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出会い

商店街にあるちょっとした路地裏に俺は連れ込まれていた。

「だからさー、それくれればいいんだって!頼むよあんちゃん」

そういって軽い口調で物をねだってくる奴はボンタンを穿いており、首にはタオルを掛けた見た目で鳶職というか土方というか、そういった建設工事現場によくいる若い男だ。頭は金髪に染めてから時間が経っているらしく、ところどころ黒いものが見られる。



「いやいや、無理です!ぼ、僕だって食べたいんですから…」

「あ~ん?既に食ってただろうが、俺は昨日見てたんだぞ!」

何を隠そうねだられている物は食べ物だ。この商店街で一日限定50個しか作られないボリューム満点のジューシーコロッケ『マグマ大噴火コロッケ』、通称マグコロ。肉汁を限界まで閉じ込める事に成功したコロッケは、噛むと火山が噴火したマグマの如く肉汁が溢れだすことから名付けられた。この商店街の名物として瞬く間に人気を博し、売れ残る日は無い。そんなマグコロの最後の一個を買った俺はこの土方の兄ちゃんに目をつけられてしまった

「分かった、じゃあ交渉だ、お前のマグコロを500円で買ってやる。これで文句無いだろ?」

「いや、まぁ…、確かに損はしないですけど」

マグコロは300円で売っているためこのまま500円で転売すれば200円の儲けが出るだろう。土方の言うまま交渉に乗れば何事も無く話は終わるのだろうが、俺はここであえて売らないと決断をした。

「オイあんちゃん、自分が何言ってるのか本当に分かってんだよな?」

「ま、また明日買えばいいじゃないですか、…ね?」

「明日買おうは馬鹿野郎なんだよ」

俺にだけ聞こえる声で凄んできた後、土方は諦めるような口調で呟く。

「仕方ねぇ、やりたくはないが力づくで分からせるしかないか…」



その言葉に俺は背中が凍りつくのを感じる。生まれてこのかた、本気で殴り合う喧嘩などしてこなかった俺は腰が抜ける。ここまで剥き出しにした敵意を感じるのは初めてだったからだ。土方が一歩近づくたび腰を抜かした俺は情けなく地面にお尻をこすりながら後ずさる。そしてすぐに土方は俺の首根っこを掴み、俺を地面から引き上げた。

「優しい優しい俺はお前に最後の選択肢を与えてやる。さぁ、どうする?」

「あ、明日自分で買えば、もっと美味しく感じられると思い…ます」

「そうか、残念だよ」

自分でも驚くほど強情だと思った。土方は俺を壁に叩きつけると、ゆっくりと右手を後ろに引く。ヤバイ、俺はこの一撃に耐えられるのか?さっさと渡してればこんな事にはならなかったんだから俺の選択ミスだ。頼りない腹に精いっぱいの力をこめ、目を閉じてその瞬間を待つ。



……中々その一撃がこない。恐る恐る目を開けると、そこには土方の振りかぶった腕を壁に抑えつけてる男がいた。佐竹龍平、俺の席の間後ろにいる奴だ。今日は入学式の次の日、その佐竹とは昨日少し話をした程度の仲だ。

「お前、何があったかは知らないが乱暴はよくないぜ」

「…仲良く交渉してただけだ、お前には関係ないだろ」

「暴力を交渉に使うのは卑怯だと思うけどな」



ニヤっとした佐竹の手を振りほどく土方。それを気にせず俺に語りかける佐竹。

「よー、怪我は無いか」

「なんで佐竹君がここにいるの?今日部活だったんじゃ…」

「あーそれね。まだ見学しか出来ないって言われたからそのまま帰ってきたんだ。そしたら偶然、クサノヨウスケが絡まれてるのを見かけてこうしてついてきたんだよ」

草野洋介は現在進行形で土方に絡まれていた俺の事である。昨日は俺の事を洋介と呼んでいた佐竹は、今日は何故か俺をフルネームで呼ぶ。

「俺の事はいいよ!ここで問題起こしたら部活に支障が出るよ!」

「悪事を黙って見逃すほど俺は薄情な人間じゃないぜ、なんたって俺は…」

そこまで言いかけて口をつぐんだ佐竹、危ねぇ危ねぇと呟くのを俺は聞き逃さなかった。

「んだとゴラァ!まるで俺が悪者みてぇじゃねえかよ!」

「はた目から見ればカツアゲにしか見えないからな、そうじゃなかったら誤解されないように努めるべきだ」

「いい加減にしろよてめぇ」

土方はターゲットを佐竹に切り替え右腕を振りぬく、それを佐竹は半身でかわす。佐竹は右腕を掴み土方が踏み込んだ足を支点にし、勢いを利用して地面に叩きつけ、どこから出てきたのか分からない短剣を首に突き付ける。

「これ以上抵抗するなら容赦はしな…、ってさっきの衝撃で伸びてるか」



慣れた手つきで土方をいなした佐竹を俺は茫然と見つめる事しかできなかった。さっきまで手にしていた短剣はいつの間に手元から消えていた。

「いやー、まさか俺に突っかかってくるとは思わなかったぜ。大丈夫だったかクサノヨウスケ」

「そっちこそ怪我は無いのかよ」

「なんつーかコイツ、最初から顔は殴る気無かったみたいだったぜ?だから俺も的が絞りやすかったんだ」

顔に来ないと分かっててもそう簡単に回避出来る物ではないだろうと突っ込みたかったが、それよりも別の事が脳裏に浮かんだ。根拠の無い確信。

「佐竹君…」

「あぁ部活の事は心配するな、ご覧の通り問題にならないよう静かに収めただろ」

「君は、佐竹君じゃないよね?」

「…えっ」

俺の言葉に顔を青くする佐竹。どうやら図星のようだな。何故こんな確信めいた言い方が出来るのかは俺にもよく分からない。本当は言わなくても良い事だったが、俺は敢えて正体を見抜く事を決断した。



「何故君は佐竹君としてここにいるんだい、勇者」

「ふふっ」

勇者と呼ばれた青年は静かに笑った。

次章は1日前に戻ります。順番は正常なので気にしないでください。

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