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東方天雪記  作者: トマトしるこ
2章 諏訪大戦
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17話、諏訪大戦 ~交渉2~

いつもの倍以上の量になってしまった。だが後悔はしていない。


主人公の貴重なシーンのためだ、しょうがない。俺は悪くねー!

「あれかな」


 諏訪子に言われたとおりの方角に進むと、無数の天幕を発見した。規模と離れていても感じる幾つかのプレッシャーからして間違いない。


 降りる前に奈菜花に幾つか守ってほしいことを伝えておく。


「まず、人化しないこと」

「龍を従えていると思わせるんですね」

「そう、そして喋らないこと。わかった?」

「はい」


 近づくにつれてよく見えるようになる。……たしかに3万近くの兵がいる。天幕からわらわらと出てきてこちらを見上げて指を指す。


「気付かれました」

「速度落として、ちょっと様子を見たい」


 少しずつ風の抵抗が減っていくのを感じながら、下の軍隊を観察する。


 10時の方向に広場のような場所が作られていた。そこに下りるように奈菜花に頼み、威圧感の発生源を探る。


(あれだ)


 感じたのは降りるように頼んだ広場の前にある一際大きい天幕からだった。探し回る手間が省けてちょうどいい。総大将はきっとそこに居るはず。


 広場に着陸、剣や槍で囲んでくるが雑兵はどうでもいい。遮る壁にもならないし、戦うために来たわけでもないんだから。


「何事ですか!?」


  黒い長髪の女性と大きな注連縄を背負った女性を筆頭に大きな天幕からぞろぞろと人が―――いや、神が出てくる。

 見ただけでわかった。あの二人は他の奴と格が違う。特に黒い長髪の方。


「総大将はおられるか!? 私は諏訪の地より参った使者である! 洩矢神から書を届けに来た!」

「私です。まさかこちらに来ていただけるとは思いませんでした。さあ、中にお入りください」


 ニコニコしながら出迎えてくれた女性に連れられて天幕の中に入る。奈菜花は仔龍になって肩に乗ってささやいてきた


「上手くいきそうですね」

「敵があの人だけだったらね」

「?」


 僕はなんとなくこの先の展開が読めていた。






 天幕の中は結構広かった。普段は会議などに使われているのかもしれない。

 長机を1つだけ残して僕と天照は対面し、端の方にどけている。こちらが急に押しかけたため、対談の準備などできるわけがない。それでもこうやって場を設けてくれたのは嬉しかった。


「まずは自己紹介からしましょう。私は天照大神、天照とお呼びください」

「僕は光村雪乃。ただの魔法使いだよ」


 ローブの中のスキマポケットからケロちゃんの書を取り出す。が、天照に渡さず机に置いた。


「書を用意してはおりますが、洩矢神の治める諏訪の地へ干渉しないことが望ましいのは変わりません。考え直してはいただけませんか?」

「申し訳ありませんが、それはできない相談です。信仰を得られず苦しんでいる神、これから生まれるであろう神の為に、この地で暮らしている人間たちの為に私達は戦い続けております」

「他の神々の為、民の為という理由は素晴らしいものだとは思います。ですが、話を聞けば武力による制圧ばかり。矛盾しておりませんか?」

「手荒な手段に訴えてしまっていることを否定はできません。しかし、これも神と人間達の為と思いってのこと。全ての神を束ねたその時、私が戦の責任をとります」


 わかってはいたけど、侵攻を止めることはできなかった。天照の思いと覚悟はとても強い。ならば、せめてこの案だけでも受けてもらわないといけない

 天照に書を渡す。


「それが我々の条件です。降伏は考えておりません」

「確かに受けてとりました。私達も諏訪宛の書を用意しております。神奈子」

「こちらに」


 天照はさっき一緒に外に出てきた注連縄を背負った女性―――神奈子から書を受け取り、僕に渡してきた。

 受け取って、拝見させていただく。


「………」

「………」


 ここでもう一度確認しておこう。

 僕ら諏訪側が提示した条件は簡単にいうとこうだ。

1、侵攻を止めてほしい。

2、止める気が無いのならば、全面戦争ではなくせめて一騎打ちにしてほしい。勝てば諏訪に2度と足を踏み入れないこと。負ければ土地を明け渡す。

 こんな感じ。天照が読んでいる書にはもっと詳しい内容が書かれている。


 対して僕が読んでいる天照―――大和の神が提示した条件はこうだ。

 “今すぐ全ての武力を放棄し、信仰と土地を明け渡し、我らが軍門に下れ”

