永井が俺と同じようにその子に握手を交わしていた。はた目から見てもその握手って必要か?欧米か。
他にも続々と教室に入ってくる生徒がいて、それを永井が男女問わず握手して迎えるというおかしな光景を眺める。これで各々に永井の印象が強烈に残るだろう。おおよそ、いきなり話しかけてきた女としてだが。




