28話、“火の鳥”
長らくお待たせしました。
鷹妖怪長くても2、3話で済ませるはずだったんですが、こんなに長くなってしまって……
「ふう、いきなりすぎでしょ」
急速に高まっていく妖力と魔力を真下から感知したので、直ぐに氷のシールドを展開、自分の真後ろにスキマを開いて、火柱が押し出す力に乗ってスキマに入り、直ぐに閉じる。別の場所にスキマを開いて外に出た。
火柱を生んだ妖怪を見ると、そこに居たのは火を纏った鷹ではなく、火そのものの鳥。何者からか魔力を取り込んだ、或いは流し込まれた“鷹”は本当に不完全ではあるが“火の鳥”へとその姿を変えた。
「フラグ立てたつもりないんだけどなぁ……」
進化してしまったものはしょうがない。原因探しは後にして、今はこいつを殺さなければ。村がどうのこうのというレベルじゃ無くなった。
「やるしかない、か」
負けるとは思わないが、1人だとさすがに骨が折れる。
村の自警団は論外、都にいると言われる陰陽師でさえ歯が立たないだろう。となると、奈菜花達や天照、ケロちゃんのような上位の神クラスの仲間が欲しい。神級魔法は時間がかかるから、その間守ってほしいんだけどなぁ。
無い物ねだりをしても仕方ない。地道に削っていくか。
「kiiiiiiiiiiiiiiiaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!」
「うるさいっての!」
氷結弾をガバメントに装填して連射する。マガジンはスキマに繋がっているので弾切れの心配は無い、指に残像が見えるほどの速度で引き金を引き続ける。2丁の銃が作りだす弾幕はマシンガンと同等かそれ以上だ。
着弾した氷結弾は周囲を凍らせていく。飛んでくる火の弾だろうが、火の鳥が纏っている炎だろうが関係ない。真逆の属性である“火”ですら凍らせる。
数少ない魔法使いの中でもほんの一握りの存在しか到達できない極みの1つ、“理の上書き”だ。“氷は火によって溶かされる”という理、道理、常識を塗り替える。
《術式省略》
「フリーズランサー!」
詠唱している暇なんてない。今は手数で攻めて削る方がいい。
術式を省略して大量の氷の槍を浴びせる。氷結弾の元になったこの魔法の威力は、中級とは思えないほど高い。出会い頭に霧に包んだ時とは比べ物にならない力を持った槍の雨は火の鳥へと向かっていく。
対する火の鳥の炎も比べ物にならない。キリングドールに混ぜていた氷の槍は風を纏ってはいたものの、鷹にダメージを与えていた。が、どれも溶かされてしまい、火の鳥に傷を付けている槍は全体の10分の1だけ。“不死鳥”程ではないにせよ回復力も高い為、傷は直ぐに塞がっていく。修復にかかる妖力も低いらしく、弱った様子は見られない。
「うーん、持久戦に持ち込んでも意味なさそう……」
魔力や妖力は生きてきた時間に比例して最大量が増えていく。
億の年月を生きた僕の魔力は無尽蔵と言ってもいいし、最悪、空気中や自然から力を貰って魔法を使えばいい。
目の前の火の鳥は、妖力の差を周囲から無理矢理力を取り込むことで埋めているようだ。ここら一帯の陽炎は気温が高くなったからだけじゃない。
持久戦は意味が無い。それどころか、火の鳥がバカみたいに力を喰っていく分悪くなっていくだろう。
「疲れるからとか言ってられないね。無茶してでも倒す」
地面に降りて警戒範囲を減らす。耐火結界を幾重にも重ねて周囲に張り、一撃で倒せる魔法の詠唱に入る。神級魔法や大魔法は時間が確保できない為パス、上級魔法を使う。
上級魔法は諏訪大戦の時の《絶対領域》以来、久しぶりに使う。ひっくり返して言えば、今回はそれほどの敵だという事だ。
《術式構築開始》
幼い頃から魔法に触れて、現代の頃から戦い続けてきた僕でも上級魔法辺りから省略が難しく感じる。上級にもピンからキリまであるが、今回使うのはピンの方。つまり、限りなく神級に近いので殆ど術式省略は出来ない。
半透明の耐火結界の倍近い直径の魔方陣が足元に出現する。異常を感じたであろう火の鳥は鉄を一瞬にして溶かすほどの豪炎を吐きだす。結界によって火は遮られ、ローブのおかげで熱さを感じないが、周りはそうもいかない。草原はあっという間に火の海へと変わり、視界は紅一色に染まる。
