第十五話「ハンバーガーと決戦」
「ぐ……」
テオの部屋に駆けつけると、テオは青白い顔をして苦しんでいた。
「テオさん」
マリーが駆け寄った。前に聞いたのだが、マリーにとってのテオは父親同然の人らしい。身寄りの無いマリー達を拾ってここまで養ってきたのだ。
「医者には見せられないのか」
「もう見せてますよ。お手上げらしいです。ロゼッタの技術ではどうしようもないと言われました」
エルナは肩を落としながらぼそりとつぶやいた。聞くと、ロゼッタにはいい医者がいないらしい。ロゼッタは他国との交流が少ないので他の国より20年は遅れているようだ。
「なんとかマルサラにいけないだろうか。マルサラにいければテオさんの病気もきっと治るって……カレンが言っていた」
確かに医療が発達しているマルサラにいけば、治るかもしれない。少なくともここにいるよりはましだろう。だけど。
「そうは言ってもどうやって行くんだ。ロゼッタから出ることすらできないんだぞ!」
珍しくカールが吼えた。気持ちはあの筋肉しか脳が無いカールでも同じなのかもしれない。
「テオさんがやばいって?」
革命団団長エドガーがやってきた。赤いバンダナを翻して、お供を二人くらい連れてやってきた。
「エドガーさん。助けてください」
マリーがエドガーに泣きついた。
「ストレガにいければなんとかしてやれるんだがな」
「本当か」
「あ、ああストレガに知り合いがいるから、マルサラに送ってやることは出来ると思う。なあ。マキナ?」
「え、ええ。たぶん。大丈夫だと思います」
ソフィアに話をすればたぶんなんとかなると思う。なんで今ここにいるかはすっかり忘れていたアレスだったが、それほど一刻を争う自体だった。
「分かった。決行を前倒しする。3日くれ」
「エドガーさん。まさか!」
「ああ。お前たちも準備しておけ。準備でき次第連絡する。行くぞ。お前ら! 今日から寝れねえぞ!」
「望むところです!」
そう言ってエドガーは慌てて出て行った。
「どういうことだ」
「革命ですよ」
「革命?」
「かねてからエドガーさん達。革命団は政府を倒す準備を進めていました。もう準備は大分整っているという話は聞いていたのですが、大丈夫でしょうか」
「まあ大丈夫でしょー。貴族のなんとかハルトというやつの伺いを聞きに言ったと思うよー。なんとかハルトの私営騎士団と革命団の兵と私のk-01があれば楽勝―。楽勝―。王女様を抑えればすぐにチェックメイトだかんねー」
カレンは無い胸を張って、フードでよく見えないがたぶんどや顔をしたなのだと思う。
「そんな簡単にいけばいいのですが。それとナイトハルトさんですから。怒られますよ」
「大丈夫。大丈夫。まあ。時間ないのも確かだしねー。それと、T-03はあげるから、ただマキナ嬢には乗せちゃだめだよ、私も他の機動兵器のチェックしてくるから、またねー」
カレンは一気にまくし立てると軽い調子で出て行った。
「俺達はどうするんだ?」
「私達は……」
「私達は?」
「待機だ!」
「あ、っそぅ」
特にやることはないようだった。
「え、なんで私、T-03に乗れないんですか……」
勝手にショックを受けているマキナは放って置いて、それから、各自革命の日に備えて準備することになった。カールは革命のためには筋肉は必要だと言って、一心不乱に筋トレをはじめた。マリーがテオに付きっ切りで、リリーは畑の世話に急がしそうだった。エルナと一番暇そうなマキナも洗濯掃除でアレスは暇だった。仕方が無いのでアレスは町をふらふらすることにした。
◇
町をふらふらしていると、見たことのある女の子を発見した。キョロキョロとあたりを見回していて、挙動不審だが、あれはリリーちゃんだ。
「あれ。リリーちゃんこんな所で何してるの?」
「なんじゃおぬしは」
「ん? リリーちゃん。なんだ。そのおかしな喋り方は? 具合が悪いのか」
いつもおどおどしているリリーちゃん? には、似合わない口調で少し面食らった。態度もかなり尊大だし、格好もおかしい。でも銀色のポニーテールとたれ目はリリーちゃんに間違いない。よく分からないが、高そうな白いドレスのようなものを着ている。どこかで拾ったのだろうか。
「リリーちゃん。ものを拾ったら警察に届けるんだよ」
「にゃははは。面白いことを言うな。おい。お主。面白いな。我と遊ぶことを許可するぞ」
リリーちゃん? になぜか受けたかと思うと、何かの許可をもらってしまった。本当にどうしたのだろうか。まさか……。
「リリーちゃんついに肉が食いたいあまりに、おかしくなっちゃったのかな」
「よし。俺に任せろ。うまいもの食わせてやるからな」
「お主。お金は持っておるのか?」
「任せろ。リリーちゃん」
アレスはその辺の人にたかることにした。
(俺は何せ、凄い人と知り合いになったからな)
