表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王女ソフィアの野望  作者: kaji
第一章「ストレガ編」
9/17

第八話「木蓮弐式」

7月29日修正

 クレア大臣はアルフレドの馬で隣国のマルサラに来ていた。マルサラの国王に挨拶を済ませ、今はヴァルト山脈の中腹辺りに住んでいるトール博士の所の元へと向かっていた。

「くしゅ」

「どうしました?」

「なぜか悪寒がします」

「大丈夫ですか」

「大丈夫です。行きましょう」

 クレア大臣はマルサラで機動兵器の量産化が実現したという話を耳にしていたので、そのことについて聞くために開発者のトール博士の元へと向かっていた。

「しかし、いつもながら思いますがトール博士はとんでもない所に住んでいますね」

「そうですねー」

 トール博士は機動兵器の開発者とは思えない古びた丸太小屋のような所に住んでいた。クレア大臣がドアを強めにノックすると、不機嫌そうな顎鬚を生やした怖そうな老人が出てきた。

「なんじゃ。お主か」

「クレアです。お久しぶりです」

「何の用じゃ。わしは忙しいのじゃが」

「今日はマルサラの量産機動兵器について聞きに参りました」

「……入れ」

 少し間があったが、トール博士はクレア大臣だけを家の中にいれてくれた。アルフレドは仕方が無いので家の外で待つことにした。

「あれはな。わしは一枚も絡んでおらん。国王が勝手にやったことじゃ」

「じゃあ本当なのですか? 機動兵器の量産化に成功したっていう話は」

「本当じゃ。ただわしの知らん所でやりおって。ふざけた連中じゃ。あれはわしの作ったT-02をベースにした機動兵器でT-02に比べると大分性能は落ちる」

 ちなみに木蘭弐式はトール博士の開発した機動兵器T-02をベースにした試験用機動兵器で、もちろんトール博士の許可は取っている。

「そして、近々この量産機でアマーロとやりあうらしいのじゃ。おそらくこれでこの大陸の戦闘のあり方は変わってくるはずじゃ」

 アマーロとマルサラの国境付近での戦闘が激化している。アマーロはマルサラの豊富な鉱物資源を狙っていた。そのため機動兵器の量産化はマルサラにとっては危急に行わければならないことであったが、量産化に成功したというのは本当の話のようだった。

「これから大変なことになりそう。早く動かないと。アルフレド今すぐ帰りますよー。ありがとうございます。トール博士」

「また来なさい。あんたなら大歓迎だ」

 クレア大臣はアルフレドの馬に跨り、早急にストレガに戻った。



 その頃、ストレガの城内では大変な事件が起こっていた。マキナが操縦する木蘭弐式はフランシス王子を捉えていた。

「ゴメス! 前方に危険物がある。なんだ。あれはなんでこんなものがストレガにあるんだ! この機動兵器はマルサラの技術なはずだ! ゴメス何とかしろ!」

「ハ! 」

「目標発見。照準固定レーザー発射します」

 青みがかったレーザーがゴメスを打ち抜いた。回避しようとしていたゴメスだったが一瞬にして氷づけになった。

「なんと言う威力だ。覚えてろよ」

 その様子を見て、青ざめたフランシス王子は一目散に逃げた。

「すっきりしたな。マキナ」

「これがあれば世界をとれる」

「おい、マキナ何を言ってるんだ」

 マキナは木蓮錦の操縦桿を握りながらプルプルと震えていた。

「どけ!」

「お、おい!」

 マキナはアレスを振り落とした。とっさの出来事だったのでアレスは踏ん張ることも出来なかった。

「マキナ! 何をするつもりだ」

「これで私は世界を取れるー!!」

 マキナは木蓮弐式でどこかへと行ってしまった。

「大変だ。あいつおかしくなってしまった」

 アレスはマキナを慌てて追いかけた。



「と、止まれ!」

 木蘭弐式は次々現れるストレガの騎士を両方の足でなぎ倒していった。普通の剣では傷一つ付かない装甲になっている。木蘭弐式は一般の騎士の手には負えなかった。

「囲め! 絶対に外に出すな!」

「だ、駄目です。剣が効きません」

「はっははは。そんなものでは傷一つ付かないですよ」

 高笑いしながらマキナの乗る木蓮弐式は玄関へと向かっていった。



 その頃、クレア大臣の部屋ではオットーが激怒していた。クレア大臣の部屋の壁には木蓮弐式が出撃した大穴が開いていた。

「あいつらめ。クレア大臣の部屋をこんなにしおって。リサ、騎士団に伝えて玄関を固めさせろ。絶対に外に出させるな」

「は、はい」

「マキナ、アレスわしを怒らせるとどうなるか……身をもって知ってもらおうか」

 オットーの手には何年も使われていなかった剣が握られていた。



「だ、だめだ。剣が貫通しない」

 第一師団団長ブルーノは第一師団を率いて、木蓮弐式と戦っていたが、まったく歯が立たなかった。先ほどまで他の騎士とキャッチボールをして遊んでいたのが嘘のような光景が目の前に広がっていた。

