第七話「クロスティーニの王子は馬鹿だった」
クレア大臣は次の日、軍団長アルフレド以下何人か引き連れて出て行った。結局、遺言のことは分からなかった。
その代わりに隣国クロスティー二からアホ王子がやって来た。クロスティー二の第一王子フランシスである。王子100人近い騎士軍団をぞろぞろと引き連れて、馬鹿丸出しでやってきた。馬鹿みたいな巻き毛にやたらととがった三角帽子に真っ赤なマント。天を突くような尖った靴にやたらと派手なピンクの上着を着ているので否が応でも目立っていた。
「おーぅ。僕のそふぃあー。今日も美すぃーねえ」
「え、ええ。ありがとう。ゆっくりしていって」
「まきなさぁんもお美すぃーですねぇー」
「……。あ、ありがとうございます」
あのマキナが引いていた。3mくらいの距離がある。
(これが心の距離というものだろうか)
「そふぃあー。今日もぉ。君のためにプレゼントを用意したんだ。ゴメス! 頼む」
「ハ! 今すぐに」
パチっと指を鳴らすと、ものすごく色黒な馬鹿でかい騎士と何人かの騎士が入ってきて、銅像を10体ほどもってきた。やけにリアルなフランシス王子の等身大の銅像いや金像だ。(とてつもなくいらねえ)
「純金製の僕の銅像だよ。大切にしてくれたまえ」
「え、ええありがとう。大切にするわ。マキナ、後で、溶かしてじゃなくて大切に保管してね」
「分かりました。大切に大切にいたします」
(こいつら絶対溶かして金にしやがる)
「この間はこの玄関をバラの花でいっぱいにしたんですよ」
いつの間にかアレスの隣に来ていた。マキナがアレスに耳打ちしてきた。
「ソフィア、ジェラルド国王の容態はどんなんだい? 今日こそ挨拶をさせてもらいたいんだが」
「ちょっと今日も具合が良くないの。悪いけど返ってあなたに会うと悪くなる。いえ、具合が悪いからと最近は誰にも会いたがらないの」
「それはいけない。ゴメス!」
再びパチっと指を鳴らすと、先ほどの色黒の騎士がやってきた。どうやら彼はフランシスのお付の騎士のようだ。
「バルガス大陸で一番の医者を連れてきなさい。今すぐにだ。金はいくらかかっても構わん」
「ハ。今すぐに用意いたします」
「だ、大丈夫よ。昔からお世話になっている主治医に見させているから」
「そうですか。それは残念です。ゴメスやめさせろ」
「ハ! 了解です!」
「ソフィア。お腹が空かないかい。今日はとっておきの料理を用意してきたんだ。ゴメス!」
「ハ! 40秒で支度します!」
「い、いいわ。今お腹減ってないから」
「ゴメス! やめていいぞ」
「ハ! 了解です」
段々こいつはゴメスって言いたいだけじゃないのかと思えてきた。
「クレア大臣はいらっしゃいますか?」
フランシスは嘗めるように地面をキョロキョロと探し出した。
(いや、クレア大臣はそこまで小さくないから)
「今日もいないのよ。残念ね」
「そうですか。今日こそはご挨拶をと思ったのですが、クロスティーニの方にもいらしていただけないですし、残念ですね」
今思うとこれも見越して、クレア大臣はいなくなったのかもしれない。
「だいたい誰だ。あのアホ丸出しのやつは」
「あれはクロスティーニの王子フランシス様です」
「まあ、どうでもいい。俺には関係ない」
ソフィアにはまるで相手にされていないようだ。アレスは飽きたのでブルーノとキャッチボールしに戻ろうと思ったら、その様子がフランシスの目に入ったようだ。こちらにやってきた。
「こちらの騎士は初めて見るが」
やばいなと思いつつ、アレスは仕方が無いので頭を下げた。
「私の護衛の騎士よ。大した男ではないわ。食事でもしながらお話しましょう」
「貴様! 何という名前だ」
「……」
「名を名乗れ。私をクロスティー二の王子だぞ」
「俺はパブロ・ディエーゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ホアン・ネポムセーノ・マリーア・デ・ロス・レメディオス・クリスピーン・クリスピアーノ・デ・ラ・サンティシマ・トリニダード・クルンテープマハーナコーンアモーンラッタナコーシンマヒンタラーユッタヤーマハーディロッカポップノッパラットラーチャターニーブリーロムウドムラーチャニウェートマハーサターンアモーラピマーンアワターンサティットサッカタティヤウィッサヌカムプラシット・ベンティアドショットヘーゼルナッツバニラアーモンドキャラメルエキストラホイップキャラメルソースモカソースランバチップチョコレートクリームフラペチーノでございます」
