3話、侵入者……からの?
僕がとった行動は“正面から堂々と”だった。
相手の情報がカケラも無いのに相手の隙を突くような作戦は、自分の首を絞める行為と同義だ。
そう思った僕は敵と真正面から接触することにした。
相手の服装や持ち物、雰囲気や魔力、霊力、妖力の量や質などが分かるだけで戦い方は随分変わる。
2階の窓から外へ飛び降り、庭へ向かって歩き出す。そこで見た侵入者は――。
「久しぶりだなァ」
「進藤さん?」
侵入者は知り合いの人だった。
進藤さんは“協会”に所属している人だ。槍術と“火”魔法を得意としており、28歳と若い方だが、実力と実績はベテランの人と肩を並べる。見ていた限りでは僕よりも弱いけど。
僕はこの人が嫌いだ。顔を合わせる旅に嫌味を言ってくるし、嫌がらせばかりしてくるんだ。僕の事を「子供だ」ってよく言うけど、どっちが子供か分かってないらしい。
「なにか用があるなら、電話でもしてくれればいいじゃないですか。なんで結界破ったりしたんです?」
「ああ? こっちは急いでんだがよ……まあいい、何にも知らねえまま逝っちまうのはちと可哀想だからな。特別に教えてやる」
懐から煙草を一本取り出し、火をつけて吸い始めた。
「そんなに堅くなんなよ。簡単な話だ。“協会”から光村雪乃の抹殺命令が出てんだよ。お前を殺したら10年間分の研究費がでるって話だからな。なんでよ、他の奴に殺られる前に―――」
彼は一瞬で間合いを詰めて、僕の喉を狙って突いてきた。
完全に聞く体勢になっていた僕は反応が遅れてしまった。すぐに防御障壁を展開。何とか間に合った。が、衝撃までを防ぐことはできず、背後にあった窓ガラスを割ってリビングまで吹き飛ばされた。
「―――俺が殺りに来たんだよ」
全身が痛いが頭をフルで回転させる。どうやら僕は“協会”から賞金首にされているらしい。しかも10年分の研究費って……。
なんでそんなことになってるのかさっぱりだけど、殺されるわけにはいかない。戦らなきゃ殺られる。
家具の残骸を押しのけて庭に出る。ガラスの破片で所々切って出血しているが気にしない。進藤さん――いや、進藤は煙草を吸い終わっており、吸い殻を携帯灰皿に入れていた。変なところで真面目なのがムカつく。
「僕、もう眠たいからとっとと終わらせるよ」
「口だけは達者だなぁクソガキ。俺も眠てぇからとっとと死んでくれや」
進藤がさっきと同じように槍を構えて突進してくる。違うのは炎を纏っている所か。
スキマを開いて武器を取り出し、槍を上にはじく。
「なにっ!」
ガラ空きになった胸にソレを押し当て、引き金を引く。
「消し飛べ!!」
「ぐおっ!!」
爆発音と同時にソレが火を吹き、進藤を庭の端まで吹き飛ばした。80mほど飛んだあと3回ほどバウンドしてようやく止まった。
よろよろと、生まれたての小鹿のように進藤が胸を押さえながら立ちあがる。並の妖怪なら今ので上半身が僕の言葉通り吹き飛ぶんだけど……“火”魔法を付加した炸裂弾は相性が悪かったかな?
「畜生……てめえなんだよそりゃあ!?」
「僕の武器はナイフだけじゃないってことだよ」
僕が両手に握っているのは「コルト・ガバメント」。銃の事には詳しくないから適当に選んだんだけど、今ではこれで良かったと思う。この銃、妙に手に馴染む。
「ぶっ殺してやる……!」
「口では何とも言えるよね。さて、遮音も人払いも何もしてないからすぐに人が来る、そろそろ決めないと」
上手い具合に挑発に乗ってくれているみたいだ。冷静になられる前に何としてでも倒す!
炸裂弾じゃ効かない。氷結弾……いや、音も立てず証拠も残さずにしないと、もう時間が無いしね。できないわけじゃないけど、今から結界を張って詠唱して魔法発動なんていう余裕は無い。
……時間? そうだ、数時間前にできたばかりの“時”魔法ならいけるかも。上手くいくかは分からないけど、他の手段を思いつかないんだからしょうがない。
《術式構築…完了/魔方陣展開》
僕の正面に大きな魔方陣が展開される。
「!? やらせるかァ!」
すこし遅れて進藤が魔法を発動させる。が、数秒僕の方が早い!
《時空列弾、起動》
僕の魔方陣からは無色透明の無数の弾丸が、進藤の魔方陣からは龍の息吹のような炎が放たれた。高度な魔法が僕と進藤の間でぶつかった。
その瞬間、“時”魔法の術式が崩れ、狂い始めた。
「嘘ぉ!?」
まったく予想していなかった事態にさすがの僕も驚いた。魔力の伝導が上手くいかないくらいは考えてたけど、術式が変わるなんて……。今はまだいいけどこれ以上は何が起きるか分からない。出力を上げたくてもさらに術式が狂うだけだし……どうしよう?
なんて迷っている間に術式はさらに狂い、ついに別の魔法になってしまった。しかも発動した。まばゆい光が視界中に広がり始める。
(なんだこれ? “時”と“空間”と……“氷”が混ざってる。なにが起きるんだろ……悪いことじゃないといいなぁ。あー、ねむーい。)
徐々に光りを増す正体不明の魔法に戸惑いながらも、少々場違いな事を考えながら僕の意識は薄れていった。
序章終了。
次から物語が始まります。