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王女ソフィアの野望  作者: kaji
第二章「ロゼッタ編」
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第九話「ロゼッタ入国」

「なんでこんなことになったんだ……」

 アレスとマキナは木蓮弐式騒動があったその夜に木箱に詰められた。そしてそのまま馬車に載せられ国外追放された。今、馬車から打ち捨てられ、アレスは途方に暮れていた。

「ひでえ目にあった。あれが人間のやることかよ。俺は荷物じゃねえぞ!」

「私はアレス様にいつ襲われるかと思い一睡もできませんでしたよ」

「お前、めちゃくちゃ熟睡してたじゃねえかよ! いくらなんでも順応性高すぎるだろ」

「これもメイドとしての基本ですよ」

 アレスとマキナは木蓮弐式騒動で国外に追放されることになった。一応馬鹿だと言っても一国の王子をひどい目にあわせたということでクロスティーニの王子に気を使ってのことだ。ほとぼりが収まったらソフィアは呼び戻すと約束をしていた。

「だいたいここってどこだ?」

「たぶんロゼッタ」

「なんで分かるんだ」

「あれ見て」

 マキナの指を指す方を見ると、その先には壁のようにそそり立つ頑丈そうな塀があった。それは果てしなく広がっている。まるでこの国を覆うようにも見える。

「あれはロゼッタウォール。ロゼッタの象徴」

 ロゼッタはストレガから南西にあたる国だ。徹底的に他国の侵入を拒んでおり、内情は謎に包まれている。その象徴がロゼッタウォール。分厚いコンクリートで国全体を覆う壁は国内外のもの全てを阻む。それはこの国民にも言えることだ。余程のことがない限り、政府の高官でも国外へは出ることができない。

 庶民は生まれてから死ぬまでこの壁の中で生活することになる。まさに駕籠の中に飼われている鳥のようだ。

「なんでよりにもよってこんなところに送られるんだよ」

「たぶん、アマーロとマルサラは今、戦争になりそうだし、クロスティーニだと意味無いし、そうなるとロゼッタしか無かったのかもしれない。知らないけど」

 仕方がないので、アレスはクレア大臣から持たされた手焼き煎餅を齧っていた。クレア大臣は笑っていたが木蓮弐式を傷物にされたことで相当怒っていた。アレス達を有無を言わせず木箱に詰めたのはクレア大臣だった。

「あんなクレア大臣見たのは初めて……怖かった」

「それよりどうにか今夜の寝床は探さねえとな」

 そんなことをマキナと話していると、周りが騒がしくなった。

「うえ。わさびじゃねえか」

「ばーか。騙されやがって。逃げろ」

 茶色いハンチング帽を被った二人の女の子がアレス達に向かって逃げてきた。その後に、五、六人ほどの黒い軍服を来た男たちが追いかけてきている。

「兄さん。助けてくれ」

 金色の髪をした一人の女の子がアレスに助けを求めてきた。

「おい。お前その女を渡せ」

 目付きの鋭い目付きの悪い黒服が脅すような口調で言った。

「アレス様、渡した方がよろしいかと」

「早く引き渡せ! 我々が誰か分かっているだろ」

 アレスは軍服の男の命令口調にイラッと来てしまい、つい言い返していた。

「知らねえな。誰だよ。あんた」

「お前、外の奴らか。どうやって入ってきた」

「そんなもの俺が知るか。いいからどこかへ行きやがれ!」

「ああ、なんで早速面倒なことになっているのですか」

 嘆くマキナ。こうなることはしかたがないのかもしれない。

「お前ら痛い目に合わせろ。ヴェヒターの怖さを思い知らせてやれ」

 目付きの鋭い軍服の男が命令すると、その他の軍服がサーベルを抜き、アレスに切りかかってきた。

「死ねえ!」

「お、来るか」

 アレスはあっさりと軍服達をあしらい、数分後には切りかかってきたもの全員を地面に倒していた。

「なんだ。貴様は」

「来いよ。お前も相手してやるよ」

「そんな面倒なことはするか」

 目付きが鋭い男は右手を口に含むと口笛を吹いた。そうするとどこからともなく軍服がぞろぞろと集まってきた。

「げ!」

「全く……。は!」

「なんだ、これは!」

「逃げる。アレス様。早く!」

 マキナの煙幕を放ち、アレスの手を取って逃げた。



「はあはあ。なんでこんな目に」

「あんたのお陰で助かったよ。私はマリー」

 そう言ってアレスに握手を求めてきた。彼女はカーキ色のハンチング帽を被っているので、顔はよく見えなかったが、そこから見える長い金色の髪がひと目につく。歳は十六、七といったところだろうか。顔立ちは整っていて美人の部類に入ると思う。釣り上がった青い瞳が彼女の強気な性格を表していた。

「リリーです。よろしくです」

 こちらはまだ子供のようで、こちらを伺うようにおどおどと目線を寄越してきた。銀色の髪を後ろで束ねていてそれがより一層彼女を子供っぽく見せている。少し垂れたような目は思わず頭を撫でたくなるように愛らしい。