 某世界大戦の宣言のような無条件降伏を受け入れろという内容だった。いや、降伏させた挙句協力しろと言うあたり、さらに性質が悪い。


 今すぐここら一帯を氷漬けにしてやりたいのを我慢して、天照が読み終わるのを待つ。これは天照が用意した物じゃないんだろう。中身を確認せずに渡した天照も悪いが、批難すべきは用意した神だ。八つ当たりはよくない。


(誰だよこんなの考えたの、通るわけないだろ。これじゃ戦争になるのも仕方ないね)


 カサカサ音がしたので顔を上げると、天照が書を畳んで机に置いていた。


「私としては依存はありません。もっとも少ない被害で済むのであれば、それに越したことはありません。殺さずに決着を着ける、賛成です。雪乃さんはどうですか?」

「………神奈子さん、だっけ。これ読んでくれない?」

「? わかった」


 神奈子に大和側が用意した書を渡す。4体が「やべぇよ……」って顔をしているのを見た。あいつらが犯人だ。顔は覚えた。


 読み進める神奈子の顔がだんだんと怒りに染まっていく。


「神奈子?」

「……読めばわかります」


最後まで読み終えた神奈子は天照に渡した。目が文字を追うにつれて天照も怒っていくのがわかる。溢れる神力が肌に突き刺さるように痛い。

 読み終えた瞬間、書を叩きつけた。グシャグシャにしなかったのは残った理性と礼節が働いたおかげだと思う。


「これを書いたのは誰か!! 前に出よ!!」


 感情を爆発させた天照に全ての神が竦み上がる。丁寧な言葉遣いがどこかに行ってしまったのを見ると相当頭にきているんだろうね。僕もだけど。


「あ、天照様、何が書かれているのですか?」

「……『一刻も早く我らに全てを差し出し、忠誠を誓え』と」

「しかもその書は天照様の字ではない。誰かがすり替えている」

「なんと!?」


 神奈子のフォローも入ってさらに動揺が広がる。それもそうだ。偽物の書を用意して、すり替えるのだから。これでは天照達大和の神々が悪者になってしまうのも仕方がない。


「私が前に出よと言っているのだ!」

「はぁ………はやくしなよ。わかってるんだからさ」

「「「「!?」」」」


 なんでばれた!? みたいな顔しちゃってさ、一歩引いて見てみればわかるっての。みんな怒ってる中で焦ってるんだから。


「なに、恥ずかしいの? しょうがないなぁ、僕が引っ張りだしてあげるよ。このままじゃ終わらないし」


 魔力糸を4体の首に巻きつけて引っ張り出す。苦しそうだがまったく気にならない


 さて、尋問の時間だ。


「なんでこんなことをしたの? いや、ずっと続けてるのさ」

「で、出鱈目を言うな!」

「どもってる時点でやってましたって言ってるもんだよ。普通はばれないかって不安にでしょうがなくて態度に出るものなんだ。慣れたらそうでもないけどね」

「くっ………て、低級の神ごときに我らが信仰を分け与えねばならん理由など無い! クズはクズらしく生きておれば良いのだ!」

「今度は開き直り? 見苦しいね」

「だまれ人間が! このクズが!」

「そのクズに殺されるあんたらは何なんだろうね? ゴミ?」


 赤い雨が室内に降り出した。


「な……」

「あらら、神様って結構脆いんだね。ちょっと力を入れただけなのに」


 人差し指を軽く引いただけで1体の首が飛んじゃったよ。


汚い血の噴水を残った身体と離れた頭ごと凍らせて砕く。個体から気体に昇華させ、死骸はあとかたもなく消えた。


「あんたらのくだらない我が儘の為に天照や神奈子、他の神々や戦ってきた兵たちに申し訳ないと思わないの? ああ、そんなことを考えることもできないくらい幼稚なんだね」

「人間風情がぁああぁぁ!!」

「黙れ。《氷獄》」


 《氷獄》は大気に粒子化した氷を蔓延させ、内側から凍らせる魔法。範囲を目の前のゴミ達の周囲に固定する。

 範囲を狭くしたのが裏目に出て、仕掛けてくると察知した2体の神に逃げられた。遅れた1人は凍りつき、さっきのやつ同様消える。


