第十四話「強奪作戦」
ベアテの面々はカレンの差し入れだという、KANIKAMAという、魚のすり身を細長く加工したものを食べていた。
「マルサラで仕入れた珍しい珍味ですー」
「これが蟹か。ロゼッタはあまり海のものは取れないからな。初めて食べたよ」
「蟹ってこんな味なんですね」
負けたアレスチームは水を飲んで空腹を我慢していた。
(ダマされるなよ。それはカニのような何かだ)
「アレスうううう! 俺も蟹を食べてえぞ!」
カールはアレスの肩をゆさゆさと揺さぶっている。
「カール。俺達は負けたんだ。我慢しろ」
「あんな珍味。二度と食え無いかも知れねえのに。くそおおおお!」
カールは腕立てふせをものすごい速さで始めた。それをやれば余計に腹がへるだろうに。マキナは何かを考えているのか。ぼうっとしている。マキナはアレスと兄妹だと言うことが分かってからは、ずっとこの調子だ。
この間など。
「マリーさん私と兄さんが兄妹だったんですよ」
「……ん? もう一度言ってくれないか」
「だからマリーさん。私と兄さんが兄妹だったんですよ!」
「アレスとマキナは元々兄妹だろう。それがどうかしたのか」
「う、いや。そうなんですけども。実は兄妹じゃなくて、でも兄妹だったんですよ」
「言っている意味がよくわからないが」
「わああああ!!。自分で言ってて意味が分からないー!」
と錯乱していた。
アレス達は落とし穴作戦でヴェヒターに捕らえられそうになったが、真意のほどは分からないが、カレンに助けてもらった。そして今、ベアテの拠点の食堂に集合していた。
黒いフード付きのマントを羽織り、黒いミニスカートに黒いブーツで全身真っ黒な人物、それが女武器商人カレンだった。
「みなさーん。私カレンと言います。武器商人やってます。よろしくおねがいしますねー」
商人らしく愛想を振りまいていた。ただ、フードを深く被っているので顔はよく見えなかった。ただ吸い込まれそうなくらいの深い黒い瞳が時折見えた。
「助けてもらったのはありがたいが、何の用だ? 今は武器は必要ないぞ」
「あー。それですけどもねえ。悪いけどー。ちょっと手伝ってくんない?」
「何をだ?」
「えーとですね。簡単に言うとカクカクシカジカなんですよー」
カレンが手伝いの概要を説明した。ロゼッタの王家が極秘裏に、あるものを運び込もうとしているので、それを奪う手伝いをして欲しいという話だった。
「運び込もうとしているものって、それは何なのですか?」
「それは教えられないなー」
「だったら無理だ。他をあたってくれ」
「せっかく助けたのになー。いいんですよー。ヴェヒターに君たちのことを売ってもさー。私はヴェヒターにも武器を流してるから君たちのことを売ることなんて簡単なんだからね」
「貴様! 私たちの味方ではないのか」
「リーダー。勘違いしては困りますよ。私は私の味方ですからー。私は武器商人であって、誰の味方でも無いですよー」
「くっ……少し考えさせてくれ。みんな集まれ」
「ごにょもにょごにょ」
ベアテで円陣を組んで相談を始めた。
「おい。マリー。これは絶対罠だ。乗るなよ」
「マリーさん。乗ってはいけませんよ。あの人は私達をいいように使うつもりに決まってます」
「でもリリー達のこと助けてくれたですよ」
「馬鹿だな。嬢ちゃんはよ。あの姉ちゃんは信用なんねえんだよ」
「今なら肉も付けますよー。私、基本武器専門ですけども、要望があればなんでも仕入れますからねー。最近、クロスティーニ産の霜降り肉が手に入ったんですよー」
と言いながら、カレンは懐から肉のブロックを取り出して、掲げるように右手で持ち上げた。
「乗ったぞ!」
「乗りました」
「乗ったー!」
「肉だー!」
ベアテの面々はあっさりと肉に釣られた。
(どれだけ肉に弱いんだよ。こいつらは)
アレスは思わず、ため息を漏らしていた。
◇
「いつ通るんだよ」
「情報通りならもうすぐです」
マリー達は、物陰に隠れて馬車を待っていた。次の日の夜明け前。カレンの要請で馬車を襲うことになったのだが、物陰に隠れてもう三時間にはなる。全くお目当ての馬車が来ないので、みんな飽き始めて、お腹が減りだしていた。カールなど先ほどから、あまりの腹の減り具合に雑草を食べ始めていた。
「来た。みなさん静かにしてください」
朝の静けさに不釣り合いな馬車と思われるコトコトという音と、馬の馬具がガチャガチャとなる音が響いてきた。
しばらく待っていると、目視できるほど馬車が近づいてきた。極秘任務なのか。護衛の人数は少なかった。荷物が重いのか。移動スピードは驚くほど遅い。馬が二頭で馬車を引っ張っており、銃を装備した近代武装した兵士が二人に、帯剣している徒歩の軽装備兵士が三人馬車を護衛している。
「どうする?」
「カレン。煙幕は持っていないのか?」
「この間、君たちを助けるために手持ちは全部使ったよー」
みんな出方を悩んでいる。
