第五話「オットーVSアレス」
ジェラルド国王の秘密を知ってしまったアレスは今、ピンチに陥っていた。かつての教官、今は執事のオットーと対決することになってしまった。
オットーの強さは半端ではない。アレスは教官時代のオットーには一度も勝ったことがない。それも当然でオットーはジェラルド国王の右腕として華々しい戦果をあげ、かつての四国戦争では軍団長として活躍したらしい。軍団長を引退してからは教官を経て、ソフィア様に引きぬかれて今は執事という職に落ち着いてはいるが、アレスは教官時代のオットーのことを思い出して怯えていた。
ただ現役を退いてから大分経つ、今は紅茶を入れることしか脳がないおじさんと化しているオットーだ。今なら行けるのかもしれない。
オットーを見つめる。
「……」
無理だ。オーラが半端ない。アレスにオットーに対する苦手意識があるからかも知れないが。それにしても殺気だけでこれだけ相手に威圧できるものだとアレスは感心していた。
「私も戦う」
「マキナ、お前……」
両手にナイフを持ったメイドが参戦してきた。いつもいがみ合っていたアレスとマキナだったが、ピンチの時には助けてくれるマキナに対してアレスは涙を流しそうにった。
マキナが一緒に戦ってくれるなら、オットーが相手でも何とかなるかも知れない。
「マキナよ。ただで済むと思うなよ。お前あれをやられたいのか?」
オットーはマキナに対して凄んできた。マキナはこんなことでは決して屈しないはずだ。アレスとマキナの間はそんなことでは壊れないはずだ。でもあれってなんだろうか。
マキナを見るとガクガクと膝を震わせていた。なんだかわからないがあれが怖いらしい。
「おい。マキナあれって何だよ?」
「隙あり!」
「ぐお!」
「すいません。すいません。オットーさんすいません。全部あいつにそそのかされてやったことなんです」
マキナ一秒で寝返り、アレスに対してボディーブローを食らわしてきた。アレスは予想外の攻撃を回避することができず、悶絶していた。
「誰があんたなんかと手助けなんかするか。ばーか」
「このやろう。マキナ……後で覚えてろよ」
何とかアレスは立ち上がり、オットーと再び、向かい合った。
「アレスよ。私が教官をしていた頃よりどれだけ成長したかテストしてやる」
相変わらず、オットーさん隙はない。しかも、アレスの剣技は全てオットーのコピーだ。恐らく全てのアレスの動きは読まれているだろう。しかし、どうにかしてこの場を切り抜けないといけない。
そこにソフィアが遠くから歩いてこちらに来た。アレスは止めてくれるはずだと期待していた。アレスは視線でソフィアに向かってアピールした。
(頼む。ソフィア様助けてくれ……)
ソフィアは何を思ったのか、群衆に紛れて、腕組みをして傍観している。執拗にアレスはウインクを送ったりなどしたが、全くソフィアには通じていないようだ。しまいには
大きく頷いてオーケーサインを出してきた。
「違うっての。何で伝わらないだよ! しかも何のオーケーだよ」
「アレスよ。何をごちゃごちゃ言っている。さっさとかかって来い!」
ここまで来たらもうやるしか無くなった。
(こんなことなら部屋の片付けをやっておくんだった。つい面倒だと思ってそのままにして置いてしまった。あ、そういえば朝窓を開けっ放しだったかもしれない。雨でも降って部屋に雨が入ってきたらどうしよう。雨で部屋を汚したらマキナにやつに何を言われるか分からない。どうしよう。今のうちに窓だけでも閉めさせてもらうべきだろうか。でも何てオットーに言えばいいのだろう。すいません。オットーさん、部屋の窓を閉め忘れたので少し部屋に戻って来ていいですか? と言えばいいのだろうか。非常に面白い試みであるが、こんなことを言ったらオットーだけではなく、周りの群衆からもボコられるかもしれない。それだけはなんとしても阻止しなくてはならない。だったらどうすればいいだろうか。とすればこういう考えはどうだろうか。マキナのやつに何とか俺の部屋の窓を閉めるように言えばいいのかもしれない。ただ問題はそれをどうやってマキナに伝えるかだ。俺のジェスチャーはソフィア様には全く通じなかった。こんなことならジェスチャーの勉強をやっておくんだった。今からでも遅くないから習いに行くべきだろうか。どこにいけば習いにいけるだろうか。ソフィア様なら知っているだろうか。ああ。そう考えると今すぐに聞きたくなってきた。)
「早くせんか! 何を考えておる!」
そういえばオットーと戦うことになっていたことを一瞬忘れていた。だがおかげで少し肩の力が抜けたかもしれない。相手は丸腰だ。負けるはずがない。
アレスは雄叫びを挙げるとオットーに向かって突撃した。
「はあああああ!」
アレスは振りかぶってオットーに何度か斬りかかるが、剣は空を切るだけで全くオットーを傷つけることができなかった。
(こんなにも実力差があるのか……)
「オットーおおおおお!」
何度目かの攻撃が空を切った瞬間、アレスはオットーにいつの間にか、組み敷かれていた。
「わしの勝ちだな。甘いぞ。アレス」
「っく、くっそー」
「アレス様堪忍するんですね。ぐりぐり」
そこにマキナがアレスの頭を踏みつけてきた。いつの間に履き替えてのか分からないが、裏に金具の付いている靴を履いていた。その金具の部分があたって非常に痛い。
「ぐ……マキナ覚えていろよ」
アレスはドエムでは無いので苦痛でしか無かった。
「オットー! やめなさい。何をやっているのですか」
勝負がついたところで、ようやくソフィアが止めに入った。恐らく個人的に満足したのだろう。
「しかしソフィアさま」
「オットー理由を話しなさい」
「かくかくしかじかなのです」
「……なるほどね。かくかくしかじかね」
「放してあげなさい。見てしまったのなら仕方がありません。アレス理由を話しましょう。私の部屋まで来なさい」
アレス達はソフィアの部屋まで連れて行かれ、ジェラルド国王着ぐるみの件について話してもらった。結論として、ジェラルド国王はもうすでに亡くなっていた。その時はガストン王子(馬鹿だから)には荷が重すぎるし、まだクレア大臣もソフィア様も若すぎると判断してガストン王子にはクロスティーニにフットボール留学したことにして身代わりをしてもらうことにしたらしい。
「これは私と王妃さまクレア大臣、ソフィア様、少数しか知らない事実です」
それとこの精巧な着ぐるみはクレア大臣が作り、魔法使いアイリスの魔法で作ったらしい。
「他言無用ですよ。この事実が他国に知られると、ストレガが格好の餌食になってしまいます。分かっていますね」
「実務は王妃のローサ様とクレア大臣がやっているので問題は無い。アレスは余計な心配はするな」
「それとふたりとも今後こういうことは二度とやらないでちょうだい! 面白いけども」
「「はい……」」
ソフィアはアレスとオットーに釘をさした。アレスはこのことを墓までもっていこうと決意していた。