第7話:聖地の自動ドア、あるいは「次元の断裂」
……住みづらい。
あまりにも住みづらすぎる。
(なんなの、この金ピカの建物は! 床が磨かれすぎてて滑るし、柱に自分の引きつった顔が映るから、そのたびに『ひっ!』って心臓が止まりそうになるんだよ!)
かつてのボロい門番所は、たった数日で大理石と金細工で埋め尽くされた「聖域守護神殿」へと改造されてしまった。
僕は今、その中心部にある、広すぎて落ち着かない玉座(※僕専用の椅子らしい)に座らされている。
「師匠。どうかされましたか? 先ほどから微動だにせず、虚空を見つめておられますが……。もしや、我らには見えぬ『世界の綻び』を修復されているのですか?」
(違うよクラリスさん! 自分の顔が映り込まない角度を探して、一点を凝視してるだけなんだよ!)
「……ふむ(※訳:目が乾いて痛い)」
「……! 目を閉じることすら許されぬ、過酷な監視。流石です……っ!」
勘弁してほしい。
僕は喉の渇きを癒そうと、部屋の奥にある「休憩室」へ向かおうと立ち上がった。
すると、そこには王都の魔導技師たちが自慢げに設置していった最新鋭の【自動開閉式・魔導障壁門】がそびえ立っていた。
(あ、これ……噂の自動ドアってやつだ。近づくと勝手に開くんだよね。ちょっと楽しみかも……)
少しだけ好奇心を出して、僕はその豪華な扉へ近づいた。
シュバッ!
凄まじい速度で、左右に扉がスライドする。
「うわあああああああ!?(※声にならない絶叫)」
予想以上のスピードと音にビビり倒した僕は、条件反射で後ろに飛び退いた。
その際、派手に足を滑らせ、転ばないように必死に両手を振り回したのだが。
――ズガァァァァァァァン!!
僕が振り回した手に、偶然溜まっていた「恐怖による暴走魔力」が、扉の魔導回路を直撃。
自動ドアは開くどころか、その周囲の壁ごと「粉砕」され、神殿の奥まで続く一直線の風穴が開いた。
(……え? 壊しちゃった。僕、王様からもらった最新設備、秒で壊しちゃったよ!)
冷や汗を流しながら固まる僕。
しかし、背後で見ていたクラリスとリルは、戦慄のあまりその場にへたり込んでいた。
「……信じられない。今、扉の影に潜んでいた『不可視の暗殺者』を、空間ごと……!」
(……はい?)
クラリスが指差す先、粉砕された扉の瓦礫の中に、気絶した一人の男が倒れていた。
彼は隣国が送り込んだ最高位の隠密で、どんなセンサーもすり抜ける【虚無の外套】を纏い、自動ドアが開く瞬間に僕を仕留めようと潜んでいたらしい。
「主様……。あえて扉の魔導機構を暴走させることで、因果律を逆流させ、隠伏していた刺客を引きずり出したのですね」
「しかも、一切の殺気を感じさせず、『驚いて飛び退く』という無防備なフリをして、相手が最も油断した瞬間に空間を削り取った……。あな恐ろしや、ゼノン師匠……」
(違う、違うんだってば! 僕はただ、ドアが急に開いて怖かっただけなんだよ!
そいつがそこにいたなんて一ミリも知らなかったんだよ!)
僕はあまりのショックと申し訳なさ(ドアを壊したことへの)で、天を仰いで深く、深ーい溜息を吐いた。
「……はぁぁ(※訳:もう弁償できないよ……)」
「——っ! 出た、『神の溜息』!!」
宰相バルカスの言葉を思い出したのか、外に控えていた近衛兵たちが一斉に色めき立つ。
「ゼノン卿が溜息を吐かれたぞ! これは『隣国の無礼(刺客)をこれ以上許さぬ』という神託だ!」
「直ちに隣国へ抗議文……いや、宣戦布告の準備をしろ! ゼノン卿がお怒りだぞぉお!!」
(待って! 怒ってない! むしろ悲しんでるの!
宣戦布告とかやめて! 戦争になったら、僕、一番前に行かされるじゃないかぁああ!)
止めようとして手を伸ばすが、兵士たちは「おお、追撃の許可までいただけるとは!」と勝手に解釈し、怒涛の勢いで王都へと駆け出していった。
「……あ、あー。あー……(※訳:僕の人生、どうしてこうなった……)」
「お疲れ様です、師匠。さあ、次元の穴が開いた休憩室で、最高級の(ただのティーバッグ)お茶を楽しみましょう!」
クラリスに手を引かれ、僕は自分が開けた「風穴」を通って休憩室へと向かった。
その歩みは、周囲には「破壊した跡を悠然と歩く覇者」にしか見えなかった。
自動ドアに驚いただけで、国際問題に発展してしまいました。
ゼノンの「溜息」の破壊力は、もはや戦略兵器級です。
誤解が国家間戦争の危機を招く(?)怒涛の展開。
ゼノンが次に何を「壊して」しまうのか気になる方は、
ぜひ【ブックマーク】と【評価】をお願いします!
皆さんの評価が、ゼノンの「胃薬」代になります(※なりません)。
次話、ついに隣国の王が、ゼノンの「怒り」を鎮めるために自ら謝罪にやってくる!?
さらなる勘違いの連鎖をお楽しみに!