「あんたらのお陰で面倒なことになったじゃねえか」

「自業自得な所もあると思うけども」

「なんだと!」

「喧嘩しないでください。それよりも早く戻らないと、みんな心配していると思うです」

「そうね。あんたら外から来たのか。行く所あるのか?」

「いや、今日の寝床を探していた所だ」

「じゃあこれも何かの縁だ。寝床くらい用意してやる。着いてこい」

「ああ。よろしく頼む。俺はアレスだ。そして、こっちは俺の下僕のマ……痛!」

 アレスはマキナにどつかれた。

「妹のマキナです。宜しくお願いします」

「何するんだ!」

「こうしたほうが何かと便利からですよ。アレス様は馬鹿ですか。私はこれから兄さんと呼びますからね。アレス様もマキナと呼び捨てにって変わりませんか」

「や、止めてくれ。なんだそれ。気持ち悪すぎだろ」

「我慢してください。兄さん♪」

アレスはぞっとして鳥肌が立った。

「ではアレスさん、マキナさん付いてきてください」

アレス達はマリー達に着いて行くことになった。



 一時間ほど歩き、案内されたのは打ち捨てられたようなコンクリートむき出しの建物だった。とても人が住んでいるような場所には見えない。

「ここは昔軍の宿舎だっただが、今は使われていないので間借りしているんだ」

「電気は通っているのか」

「通っていない。いないから発電機を持ち込んでそれでなんとかやってる」

「そうか……」

 この国の人間はみんなこのようにして生活しているのだろうか。ストレガに比べると生活水準が低すぎるとアレスは思った。

「まあ入ってくれ。歓迎するよ……きゃ」

 マリーが扉を開けようとすると、マリーに一人の女が抱きついてきた。ふわりとした栗色の髪をしたみんなのお姉さんという感じの女だ。

「この方たちは?」

「私達を助けてくれたんだ。行くところが無いらしいから連れてきた」

 栗色の髪の女はアレスとマキナを値踏みするような目でしばらく見ると、ニッコリと笑顔になって歓迎してくれた。

「私はエルナ、彼女達を助けてくれてありがとう」

 建物の中に入ると中は意外ときれいになっていた。入るとすぐに玄関ロビーのような所で、上を見上げると吹き抜けになっていた。そこか螺旋状の階段が見える。本当にこんなところが軍の宿舎だったのだろうかとアレスは疑問に思った。

「外見は軍の宿舎だけど、内装は色々と改装したんだ。そのままだと使い難いしな。よし、みんなを紹介しよう。カール。出てきてくれー。新入りだぞー」

 ロビーのドアからタンクトップを着た筋肉質の男が出てきた。ずんずんとこちらに近づいてきてアレスの手をがっしりと握った。

「俺はカールだ。よろしく頼む。ここでは力仕事ができる男が俺しかいないから力仕事全般をやっている。男手が増えてうれしいぞ」

 まさに軍人といったような風貌な男はニカッと笑うと握った手をブンブンと振り回した。

「あ、ああよろしく頼む。アレスだ。えーと傭兵をやって各地を渡り歩いている。それでこっちがマキナだ。妹のようなものだ。痛!」

 マキナがアレスの足を思い切り踏んづけた。

「妹の! マキナです。頼りない兄さんの手助けをしております。宜しくお願いします」

「ガッハハ。仲良くていいな。よろしく頼むぜ」

 体に似合わず、カールはマキナの手を優しく握って歓迎の意を表した。

「それともう一人いるんだが、体の調子がよくなくてな。ちょっと付いてきてくれ」

 アレスとマキナはマリーの後に着いて、ロビーの奥の扉に入った。そこにはベッドに横たわっている老齢の白い口ひげの男がいた。

「テオさん。新入りです。行くところがないらしいのでしばらく置いてもよろしいですか?」

「フ……フーゴ!」

 テオと呼ばれた人物はアレスを見ると、何か驚いているようだった。

「? テオさんどうされました?」

「いや……そんなはずはないな。なんでもない。わしは構わんよ。今はお前がリーダーなんだ。お前がいいと思うのならわしは反対なぞせんよ」

「ありがとうございます。さあ、挨拶しろ」

 アレスとマキナは先ほどのような挨拶をした。

「行くところがないと言っておったが、どちらの出身なんだ?」

「ストレガです。訳あってこちらに来ることになってしまいまして、できればそのうちに戻りたいと思っていました」

「あんた達本気で言ってるのか? この国はな。入るよりも出るほうが大変なんだ。出たいからハイそうですかっていう訳には行かないんだ」

「まじかよ。じゃあどうしたらいいんだ」

「私が知るか。だいたいこの国から出たこと無いし。出たっていう人も聞いたことないし」

「まあ、わしがそのうち脱出する方法を探してあげよう。その間ここにいるといい。ようこそ『ベアテ』へ歓迎するよ」

「ありがとうございます。こちらこそ宜しくお願いします」

 幸か不幸かアレスとマキナはロゼッタの奇妙な団体の一員になった。果たして、この国から出ることができるだろうか。


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