《agnag:a@woeiurewntfggbnmsbl,ma:s;dfoiqwe@roiba:@oksna[wpoujtweooitgfdkjjvbnaoyuygewrp》
同業者でも理解できないだろう言語の羅列を頭の中で組み立て、整理し、魔力に乗せて式を組む。
「goaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!」
《sanbzxcvja@wrptujwebntsdfbvl;cbsbb;methwepoutj23u985yhgnak;l;2》
更に出力が上がるブレスに結界が軋み始めるが、先に魔法が完成する。
詠唱が終わり、最後のワンフレーズ――名前を唱えようとした時、聞えるはずのない声が聞こえた。
「雪乃さん!! 雪乃さぁぁぁぁぁぁぁん!!」
「!? 白蓮! なんでこんなところに……!」
白蓮の声が聞こえた。
「kiaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!」
「何、今の……ひっ! い、いやあああああああああああああああ!!」
「くそっ!」
発動しかけていた魔法を待機状態にして右腕に纏う。結界を突き破って声の方へ飛ぶ。炎の海を抜けた先には両腕で顔を覆い座り込んだ白蓮と、白蓮へ向かって飛ぶ火の鳥の姿があった。
ここで魔法を発動してもまともに当たりはしないし、白蓮が巻き込まれて確実に死ぬ。魔法を使わずに助けるしかない。
(間に合えぇぇぇぇっ!)
大怪我を承知で飛びこむ。
白蓮を腕に抱く。
「雪乃さん!」
「喋るな! 俺にしがみつけ!」
返事は待たない。単純な体術だけで空気を蹴り、その場を離れる。
無様に地面を転がり顔を上げると、俺が言った通りに白蓮はしがみついていた。その顔は涙でぐずぐずになってる。密着してくる豊満な胸も今は気にならなかった。
「バカかお前は! なんでここに来た!」
「ひっく……ごめんなさい……村からでも…火柱が見えて……もしかしたらあの中に雪乃さんがって……思ったら、そしたら、雪乃さんが…動かなくなってるとこしか、かんがえられなくなってっ! それで、それでぇっ……!」
「……大丈夫、俺はここにいるから。だから泣くな」
「はいっ……!」
頭を撫でながら、ぎゅっと抱きしめる。そんな暇は無いんだけれども、こうしなければいけない気がした。そうしたかったというのもあるけど。
ちょっと何かあっただけで俺の事を心配してくれるのは早苗ちゃんくらいだ。奈菜花達なら、あれくらいどうってことないってことを知ってるから「へー」とかで済ませる。誰かから本気で心配されて泣かれることが嬉しかった。
「gyaaaaaaaaaaaaauuuuuuuuuuuuooooo……」
悔しそうな火の鳥のうめき声が聞こえる。俺たちは共に顔を上げるとともに声を失った。
「これは冗談抜きで拙い………」
「あ、ああ……」
さっきよりも一回り大きくなった火の鳥が6体もいた。
「皐月、お父様を知らない?」
「今日は遅くなるって言ってた。人間から妖怪退治頼まれたとか」
「お父様が妖怪退治?」
「私も驚いた。雪乃の立場は中立だから今までそんなこと無かった。ね、風音」
「うんうん。妖怪にも人間にも優しいからね~。多分だけど、頼んだ人間が居る村が森の近くなんじゃないかなぁ? 雪乃って好き嫌いがはっきりしてるじゃん。だから、大好きな森に危険が及ぶ前に……とか?」
「そう……それでも遅くないかしら?」
「そうだねぇ……あーおいしー」
時計がそろそろ日付がかわる時間を示す頃、私はお父様を探して見つからなかったので皐月に聞いてみた。どうやら出かけたらしく、まだ帰ってきてないらしい。
私はお父様が妖怪退治をしている所なんて全く想像出来ない。いつも小妖怪や妖精と遊んでいたり、お菓子をあげたりと、仲良く接している所ばかり見ているからかしら。怒られたこともあるけど、あれは「ゴルァ!」じゃなくて「めっ!」って感じなのよね。稀に妖精が悪戯しても笑いながらデコピンだし。
「奈菜花は?」
「皐月と同じことしか知らないわよー。でも、そろそろ帰ってくる頃だと思うんだけどね」
「紫は?」
「同じくよ」
「むぅ……」
ちょっと見てこようかしら?
