24話、初めての人間訪問者
嫁、参上。
今日は何もない日――つまり、幽香と紫に勉強を教える事もないし、修行を手伝う日でもない。というかもう必要ないくらい強くなった。
僕は正直こういう何もない日が好きだ。騒がしいも好きだけど、1人でいる時間は昔では考えられないほど貴重になっていた。
「あー、お茶が美味いなー」
ここ最近変わったことと言えば……僕の中身が変わって来たことだろうか。なんとなく言葉遣いや、仕草が1人きりの時は昔に戻ってしまう。歳をとったからかな。
あとは娘と妹が大人になったことぐらいか。身体の発育もかなりいいし、すごく綺麗になってくれた。今のところ、というか永久に嫁にやる気は無い。
「奈菜花は食材の調達、皐月は鬼と飲みに行って、風音は玉藻とじゃれあってる。幽香は花壇づくり、紫は散歩。見事に誰もいない。暇すぎるのも困りものだよな」
おっと、またしても口調が……。気をつけないとね。
どうも大和の神あいてにブチギレた時から調子がおかしい。このままじゃ周りにばれそうで怖い。
唯一知ってる奈菜花が「そこに居るだけで大妖怪を殺せますよ」とか言ってたからばれたらとんでもないことになる。
「ひまー」
気がつけば紫を拾ってきてからもう数百年経っている。魔導書の編纂はもう終わったし、最近は何を研究すればいいか分からなくなってきたし、娘は可愛すぎるし、妹は可愛すぎるし、つらい。
「なにかいい暇つぶしになりそうなものないかなー。イベントでもいいけど」
スキマの中を除きながら呟く。が、何も無い。ゲームなんて時代的に未来の物は無いし、トランプを1人でやったってつまらないだろうし、ルービックキューブはすぐに飽きるし、いろいろとやりつくしてしまった。時間だけはあるもんだから。
リィィィィィィン
「………人間?」
誰かが探知結界の領域内に入ったみたいだ。霊力だから人間だ。
まっすぐここを目指しているようだ。天雪荘は来るもの拒まずだから誰が来ようが構わないが、来る途中で面倒な事を起こされると話は別だ。そこそこ出来るようなので調子に乗って妖怪達に危害を加えられるのは困る。
「……迎えにいくかな」
初めて人間が来たっていうのに、なんだかなぁ。
遠目から人間を見る。2人組だったみたいだ。
片方は男。茶髪の髪を肩まで伸ばし、服は黒一色。鋭い目つきをしている。感じる霊力は人間にしてはかなり高めだ。少々ガサツな霊力を感じるので、誰かに教えてもらったのではなく、自分で鍛えてきたようだ。少しだが魔力もある。
片方は女。上は紫、額のあたりから茶色に変わるという変わったグラデーションの髪を背中まで伸ばし、服は白を基調としたドレス。この時代では珍しい服だ。なんとなく優しい雰囲気がする。
「気をつけろよ姉ちゃん。誰かが見てる」
「え、本当ですか?」
「ああ。誰だ、出てこい!」
おっと、見つかってしまった。まああれだけじーっと見てれば当然か。
隠れる理由なんてないのでさっさと出る。木の枝から飛び降りて、2人の前に立つ。
「よう、妖怪」
「やあ、始めまして。言っておくけど僕は妖怪じゃないよ」
「嘘つけ! こんだけ妖怪がうようよいるところで人間が生きていけるわけねぇだろ!」
「そのとおり、と言いたいけど違うね。ここの妖怪は人を襲ったりしないよ。あと僕は自分が人間だなんて言ってないから」
「こいつ……バカにしやがって!」
札を構える男。やれやれ、相手の実力も分からないんじゃそのうち死ぬだろうな…。
「止めなさい命蓮。この人の言う通り、さっきから妖怪達は見てるだけで襲ってはこないでしょう」
「で、でもよ!」
「や め な さ い」
「……ハイ」
なかなかに芯の強いお姉さんだ。突っ走り気味の弟と良いコンビだと思う。その調子で僕の話を聞いてくれるとうれしい。
「で、何しに来たの」
「はい。私は聖白蓮、この子は弟の命蓮です。私達はここに仙人が住んでいると聞いてきたのです」
「は? 仙人?」
「仙人です。不可能は無く、森の妖怪を統べる神をも恐れぬ仙人様がおられる、と私達の村ではささやかれているのです」
「へぇ~、仙人ねぇ……居たっけなぁ?」
思い返してみるが、それっぽい人型妖怪は居ない気がする。なんでもできて森のリーダーか……凪、か? いや、頭は良いけど典型的な鬼のあいつが仙人とか言われるわけないし……。他にいたっけなぁ?
「それでですね、実はこの森から来たという方から、仙人様が住んでおられる屋敷までの地図を書いていただいたので、それを頼りにここまで来たのです」
「ふーん。ちょっと見せてもらっていい?」
「はい、どうぞ」
聖さんから地図を借りて、広げてみる。
村と書かれた○はかなりいい加減だが、森の地図はかなり正確に書かれている。杉の大木に鬼の洞窟、妖精たちが集まる花畑まで書かれている。勿論湖と天雪荘も。特に天雪荘は赤い○で囲まれており、村の○から天雪荘の赤い○まで線で結ばれていた。
………ん? なんで家が○つけられてるの? もしかして仙人様って僕?
「旦那~なに別嬪さん侍らせてんだよ~」
「いつからそこにいたのさ、凪」
「!? 鬼だと!」
「命蓮」
「うぐぅ」
酒臭い鬼が僕の後ろに立っていた。こいつスキマでも使ったのか? てか、皐月を連れ込んで酒飲んでたんじゃないのかよ。
「いやぁ~美しいねぇ~。おじょーちゃんみたいな綺麗なやつ始めて見た!」
「そ、そんなこと///」
「照れない照れない~。旦那はおじょーちゃんみたいな清楚な人が好みだからさ~。案外一目ぼれしてたりしてな~」
「………///」
「こら、迷惑掛けるな」
軽く小突いておく。あとで僕のタイプの人をどうして知っているのか聞かないと。場合によってはシメル。
「いてて。ん、その地図この森じゃねぇの?」
「ああ、聖さんのだ」
「はい。その地図で赤い○がつけられている所に私達が探している仙人様が住んでおられるそうで……」
「旦那の家に仙人とかいたっけ?」
「親バカシスコンの魔法使いと、色欲まみれの龍と、うわばみの黒狼と、わがまま全開の狐ならいるけど」
「じゃあその親バカシスコンの魔法使いだな~」
僕は仙人じゃないんだけど。というかここ数百年は森から出てないし。なんで僕が仙人様言われてるんだか?
「あの、何か御存じですか?」
「御存じだよ~。こいつがおじょーちゃんたちがさがしてる奴~」
「ええっ! 本当ですか!?」
「ほんとほんと。じゃ、俺は戻るから旦那頑張れ。嫁さんが貰えるかもしれないぜ」
「余計な御世話だ。とっとと帰れ」
俺が言い終わる前に凪は帰って行った。例のごとく風は起こさずに。
はぁ、暇だから何か起きないかなとか思ってたけど、まさか森の外では仙人呼ばわりされてる挙句、人間が訪ねてくるなんて。退屈はしないけど、なんだかなぁ。
「……あの」
「ああ、凪が言った通り赤○がついてるところは僕の家だから。仙人かどうかは置いといて、案内するよ」
「おい姉ちゃん、ついて行くのか?」
「勿論です」
僕はスキマを開いて2人を招き入れた。
白蓮! 俺だ! 結婚してくれ!




