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王女ソフィアの野望  作者: kaji
第一章「ストレガ編」
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第一話「騎士アレスの転落人生」

第一話「騎士アレスの転落人生」


「があああ。しまったああああ」

 騎士団長アレスは人生最大の失敗をおかしてしまった。国王の大事にしていた壺を副団長ブルーノとキャッチボールをしている際に割ってしまったのだ。

「見たぞ。見たぞ。見たぞおおお。アレスぅぅ。とんでもないことやってしまったな」

「こ。これはブルーノ、頼む。黙っていてくれ。うまくセメダインで止めればなんとかなるかもしれん」

「国王様あああ。アレスが壺を割ってしまいましたよおおお!!」

「ブルーノおおお! 死んでしまえええええ!!」

 ブルーノはアレスの言うことは聞かずに早速言いふらしに行ってしまった。

「俺、終わったな」

 アレスは粉々になった壺を見つめて崩れ落ちた。調子に乗ってカーブなど投げるものでは無いと反省したが、それも今となってはどうしようも無いことだった。

 アレスはつい最近、念願の第一師団団長に任命されたばかりだった。史上最年少のスピード出世であったが、国王は、自分の壺を割られたことに大層お怒りの様子で、アレスは第一師団から異動されることになった。

 アレスの新たなる配属先は第七十八師団。一応団長という職はもらえたが団員はアレスのみだ。師団自体が第五までしかないので、事実上のやっかい払いだった。任務は王女様の護衛。王国最強の騎士と言われているアレスにとっては身に余る任務である。

 バルガス大陸の中央部に位置するストレガ王国。ロゼッタ、クロスティーニ、マルサラ、アマーロと囲まれていることからかつては激しい戦乱のただ中にいたが、現王ジェラルドの時代より中立の立場を取るようになってからは、一応の平穏を取り戻していた。

アレスはストレガ王国の騎士団に所属し、壺を割るまでは第一師団団長を務めていた。王国一の腕前と言われ、時期軍団長候補とも言われていたがあっけなく失脚し、第一師団からも追い出されることになった。アレスは思った。テンションが上がってキャッチボールなどするべきでは無いと……。

 アレスは執事のオットーに伴われ、王女様に挨拶に行くところだった。

「アレス。くれぐれも王女様に失礼のないようにな」

「わかりましたよ。教官」

「教官は止めろ。今の私は執事だ。気さくにオットーさんと呼べ」

 アレスは心の中で呼べるかよと舌打ちをした。この執事のオットーは元アレスの教官であった。かつては鬼のオットーとして恐れられていたが、何年か前に引退して今は王女様付きの執事をやっていた。アレスは昔のイメージが強すぎて、今のオットーに違和感を持っていた。

「ソフィア様。オットーです。新しい護衛の騎士を連れてまいりました」

「……」

「ソフィア様。聞こえておりますか?」

「……」

 オットーがドアをノックしたが返事は返って来なかった。

「いないのじゃないのか?」

「いや。そんなはずは無い。ソフィア様は滅多に部屋からは出ない。恐らくは面倒だから無視しているのだろう」

「ソフィア様。すぐ終わりますので出てきてはくれませんか?」

「……なに」

 しばらくしてドアが少しだけ空いて中から声が聞こえてきた。中が暗くて王女様はよく見えなかった。王女様はひどく不機嫌な声だった。

「ソフィア様。申し訳ございません。新しい騎士が護衛に付きますので挨拶に参りました」

「……そう」

「ほら。挨拶せんか」

「私、第七十八師団団長、アレスと申します。この度は――」

バタン。

アレスの挨拶の途中だったが、ドアが勢い良く閉められた。アレスは途中までしか挨拶ができず非常に不快に感じた。

「分かったから、下がってちょうだい。今は気分が悪いの」

「そうですか。それではよろしくお願いします」

「行くぞ」

「は。はあ」

 アレスはオットーに引っ張られるようにして、ソフィアの部屋の前から立ち去った。結局、王女様の姿を見ることはできなかった。


「ソフィア様は、いつもああなのか」

「アレス。口を慎めよ。お前の首などすぐに飛んでしまうのだからな」

「はい。はい。分かりましたよ。それで俺はどうすればいいんだ」

「そうだな。おお丁度いい。マキナ、城を案内してくれないか。わしはちょっとやることがあってな」

 アレスの背後にメイドが立っていた。今まで背後を取られたことが無いアレスは驚いた。

「この城のメイドのマキナです。よろしく」

「ああ。俺はアレスだ。よろしくな」

 丁寧にマキナは礼をした。アレスはマキナのことを近づきがたい印象をうけた。メイドのマキナは可愛らしい外見をしている。ただ、とても冷たい目をしているのでそれが、異様な感じがする。それが近づきがたい印象を受けるのかも知れないとアレスは考えていた。

「それでは頼んだぞ。マキナ」

「いってらっしゃいませ」

 アレスがマキナのことを考えていると、オットーはアレスとマキナを残して、どこかに行ってしまった。

「……」

「何だ」

 マキナはアレスを冷たい目で黙って見つめていた。アレスはなぜかとても居心地の悪い感じがした。仕方が無いのでアレスはマキナのふりふりのスカートを見つめることにした。あまり見つめているのも悪いのでアレスが何か喋ろうとすると、いきなりマキナはスカートの中からナイフを取り出してアレスに斬りかかった。