そう思った瞬間、膨大な妖力を感じた。
「………ちょっと行ってくるわ」
「幽香は留守番。雪乃君居ないときは私が行く事になってるの」
「はぁ!?」
「私も行く。この前の飲み会でストレスが溜まってるから」
「お願いね」
「え、ちょ、ちょっとぉ!?」
バタン
……………。
ええー。
「ドンマイwww」
「笑うなっ!」
カラカラと笑いながら指を指してくる風音に向かって怒鳴る。そこいらに居るような妖怪なら泣きながら去っていくというのに、まるで気にせず「わはー」というあたり、やっぱり大妖怪だ。見た目とか中身は子供なんだけど。
「大丈夫だよ。奈菜花と皐月は幽香に怪我してほしくないだけ。もちろん私もねー」
「それは分かるし、嬉しいけど……」
「お姉ちゃん達の言う事は聞いた方がいいと思うよ~」
だからお姉ちゃんに見えないって、という言葉は呑みこむ。見えなくてもお姉ちゃんなのは変わらない。
天雪荘の住人――私と紫以外の4人はみんな優しい。
お父様は言わずもがな、奈菜花も皐月も風音も、寂しい時は一緒にいてくれるし、悩んだ時は嫌な顔をせずに相談に乗ってくれる、困った時は笑顔で協力してくれる。生まれたばかりだった私と紫を無償の愛情を持って育ててくれた。それは今も変わらない。
でも、私はそれがちょっと嫌だ。もう世話になるだけの私じゃない。強くなった、料理だって出来る、我慢も覚えた、趣味だってある。
守ってくれるのは嬉しいけれど、私もみんなを守りたい。家族だから、お父様の自慢の娘で、奈菜花達の妹だから。
頼ってくれたって良いじゃない。もう。
「花達に水やりしてくるわ」
「幽香にとってはそれも大事だろうけど、今やるべきことは水やりじゃないわ」
「紫? 随分短い散歩ね」
部屋までジョウロを取りに行こうとした時、目の前の空間が裂けて紫が出てきた。紫は最近になって、ようやくお父様の魔法のスキマを使えるようになっていた。あまりの嬉しさに毎日30分ほどの散歩が日課になっている。歩かないのに散歩って言ってもいいのかしら?
「はぁ……げほっ、げほっ」
そしてもう1人出てきた。こっちは人間の女だ。顔を真っ赤で息が荒く、汗をたらしている。随分長い距離を走ったみたい。
額から上と下で髪の色が違っているが、不思議とおかしな感じはしない。白を基調としたドレスも似合っている。サイズが合わないのか、身体のラインがはっきりと浮き出ている。
この女、私より身長が低くてスタイルが良い。見た目と雰囲気からして、清楚でちょっと天然が入ったおっとり系。
つまり……
「お父様の理想を具現化している!?」
「そうなのよ! 出るところは出て、締まってるところは締まってるし………じゃなくて! この人間――聖が言うにはお父様が危ないのよ!」
「……どういうこと? さっきの妖力と何か関係があるのかしら」
「は、はい……私のいる村は―――」
まとめるとこういう事。
数年前から鷹の妖怪から襲われていて、それを何とかしてほしくてお父様を頼った。今討伐しているけど、急に強くなって、それが何体も現れた。その数6体。
かしら。
さっきの妖力はそういうことね。
「行きましょう。奈菜花達なら大丈夫でしょうけど、お父様が心配だわ」
「賛成よ。風音は?」
「うーん、ホントなら奈菜花だけでも十分なんだけどなぁ~。ま、いいや、これも経験だよね。行こうか」
お許しも出た事だし、直ぐにでも行きましょうか。
部屋に戻って、ジョウロではなく傘を持って玄関へ戻ってくる。紫は私と違うデザインの傘を持ってスキマに座り、風音は袖の長い着物から2つ扇子が見える。その間に息を整えた聖が立っていた。
「お父様の魔力と、対峙している火の鳥とかいう妖怪の影響でスキマは途中までしか使えないわ」
「なので、途中から私がご案内いたします」
「大丈夫なの? 貴女人間なのよ」
「そこはほら、私がなんとかするよー」
話しながら天雪荘を出る。風音が鍵を閉めて、紫がスキマで隠し、私の能力で草を生やして花畑へと変えた。泥棒対策にしてはやり過ぎな気がするが、お父様は何かと気に掛けるのでみんなで出かける時はいつもこうする。
「行くわよ」
紫の作りだしたスキマに滑り込んだ。