「《アブソリュート》


 《氷獄》が広範囲に作用する魔法なら《アブソリュート》は狭い範囲、単体向けの魔法。

足から凍りついていく、が、無理に動かそうとして砕けてしまい倒れてしまう。そのまま凍りつき消滅。


 残った1体が天幕の外に出ようとする。慌てて逃がさないように神奈子が指示を出すがもう間に合わない。

 天幕の出入り口の布をめくって外に出た。


「ぎゃあああああああああああぁぁああ!!」


はずだったが右足を失った状態で戻って来た。否、吹き飛ばされて天幕の中に入って来た。外には赤い鱗の龍。

逃げられないようにスキマで奈菜花を外に送っておいてよかった。


「さて」

「ひいっ!」


 ゆっくりと一歩ずつ歩み寄る。こちらを向いた神は足を吹き飛ばされた痛みも忘れて少しでも僕から離れようと身体を引きずる。が、後ろには龍、横には大和の神々、逃げ場は無い。


「僕はね、いろんな人から優しいとか甘いってよく言われるんだよね。自分でもそう思う時があるよ」

「く、来るな……」

「でもね」

「来るなぁぁぁぁぁああ!!」




オレ(・・)はあんたらみたいな自分さえ良ければ他の奴なんてどうでもいいとか、一生懸命に頑張ってる奴を笑ったりバカにするやつが大ッ嫌イなんだよ!! 恥を知れ!! 俗物が!! とっとと失せろ!!」




 一瞬にして凍らせ、消した。躊躇いも手加減も一切無しで。


 ちょっと暴れてしまった、後片付けしないと。

 飛び散った血だけを凍らせて気体に変え、“風”で換気する。仔龍に戻った奈菜花が肩に乗ったのを確認して天照の方を向く。何が起きたのかわからないって顔をしてた。


「悪いね、ホントなら天照達が罰を与えるんだろうけど、我慢できなくてやっちゃったよ」

「い、いえ……お気になさらず」

「それは良かった。じゃ、話の続きをしようか」

「はいっ!!」

「え、」


 敵の大将さんから敬礼された時ってどうすればいいと思う?
















「てことになったから」

「随分と私に良い条件じゃないか」

「そこはあれだよ。僕の交渉術」

「はいはい」


 軽く脅してしまったというのもあるかもしれない。あんなの目の前で見せちゃったらねぇ。


 ちなみに交渉(?)の結果こうなった。

 ・洩矢の代表ケロちゃんと大和の代表(八坂神奈子)の一騎打ち。

 ・両陣営から審判が1名ずつ。審判を務める者は公正な判断を下せる者に限る。

 ・勝敗は相手が降参の意思を示すか、気絶、戦闘不能な状態にすること。なお、後の生  活に後遺症が残った場合、殺してしまった場合は諏訪の勝利とする。

 ・大和側が勝利した場合、大和が土地の管理を行い、諏訪の信仰を分けてもらう形にする。

 こんな感じ。

 もめごとは喋っていない。


 一騎打ちまで持っていければいいと思っていたため、それが実現しただけでなく、負けても消滅することは無く、民の安全も確保されている。諏訪子は随分なんて言ってるけどこれはかなり良い条件だ。負けた時の相手のアフターケアまでされてるんだから。


「あとはケロちゃん次第だよ。頑張ってね」

「勿論さ!」

「神奈子は強いよ。勝算はある?」

「私は祟り神、相手は軍神。差はあって当然で、勝算なんて無いようなもんだよ。それでも負けるわけにはいかないんだ。やるしかないでしょ」

「で、ですが諏訪子様……」

「大丈夫だよ、私にはとっておきがあるんだ!」

「へぇ」

「楽しみにしてるわ」

「退屈はさせないよ」


 ケロちゃんの言うとっておきは多分“アレ”のはず。だとしたら、この戦は負け、史実通りになる。ケロちゃんには悪いけれど、歴史改変はさすがに拙いからやらない。


 決闘は3日後。気長に待つとしようかな。


ええい! 諏訪の魔法使いは化け物か!!  by大佐



天照が言っていることは作者が考えた理由です。ご注意ください。

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