「く……」

 予想外の攻撃だったがアレスは上手くかわして、マキナのナイフを握っていた腕を掴んだ。予想外の攻撃にも驚いたが、その素早い動きにアレスは驚愕した。アレスはふりふりを見ていて助かったと思った。ふりふりを見ていなかったら命を落とす所だった。

「何をする」

「あなたを見ていたらつい、吸い込まれるように斬りつけてしまいました」

「……お前は誰にでもつい、斬りつけるのか」

「いえ。初めてです。ぽ」

 マキナは顔を赤らめて、アレスから視線を逸らした。アレスはマキナの真意が分からず困惑していた。昨今のメイドはつい斬りつける特訓でもしているのだろうか。

「何のつもりだ。訳を言え」

「訳も何もございません。そこにアレス様がいたので斬りつけてしまいました。申し訳ございません」

 マキナはまるでそこに山があるから登るといったような口ぶりで答えた。そんな日常的に斬りつけられたらたまらない。第一、なぜメイドがナイフなど所持しているのだ。

「ここのメイドはナイフを所持しているのか。変わっているな」

「そんな訳ないじゃないですか。私だけですよ。どこの世界にナイフを所持しているメイドなど存在するのですか」

 アレスはじゃあお前は何なんだよと突っ込みたかったが、何となくこのメイドに何を言っても無駄なような気がしたので止めておいた。とりあえずあまり関わるのはよそうとアレスは心の中で思った。

「無駄でございますよ。アレス様。私はソフィア様の専属メイドで、アレス様のお世話係も兼任しております。関わらないようにするのは少々難しいかと」

「お前。なぜ俺の考えていることが分かる」

 アレスは考えていることが読まれて、狼狽した。アレスはこのままではメイドによからぬことを考えているがばれてしまうと思い、一心不乱に円周率を思い出すことにした。

「さあ。なぜでしょう。なぜかアレス様の考えていることはわかるのです。それよりもお城の中を案内いたします。では参りましょう」

 アレスはマキナに気持ち悪さを感じながらも城を案内してもらうことにした。ちなみに円周率は十桁までしか思い出さなかった。


「ここが食堂です。食事の時間は決まっておりますので遅れないようにしてください」

「……」

「ここは国王様の私室です。テンションが上がって騒がないようにお願いします」

「……」

「ここはトイレです。紙は五センチまでと決まっておりますので、それ以上はご遠慮ください。どうしても間に合わない場合は、オットーさんと相談してください」

 マキナに案内されながらアレスは、マキナの様子を観察していた。マキナは恐ろしく隙が無かった。アレスはどうにかして背中にごみをいれてやろうとしたが、ついにその機会は無かった。

「ここはアレス様のお部屋です。どうぞ」

「……」

 アレスの部屋は一人で使うには広すぎる部屋だった。部屋が三つほどあり、トイレに風呂まで付いていた。いくら騎士団長といえでもこれは破格の待遇と言わざるを得ない。それに妙なメイドまで付いている。アレスはおかしいと思った。

「これが燃えるごみ、燃えないごみ、ペットボトルを捨てる際はふたを取って捨ててください。洗濯物はこのかごに入れてください。後で回収に参ります。それで――」

「おい! お前は何者だ」

「……私はただのメイドですが、何をおっしゃっているのか。意味が分からないのですが、ソフィア様の護衛になられて妙にテンションが上がっているのは、分かりますが訳のわからないことは仰らないでいただけますか」

「訳のわからないのは貴様だ。俺には分かるぞ。お前がただのメイドでは無いことが。誰の差し金だ」

 アレスは思わず、腰に差していた剣を抜いて、マキナに突きつけた。マキナは全く動揺せず、冷たい目でアレスを見つめていた。しばらく無言で見つめ合うとマキナは何事も無いかのよう再び説明を開始した。

「それでシーツは一週間に一回変えますので、若いからと言ってあまり淫らに汚さようにお願いいたします。それと――」

「貴様、俺の質問に答えろ」

「……」

「な!!」

 マキナはスカートから何かを取り出すと素早い動きで俺の口にねじ込んできた。それはみずみずしいきゅうりだった。そのきゅうりはとてもとてもおいしかった。

「びっくりした。びっくりしたでしょ。私、すぐお腹が空くからいつもきゅうりを持って歩いているんですよ。いざとなったら武器にもなりますしね。朝、厨房でこっそり十本くらいもらってくるんですよ」

「も……ぼりぼり……もういい。さっさ……ぼりぼり…とどこかへ行け」

「はい♪ ではきゅうりが恋しくなったら私を呼んでくださいね。ごゆっくり~」

 一点して、眩しいくらいの笑顔を見せてマキナは、部屋から出て行った。アレスはしばらく立ち尽くしていたが、ものすごい疲労を感じて、ベッドに倒れた。

(いったい、何者なんだ。あいつは。全く動きが見えなかった。騎士団の中でもあれだけの動きをする人間はいない)

 アレスはベッドの中で考えを巡らせていたが、謎は深まるばかりだった。



次回、第二話「出てこい。ソフィア。俺はここだああああ!!」の予定です。


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