「めんどくせえ。俺は出るぞ。うおおおおお! 死ねええ」
「馬鹿。勝手に飛び出すな」
アレスが止めるのも無視して、筋肉馬鹿のカールは飛び出して行った。
「なんだ。お前はうわ!」
「熊が出たぞー! ぐわああ!」
カールが瞬く間に、前にいた銃を装備した兵士を二人片付けた。
「仕方がない。みんな出るぞ」
「「おお!」」
カールに気を取られて居る所に、アレス達は背後から襲った。
「く。背後からも……」
「どこからか情報がもれたのか」
想定外の事だったのか、残りの護衛の三人は動揺していた。
「お前たち。その荷物を置いていけ。命までは取らん」
「そうはいかん。お前たち迎え撃つぞ」
「「はっ!」」
「警告はしたぞ。覚悟しろ」
戦闘はあっという間に終った。襲われるとは思っていなかったのか。護衛は大した腕ではなかったので、アレス一人でも十分片付けることができた。
「ふう。あっけなかったな」
「乗って。ここから離れるよー。誰か来たらまずいことになるからね」
いつの間にか、馬車に乗っていたカレンに従い、マリー達も馬車に乗り、ベアテの拠点に戻ることにした。
◇
ベアテの本拠地に戻ったマリー達は、馬車の中身を開けて見ることにした。
「これは!」
「マルサラの機動兵器T―03だ。やはりか」
大きな二本足に、胸に当たる部分に大きなくちばしのようなものがついている鳥のようなデザイン、実物はみたことがなかったが、これがマルサラの量産機動兵器T―03のようだ。
「しかし、何でロゼッタの王家がこんなものを運んでいるんだ」
マリーがもっともな疑問を口にしていた。
(こんなもの普通に手に入るものではない。カレンは何か知っているのだろうか)
アレスがカレンに質問しようとしたが、そこにマキナがT―03をよじ登っている姿が見えた。
「アレス様。木蓮弐式ですよー」
「おい。マキナ! それは木蓮弐式ではないぞ」
マキナは、いつの間にかにT―03の操縦席に乗り込んでいた。
「この感じ。やはりやめられない」
「マキナ嬢、止めてください。起動させてはいけません」
「私はこれでストレガに帰ります。これならあの壁も砕けます」
マキナはT―03で、手始めに食堂の壁に穴を開けて、出ていった。
「あーあ。食堂の壁に穴があああああ!」
エルナは食堂の壁に、大穴が空いたことにショックを受けて、その場に固まっていた。
「仕方がないですねー。ちょっと待ってくださいねー」
カレンは何かを思いついたのか、どこかに走っていった。
「アレス。何をボケっとしているんですか? 追いますよ」
「あ、ああ」
マリー達はマキナが開けた穴から食堂から出て、マキナを追った。
◇
T―03は移動速度は遅いようで、すぐに追いついた。
「リリーちゃん。リリーちゃんの力であれを止められないか」
「やってみるです」
リリーはT―03に向けて手をかざした。リリーの手から放たれた光はT―03のボディーに直撃したが、弾かれて霧散した。
「アレス兄さん、弾かれましたです」
リリーは少し泣きそうになっていた。
「くそ、ボディーは木蓮弐式と同じで魔法で加工されているのか」
「アレス様止めても無駄ですよ。私はこれでストレガに帰ります」
「マキナ。それで帰れるはずがないだろうが。悪いことは言わないからそこから降りろ」
「邪魔をするなら、容赦しませんよ」
「避けろ!」
T―03は急に反転して、マリー達の方を向いた。くちばし部分が開いたと思うと、機銃のようなものが顔を見せた。そこから容赦無い、機銃の雨がアレス達に降り注いだ。
「くそ! これでは近づけない」
「カレン見参―!」
T―03に何かがタックルしてきた。
「きゃあああああ!」
衝突したショックで、たまらずマキナはT―03から振り落とされ、操縦席から落下した。見ると、T―03に似た機動兵器にカレンが乗っていた。
「この、この。おもちゃじゃないんだぞー」
カレンは機動兵器から飛び降りると、お仕置きとしてマキナをくすぐり始めた。
「ご、ごめんなさい。あひゃ、ひゃひゃ。や、やめへ……くだはい」
「カレン。こんなものをどうやって運び込んだ」
「ばらして部品を一つずつマルサラから持ってきたんですよー。大変だったんだからね」
「妹さん。あなたは一週間ご飯抜きです!」
「ええー! そんなあ」
マリーの容赦無い宣言にマキナは気絶した。まあ仕方がない。自業自得だ。それにしてもカレンが乗ってきたこの機動兵器は、従来の機動兵器に似ているようで違うようだ。まず、この機動兵器には人のような腕が付いていた。
「カレンこれは?」
「これは私が開発したT―02の次世代機K-01です。KはカレンのKですよー」
カレンは誇らしげにK―01と呼ばれた機動兵器を説明してくれた。そこに息を切らせてエルナがやってきた。
「皆さん! テオさんが!」
「テオさんがどうしたんだ?」
慌てた様子で先ほど、固まっていたエルナがやってきたテオの身に何があったというのか?