「アイリスを呼んでこい」

「アイリス魔法師は酔いつぶれております」

「いいからたたき起こせ! 今すぐにだ」

 ブルーノは第一師団の騎士に魔法師のアイリスを呼びに行かせた。あいつならなんとか出来ると思ったからだ。

「その前になんとかここを持たせないと。勝負だ。第一師団隊長ブルーノが相手をしてやる!」

 ブルーノは剣を構えると、木蓮弐式に立ち向かっていった。一世一代のブルーノ戦いが今始まった。



「だ、だめだ」

 ブルーノは木蓮弐式の足に何度も振り払われ、ボロ雑巾のようにぼろぼろになって倒れていた。今は立ち上がることもままならなかった。

「なんなんだい。いったい」

「あれをなんとかしてください」

 そこにようやく魔法師のアイリスがやってきた。眠そうな目をこすり、だるそうにフラフラとやってきた。

「ありゃ。無理だ。あれはなあたしがこのバルガス大陸で少ししか取れない魔石を積んでいるんだ。あたしの魔法でも弾くよ」

 そこに帯刀したオットーがやってきた。

「アルフレド軍団長はどうした?」

「軍団長はクレア大臣と共に出ております」

「全師団を出せ! 今すぐにだ!」

「もう出ています。第一、第二、第三ともに壊滅。第四、第五、第六以下はただいま交戦中です」

「なんとも情けない。たった一機の機械ごときにわしも出るぞ。わしに続け」

 玄関を守っていた防御部隊は木蓮弐式をとめようとするが、レーザーと硬い防御を破れず苦戦していた。あっという間に正面玄関を破られ、中庭に出られてしまった。オットーは残存している騎士を引き連れて、木蓮弐式を追いかけて中庭に出た。



 中庭では全師団が木蓮弐式を止めようと集結していた。

「くそ! たかが一機落とせんとは! 矢で操縦席を狙うんだ」

 弓矢部隊は照準をむき出しの操縦席に合わせて矢を射ったが何かバリアーのようなもので守られているようで、マキナにたどり着く前に矢は弾かれてしまった。

「ありゃー。完璧に作りすぎたか」

 アイリスが人事のようにつぶやいていた。

「わしが相手じゃ」

 そこに合流したオットーが木蓮弐式の目の前に立ちはだかった。

「マキナ! そこから引きずり出したらアレをするから覚悟しておくのじゃな」

「……」

 的を絞らせないように素早く動き、木蓮弐式を翻弄した。その隙にオットーは木蓮弐式の右足に切りつけた。

「くっ! なんと」

 確かにオットーの剣は木蓮弐式の右足を捕らえたはずだったのだが、まったく手応えがなかった。まるで剣先が滑るように受け流されたようにオットーは感じた。対騎士用に作られた木蓮弐式のボディは、剣を弾きように特殊加工されていたのだ。

「オットー、剣は効かんぞ。諦めるんだな」

「アイリス、貴様も手を貸さんか」

 木蓮弐式から離れた所で魔法師のアイリスが胡座をかきながら、叫んできた。

「あれは魔法も弾くんだよ。あたしの手には負えない」

 剣が効かないようなので、剣を捨てて棍棒で殴る。さすがの木蓮弐式も態勢をくずされていた。人間の動きとは考えられない速さで木蓮弐式を翻弄する。徐々にだが、木蓮弐式の装甲がボコボコになっていく。

振りかぶり攻撃。弐式は横に大きくジャンプした。

「なんじゃと。しまった」

そこに青いレーザーが放出された。さすがのオットーも避けきれず、レーザーの餌食になり凍りづけになってしまった。

「ぐうう。無念じゃ……」

 そういったきり、オットーは棍棒を地面に落とし、沈黙した。



「マキナ勝負だ!」

 オットーの戦う様子を陰から伺っていたアレスは、オットーがやられているのを見ると、木蓮弐式の目の前に飛び込んできた。手には先ほどオットーが持っていた棍棒が握られていた。

アレスはレーザーをかいくぐりながら、戦った。

(なんとか操縦席の裏に回り込めばいけるはずだ)

「うおおおおおおおお!」

 背後に回りこみ、木蓮弐式の背中を踏み台にして大きくジャンプした。そこには無防備なマキナの頭が見えた。その頭をアレスは横殴りに殴った。運良く背後にはバリアがなかった。

「あ。そういえば後ろにはバリアつけてなかったわ」

 マキナは木蓮弐式の操縦席から、脱落した。瞬く間に騎士団に囲まれ、包囲された。

「マキナー。覚悟するんだな」

「ひーん。ゆるしてー」

「オットーさん。こいつをどうしますか」

 お湯をかけてもらい、復帰したオットーがマキナの前に仁王立ちしていた。オットーの顔は今まさに爆発しようとものすごい顔をしていた。

「ここは私に預けてください」

 そこにマキナの保護者のソフィアがやってきた。冷静を装っているように見えたが、顔は引きつってかなりお怒りのようだ。

(マキナ……死んだな。いいやつだったのに)

 アレスはマキナに向けて、手を合わせた。

「マキナ来なさい……」

 ソフィアはめちゃくちゃ怒っている。当たり前だ。

「ざまあないな。マキナ」

「あんたもよ」

「え。なんで?」

 アレスはソフィアにマキナ共々連れて行かれた。

「そういえば私掃除がまだだったー」

「逃げられると思うの」

「いえ……」

 アレスは強い力は人をだめにするなと思った。



「あれ? なんで、なんでなのー。もーちゃんがボコボコになってるー」

 マルサラから急いで帰ってきたクレア大臣はボコボコになっている木蓮弐式を見て、呆然としていた。もーちゃんと名付けて可愛がっていたので、今や泣きそうになっていた。

「クレア大臣。どうやら他の騎士に聞いた所によるとメイドのマキナが木蓮弐式を使って暴れまわったようです」

「クレアのもーちゃんがー。ボコボコにー。マキナはご飯抜きです!」

 クレア大臣は木蓮弐式を撫でながら叫んでいた。



 アレスとマキナはソフィアの部屋で正座させられていた。オットーとソフィアは無言で仁王立ちをしている。言わなければならないのだが、マキナ達は自分の側近なので躊躇しているのだろう。やがて、オットーと短く会話をして、意を決してマキナは言った。

「あんたたちは国外追放よ。しばらく頭を冷やしてきなさい」

「え、まじで」

 どうやらアレスとマキナはしばらく国外追放されることになった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