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春、3月。
朝から冬の名残の雪がちらちらと舞っている。
今日は中学校の卒業式。
大切な門出の日だというのに、どんよりとした曇り空。
厚みを感じさせる雪雲が、まるで心まで覆い隠していくようだ。
…痛みを伴う”別れ”を予感させるように。
別れの儀式を終えて。
みんなととのに写真を撮り終えて。
私は心の中で温めてきた”想い”を彼に伝えようと決意し、教室に舞い戻った。
そこには予想通り、ぼんやりと校庭を眺める彼がいた。
中学生活の3年間、ずっとずっと想っていた。
ふとした時に見せる哀しげな瞳が心に焼き付いて、離れなかった。
凍えた心を隠して、穏やかに微笑むことで感情に蓋をして。
背中で泣いている彼のことを…私の腕で温めたかった。
そして、その腕に温められたかった。
一世一代の告白は、やはり、あっけない一言で終わった。
「…ごめん」
わかってた。
彼が誰を好きなのか。
叶わぬ恋に身を焦がしていた期間は、きっと彼の方が長い。
彼の肩越しに見えた窓の外は、雪が白い斜線を引いているように吹き荒れていた。
もう、帰らなきゃ。
けど。
あと、一言だけ。
ずっと友達として仲良くしてきて、彼がどれだけやさしい人か知ってる。
そんな彼だからこそ、こんな無理なお願いをしてみたくなった。
「ねぇ、お願い。
もしね、もし、これから何年もたって偶然街中で会ったら…
その時は嘘でもいいから『きれいになったな、あの時振ったことを
後悔するぐらい』って言ってくれる…?」
「…なんだそれ?」と彼は薄く笑った後、至極真面目な顔をして言った。
「約束する」と。
それから握手をして、「元気でね?」と型どおりの挨拶をして、教室を後にした。
ぱたん、と教室の扉を閉めた瞬間。
両目から涙がとめどなく流れ始めた。
積もりに積もってしまった、彼への恋心。
全部を涙にして流してしまうつもりなら、これだけじゃ全然足りない。
だから今だけは、止まらなくったって仕方がないじゃないって、甘えていたい。
それから、長くない年月をかけて。
その日の事は私の中で、ほろ苦くて冷たい大切な思い出になった。