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じりりりりりっ!!



突然鳴り響いた目覚ましに驚き、飛び起きた。

…何年使ってもこの音に慣れないんだから…私ってば…。


起床時間ぴったりなんだから、長年の相棒である目覚まし君はしっかりと真面目に仕事してくれたことになるんだけど。

正直、毎朝毎朝心臓に負担がかかることこの上ない。

しかも今朝は目覚める寸前まで夢を見ていただけに、目覚めは最悪だった。

心臓がまだバクバクいってる。


私は左胸に手をあて、鼓動が落ち着くのをじっと待った。




それにしても。


あの夢を見たのは、久しぶりだった。



中学校の卒業式。

焦がれるほどの想いはあの頃よりも和らいだけれど、でもこうして夢で見させられるとちょっと辛い。

辛い分だけまだ想いを引きずっているから。



あの後、父親の仕事の関係で遠くに引っ越してしまった私。

お陰で今日現在に至るまで彼に会う事は全くなかったし、これから先も会うことなんてないけれど。


”時間薬”という言葉を信じて、今日の今日まで生きてきた。

離れてみれば想いは薄れていくものだって思っていたのに、私の場合、全っ然!そんな言葉は当てはまらなかった。


未だにしつこく初恋にしがみつく自分を”馬鹿だ”と罵る毎日。



私、笹原瞳は、25歳になった今でも、初恋の彼・富樫雄大君に心を奪われたままだ。




もう年も年だし、もちろん、男の人とお付き合いしたりってこともあった。

この人ならきっと彼以上に愛せるに違いないと、その度に運命を感じてみたりするのだけど。

お付き合いに慣れてくると知らず知らずのうちに富樫君との違いを探す自分に気付き、抱きしめられてキスされた途端”違う!”と自分の持てる全てで拒否して…ジ・エンド。


こんな私に呆れた親友の真世は、数度の経験を経た後、もう決して私に男友達を紹介しようとしなくなった。


『こうなったら、あんたの気の済むまで、とことんその富樫って男の影を追いかけなさい!

 そして、しわくちゃのばーさんになって、この日の事を後悔するがいいわ!』



叱咤激励とも切り離しともつかない台詞。



それでも気持ちが暴れて苦しくなった時に突然呼び出しても、嫌な顔して悪態つきながら時間を空けてくれるもんだから。

きちんと私を理解して受け止めてくれてるんだ…なんて、どっぷり甘えきっている。


迷惑かけて生きてる私。

彼を思う気持ちを捨てない限り、きっと私ははた迷惑な、前に進めない女のままだ。


それでもいいと心安らかな日々を送っている私は、もう救いようもない末期症状ってことなのかもしれない。



けれど。

彼の夢を見たあと、こんな自分のことを悔やんでしまう。


夢を見た日は、一日中考えるのは彼のことばかり。

その度に”この大馬鹿娘!”と自分に向かって叱責してみても、どこか空しい。



あの頃、中学生だった私の目から見て、彼はとても大人びて見えた。

今はもっともっと素敵な大人の男に成長してるに違いない。


私がいなくなった後、彼はどんな人生を歩み、どんな風に生きてきたんだろう?


有名な私立高校を出てから、大学にいったのかしら?

どんな将来を夢見て、どんな学部で学んだんだろう?

今は何してる?

就職?それとも、大学院に行ってるのかな?


どこの街で暮らし、笑い、人生を謳歌してるんだろう?

恋は…してるのかな?


もしかしたら…木本さんと恋人同士になっているのかもしれない。



また胸がちくん、と痛んだ。




子供だった私が最後に彼と交わしたとんでもなく乙女チックな約束。

彼は覚えてくれているだろうか?

もし私に会ったら、今でもちゃんと守ってくれるのだろうか?

かなり確かめてみたい気がする。




だから。



「………会いたいな」





未練たらたら。




こんな日は、真世を呼び出して飲むに限る!

重たく始まった一日の終わりに勝手に楽しげな計画を書き込み、今週最後の出勤に向けて準備を始めた。







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