「パブロ・ディエーゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ホアン・ネポムセーノ・マリーア・デ・ロス・レメディオス・クリスピーン・クリスピアーノ・デ・ラ・サンティシマ・トリニダード・クルンテープマハーナコーンアモーンラッタナコーシンマヒンタラーユッタヤーマハーディロッカポップノッパラットラーチャターニーブリーロムウドムラーチャニウェートマハーサターンアモーラピマーンアワターンサティットサッカタティヤウィッサヌカムプラシット・ベンティアドショットヘーゼルナッツバニラアーモンドキャラメルエキストラホイップキャラメルソースモカソースランバチップチョコレートクリームフラペチーノ君。君は第一師団団長を解任されたようだったね」
「……ハ! そのとおりでございます」
なんでこいつがそんなこと知ってるんだよと思った。しかも、名前まるまる返されたよ。
「ソフィアもこんなやつを護衛にしていると怪我をするぞ」
「彼はよくやっているわ」
珍しくソフィアがフォロー。それが気に食わなかったのか。
「ならばうちのゴメスと対決してみてくれないか。ゴメス!」
「うおおおおお!」
「おやめください。こんな場所で」
「そうであったな。失礼。まあやらずともゴメスの方が上か。ハッハハハハのハ」
フランシスはソフィアと一緒に高笑いして去っていった。
◇
「なんなんだ。あいつは!」
フランシスに挑発され、アレスは激怒していた。
(そういえばブルーノと玉子キャッチボールしていた時に、ブルーノの暴投でぶつかったやつがいたな。誰もみていなかったから暴力で黙らせたが、今考えるとクロスティー二の王子だったのかも知れない)
「なんとか一泡吹かせたい。マキナ手伝ってくれ」
「私も彼のことはいつかどうにかしたいと思っておりました。お手伝いしましょう」
初めてマキナと意見が一致し、がっちりと握手をした。
◇
「私に考えがあります」
アレスはマキナについていくことになった。
「どこに行くんだ?」
「着いてくれば分かります」
見覚えのある部屋。クレア大臣の部屋だ。マキナは懐から無数の鍵を取り出した。
「私は全ての部屋の鍵を所持していますので、クレア大臣の部屋も開けることができます」
「いいのかよ。勝手に入って。クレア大臣のメイドはリサだろ」
「リサが入れて、私が入れないとは道理はないでしょう」
マキナの目はすわっていた。リサにライバル心をむき出しにしているマキナとしてはそんなことは許されないことらしい。相変わらずクレア大臣の部屋には機動兵器「木蓮弐式」が無造作に置かれていた。
そこに一目散にマキナが木蓮弐式によじ登り始めた。アレスが止める暇も無く操縦席に座った。
「おい、おい、おい! さすがにまずいだろ」
「大丈夫です。私動かせますから」
「いやいやいや。そんなこと聞いてるんじゃなくてよ」
「これでも私、二種免許持っているんですよ。舐めないでください」
マキナはアレスの話は全く聞いていなかった。
「ここをこうしてこうすれば、ほら、動きましたよ。アレスさん」
低く唸るような音が出て、起動した。この機動兵器は何をエネルギーとしているのだろうか。
「乗ってください。置いていきますよ」
「……分かった」
操縦席の中は狭かったので後ろから覆いかぶさるような形で座った。
「変なことしないでくださいよ」
「するかよ!」
「木蘭弐式でます!」
「おい! そのサイズからしてこの部屋から出るのは無理そうだぞ。どうするんだ」
「そのまま突破します!」
「おい! 無茶するな」
木蓮弐式はクレア大臣の部屋を破壊して部屋から出た。城中にものすごい轟音が鳴り響いた。木蓮弐式は構わず、素早い速度で城の廊下を滑走した。