11話、目覚め
2章スタート!
とは言ってもまだ諏訪に行かないんですけど。
「知らない天井だ……」
一発目から何言ってるんだろうね、僕。
まだボーっとするけど、眠る前の事を思い出そう。
都市の爆発から森を守るために結界張って魔法使って。結果的に森は無事だった。けれども殆どの妖怪が死んでしまった。終わってから気づいた僕は妙な無力感と疲労に襲われて眠ってしまった。
部屋はそんなに広くなく、僕が寝ているベッドと机、箪笥ぐらいしかない。窓はあるけど、今はカーテンが閉まっているので光は入ってこない。
ベッドから降りて身体を動かす。どれだけ眠ってたか知らないけど、なんとか動いてくれている。
ドアを開けると外じゃなくて廊下に出た。さっきの部屋だけの家なんて寂しすぎるから、なんとなく建物の中なんだろうなって思ってたけどさ。
ガシャーーン!
「うん?」
後ろからから何かが割れた音がしたので振り向いた。
「あ、ああ………」
「おはよう。えっと、神綺ちゃんだっけ? どうかしたの」
「ゆ、雪乃様?」
「そうだけどさ、様づけは止めてほしいかなぁ。僕はそこまでの人間じゃないし――って僕人間じゃなかった。あと花瓶落としてるよ」
神綺ちゃんは僕を見てカタカタ震えてる。アレ、ナニカシタッケ?
………え、ちょ、後ずさりするほどのトラウマを植え付けてしまったんですか!?
「な、奈菜花様ーー!!」
神綺ちゃんは走り去って――逃げ去って行った。
………。
「ま、待った! 神綺ちゃん待って!」
神綺ちゃん泣かせたなんてこと奈菜花達に知られたら殺される!
『雪乃くーん、何してるんですかァ?』ガスガス
『……最低』ガジガジ
『むーっ! 泣かせちゃ駄目ー!』ガリガリ
龍に頭をつつかれ、狼に足を噛まれ、狐に顔を引っ掻かれるビジョンしか浮かばない。永琳が居ない今、ディスられちゃったらぼっち確定だよ!
後を追いかけて角を曲がる。神綺ちゃんは大きめのドア――多分玄関から外に出ていった。
外に出て行くなんて、同じ建物の中にすら居たくないってこと? ………泣いてもいいかなぁ。
色々言いたいとこだけどとにかく神綺ちゃんを追って外に出ると、神綺ちゃんが奈菜花達にいろいろ言いながらこっちを指差していた。
一斉に僕の方を向くみんな。
……オワタ\(^o^)/
と思ったらみんな泣きながら僕にしがみついてきた。いまいち状況がつかめないなぁ………。あと痛い。
とりあえず、待つかな。何してるのって聞ける雰囲気じゃないし。
「なーんだ、そういう事だったんだね」
「ご、ごめんなさい」
「いやぁ、何の覚えも無いのに嫌われちゃったと思って焦ったよ」
焦ったのは奈菜花達にディスられることなんだけどね。
神綺ちゃんは眠り続けていた僕を見て驚いただけらしい。ホントに安心したよ。
「それで、僕はどれくらい寝てたの?」
「覚えてないよー。万は越えてるはずだけど」
「万単位ですか! そんなに寝てたのか……」
風音が言うってことはそうなんだろう。にしてもよく身体が動いたなぁ。普通身体が固まって動かないはずなんだけど。
「ここは?」
「あの後に湖のすぐ近くに立てた屋敷。名前はまだ無い」
「吾輩は猫で―――いや、なんでもないよ。見た感じ立派な屋敷なんだから名前ぐらいつけたら?」
「雪乃に考えてほしかったから」
「あ、そうなの? じゃあねぇ………“天雪荘”なんてどう?」
しばし考え込み……。
「いいですね。決まりです! いえ、雪乃君が決めたというのに反対なんてするはずがありません!」
「そこまでは言わないけど、反対するつもりはないわ」
「私もいいよー」
「では、いまからここは“天雪荘”と呼びましょう。皐月ちゃん、みんなの“向きを”ここに向けてください」
「わかった」
皐月は外に出ていった。皐月の能力は『向きを変える程度の能力』。みんな……というのが誰なのかわからないけど意識を天雪荘に向けるんだろう。
神綺ちゃんが入れてくれたお茶をちょっと飲んで喉を潤す。うん上手い。
「さて、僕が眠った後の話を聞かせてほしいな」
「では私から。ちょっと長くなりますよ。
雪乃君が眠った後、私達はいつもの湖の傍に家を建てました。私と皐月ちゃん、風音ちゃん、そして生き残った小妖怪あわせて18体で過ごしながら、森と都市があったところを見守り続けてきました。数百年ほど経った時、小屋はたくさんの妖怪や妖精、野生の生き物たちが集まる場所になり、住むようになっていました。
そこで私達は小屋を回収することにしました。ただこの地を見守るだけでなく、数多の生物、妖怪、妖精、人間たちの居場所にするために。そうしてできたのがこの“天雪荘”です。
今までたくさんの妖怪がここで生まれ巣立って行きました。1度足を運んだ妖怪は何度もここへ身体を休めに来ます。森の妖精たちはいつもここで遊んでいます。
そうして気が付いたらすんごい時間が経っていました。ってところです」
「へぇー」
なんか宿屋みたいだね、孤児院みたいな事もやってるんだ。何と言うか、仲間思いの奈菜花らしい。
「あの時の妖怪でここにいるのは神綺ちゃんだけなの?」
「普段はいませんよ。今日は里帰りしてきただけです。それにしてもなんて私運がいいのかしら~♪ 雪乃様が御目覚めになられた日にここにいられるなんて………奈菜花様、今日は記念日にしましょう!!」
「神綺ちゃん………あなた天才!! 今夜は宴会よー!」
「やったー! ねえねえ雪乃、私すっごく料理が上手になったんだよ!」
「お、じゃあ期待して待ってようかな」
「うん!」
いつものように頭を撫でる。とっても気持ちよさそうだ。
僕にとって都市が爆発したのは昨日出来事だけど、みんなにとっては違う。風音もこうやって撫でられるのは久しぶりなんだよね。
寂しい思いをさせちゃったかな……。
「あっ、風音ちゃんずるい! 私もしてください!」
「そうです! 風音様だけなんてずるいです!」
「私もしてほしい……」
奈菜花に神綺ちゃんにいつの間にか戻ってきていた皐月も僕にくっついて離れない。正直痛い。ただ、なんとなく懐かしいなって思う。眠っていたけど、僕もみんなと同じだけの時間を生きてきたってことかな。
「ま、いいか」
今日ぐらい我が儘に付き合ってあげるか。