「おい。そこのお前。俺は革命団のエドガーの知り合いなんだが、金が必要なんだ。貸してくれないか?」
「誰だ。それは。失せろ」
おじさんは捨て台詞を言って去っていった。
「にゃははは。失敗したようだな」
「まあ、どれか当たるだろ。見てろよ」
◇
十分後。
「そうでしたか。でしたら少ないですがお使いください」
「ありがとう。大事に使うよ」
「な。見たか!」
「ふん……」
アレスがうまいこと金をせしめたことにリリーちゃん? は面白くなさそうだった。落ちている石ころを次々と蹴飛ばして、近くの通行人にぶつけている。本当にどうしたのだろうか。
「どうだ。なんでも食べてもいいぞ」
「人の金の癖にえらそうじゃな」
「あれはなんじゃ?」
「あれは日本という国のSUSHIというものだ。ご飯の上に生の魚を乗せるという気持ちの悪い食べ物だ」
「生の魚を乗せるのか!? 腹を壊してしまうじゃろ」
「そうだ。だから鉄のような胃袋を持った鉄人しか食べられないんだ。残念だが諦めよう」
さすがになんでもと言ったがSUSHIは高すぎる。いくら取られるか分かったものではない。
「あれはなんじゃ?」
「あれは牛の切り身を焼いて食べるステーキという食べ物だ。ただ、食べるには作法があってだな。逆立ちしながら食べなくてはならないんだ。できるか? 逆立ち」
「できんのじゃ。それよりもなぜ逆立ちなのじゃ?」
「ぐ。それはだな。えーと……。その牛の切り身を食べると脳がとろけると言う話があるらしいんだ。それで逆立ちして脳がとろけるのを防ぐんだよ。逆立ちして脳にGをかけることにより、脳をとろけさせることを予防する効果があるんだよ」
「そうなのか。お前はいろいろしっておるんじゃな」
「まあ、常識だよ。こんなもの」
(やばい。思わず、思いっきり適当なことをリリーちゃんに教えてしまった)
「あれはなんじゃ?」
「あれはハンバーガーだ。パンにハンバーグを挟んだ下々の食べ物だ」
「あれが食べたいぞ」
「リリーちゃん。あんなものが食べたいのか」
「悪いか。我は食べたことが無いのじゃ。どんな味なのか。興味がある」
「いや。いいが。じゃあ入ろうか」
「いらっしゃいませー」
「チキンのセット。リリーちゃんはどれにする?」
「……。まあよいか。あのでかいのにする」
「二段バーガーか。食べられるか」
「楽勝じゃ。はようせい」
食べられそうになさそうだが、リリーちゃん? が食べたいというので、従うことにした。
(まあ。残したら俺が食べてやればいいか)
食べ物を受け取って、近くの空いている席にリリーちゃん? とアレスは座った。
「ナイフとフォークどこじゃ?」
「リリーちゃん。これはな。こうやって食べるんだ」
アレスはハンバーガーを両手で持って、がぶりとかぶりついた。
「なるほど。そう食べるのか。しかし、大きくて食べずらそうだぞ」
「小さくちぎったらどうだ?」
「そうしよう」
リリーちゃん? はハンバーガーを小さく千切ると自分の口に持っていき、食べた。
「どうだ。魚肉ソーセージよりいけるだろ?」
「まあ悪くはないな。なんじゃ? 魚肉ソーセージとは?」
「カルラ様こんな所においででしたか?」
「おー。レオンハルトか。良く我を見つけたな」
貴族っぽい男が連れを一人引き連れてやってきた。
「ん? どこかで聞いた名前だな」
「そなたが保護してくれたのか。これは少ないがお礼だ。受け取ってくれ」
貴族は懐からやたらと豪華なコインを出し、アレスの手に握らせた。
「申し訳ありませんが、お帰りください」
「仕方が無いな……」
「リリーちゃんどこにいくんだ」
「今日は楽しかったぞ。またの」
「お、おー。また後でなー」
リリーちゃん? 謎の貴族と一緒にどこかへ行ってしまった。結局、ハンバーガーはアレスが食べることになった。
◇
拠点に戻って、コインをマリー達に見せた。
「これすごい価値のあるお金ですよー。魚肉ソーセージだったらえーと、えーと」
「リリーちゃん。今日のハンバーガーおいしかっただろ」
「なんのことですか?」
「え?」
「え? ってリリーは今日、畑仕事してましたですよ」
「いや、町に居ただろ」
「いえ、居ませんですよ」
「白いドレスを着て、貴族と一緒にどこかへ行っただろ。俺を置いて」
「白いドレス? 貴族? 夢でも見たんじゃないですか?」
「おかしいな……。あれは確かにリリーちゃんだったはずだが、じゃああれはいったい誰だったんだ!」
「アレス兄さん。一人でハンバーガーを食べたんですか? ひどいです」
「いや、俺はリリーちゃんとだな」
「リリーはハンバーガーを食べてないですー」
「待ってくれ。リリーちゃん」
「こんな、大変な時に何をやっているんですか。あなたは」
「面目ないです」
◇
三日目の夕方ようやく連絡が入った。三時間後に決行。ベアテの役割は革命団が城を攻めている混乱に乗じて、ロゼッタウォールの正門を正面突破することになった。