9話、月移住計画3
スキマを出た僕を待っていたのは――
「雪乃くーーーーん!!」
「げふぉおっ!!」
奈菜花のタックルだった。痛い。
「痛いよ奈菜花。それにそんなことしてる時間は無いんだよ?」
「私は雪乃君の事がとっても心配だったんです!」
「それは嬉しいけど、もうちょっと状況考えて、ね」
「うう、はぁい……」
まずは森の妖怪達がどうしたのかを聞いてみた。
「皐月、みんなどうするって?」
「奈菜花が妖怪らしくしろって言ったから好き勝手に動いた。遠くに逃げた妖怪もいるし、森に残った妖怪もいる。割合は7:3ぐらい」
ってことは残ったのは3割。ただ、よく見ると残ったのは実力のある妖怪ばかり。実力がある分知力も高い彼らはこの地に愛着があるのかもしれない。
これならなんとかなりそうだ。妖怪は精神に影響を受けやすい為、守りたいという気持ちがきっと彼らを強くしてくれるはず。
「それで、どうするのー?」
「風音はどうしたらいいと思う?」
「うえぇっ!? え、えーっと……爆発がどれくらいなのか分からないけど、とりあえず妖力で作った壁で防ぐ……とか?」
「お、僕と似てるね」
「じゃあ雪乃君はどんな方法を考えてるんですか?」
「えっとね………口じゃ説明しづらいな。氷で模型を作って説明するから、みんなを集めて」
奈菜花たちが妖怪を集めている内に周辺の地形を氷で再現する。
集まったらしいので話をはじめよう。
「爆発までもう10分しかないから、駆け足で説明するよ。質問は一通り説明した後にしてね」
頷くのを見て、僕は模型を動かす。
「この丸いのが森で、森を挟むように立っている2つの三角が山、四角いのが都市。山に挟まれた森には逃げ場がないから、爆風を完全に防ぐか、そらすしかない。僕が考えたのは風をそらす方法。森の前に僕らで三角形を作って、爆風が山の方に行くように壁を作るんだ」
ちょうどこんな感じ。
山 \
\
森 〉 都市
/
山 /
「まず僕が頂点――とがっている所ね、そこに立って最上級の防御魔法を展開する。奈菜花は僕のサポート、皐月と風音には端っこに立って貰うから、2人にパスをつないで範囲を固定、三角形の形にする。みんなは僕と、皐月、風音の間に入ってもらって常に妖力で防御魔法の維持と強化、補修をお願い。まだ力の弱い子は誰かが吹き飛ばされないように支えてて。以上」
とりあえずこんなものかな。本当は都市に結界を張って勢いを殺したりするんだけど、みんなには関係ないから言わないことにする。
「あの……」
「うん? どうしたんだい?」
腰まで届く銀髪が特徴的な女の子が手を挙げていた。
「雪乃様の魔力で発動する魔法に、私達の妖力をぶつけても大丈夫なんでしょうか?」
おお、いい着眼点だ。皐月に突っ込まれるかなとか思ってたんだけど、意外だったな。
「良い質問だよ。名前は?」
「神綺……です」
「じゃあ神綺ちゃん。僕はどうしたらいいと思う?」
「えっと……魔力を妖力に変換できるようにすればいいと思います」
「うーん、ちょっと違うね。できないわけじゃないけど、それだと消耗が激しいんだ。それに、もっと効率のいい方法があるんだ」
「………分かりません」
「奈菜花」
「私の妖力で魔法を発動させるんですよね」
「正解」
周りから、おおーと声が挙がる。別の力で術を使うなんてありえないの一言に尽きる。霊力で妖術を使おうとしてるのと変わらない。
でも僕ならできる。僕は例外中の例外、“なんでもできる”魔法使いだから。最近奈菜花達が持ち始めた能力風に言うなら『なんでもできる程度の能力』ってとこかな。
「てことで、気にせず妖力注ぎまくってくれたらいいから。細かいことは僕に任せて、みんなは“自分が1番やりたいこと”だけを考えて。それが力になるから」
時計を見ると5分を切っていた。
「奈菜花、もう5分も無い。みんなを動かして」
「分かりました。―――もう時間が無い! みんな動いて!」
「皐月、風音、スキマに入って。出たら自分で良さそうな場所を見つけてね」
「わかった」「はーい!」
2人がスキマに入ったのを確認してスキマを閉じる。
今度は別の場所にスキマを繋いで、奈菜花と一緒に入る。
「奈菜花は僕を支えながら、防御魔法の維持をお願い」
「展開はしてくれるんですよね?」
「うん。制御権を移すからよろしく。僕は、風の制御と、結界を張るから」
「はい」
出口が見えた。もうすぐスキマを抜ける。
気を引き締めないと、みんなが死ぬ。
僕1人ならなんの問題も無い。スキマに入ってればいいんだから。ただの爆発じゃスキマに干渉することはできない。今回のケースではスキマが一番安全な場所だ。でもそんなことはしない。居場所を失う事がとても辛いことを僕は知ってる。みんなにはそんな気持ちを知ってほしくは無い。
「やってやる……」
決意を新たにして、スキマから出た。
爆発まで、あと3分