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「頼むからクビにしてくれ!」と言いながら地獄の門を守っていたら、いつの間にか【三界の唯一神】として崇められていた件  作者: 蒼井テンマ
第1章【辺境編】

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第5話:夜逃げ、あるいは「神速の奇襲」

深夜二時。

 草木も眠る丑三つ時、僕は静かに、そして慎重にベッドを抜け出した。


(……今だ。今しかない。

 聖騎士クラリスさんは隣のテントで『師匠の呼吸を写し取る修行』とか言って瞑想してるし、魔族のリルさんは僕の影に潜んで『主様の睡眠を守護します』とか言ってるけど……)


 幸い、リルさんは僕が「一人になりたいから、影から出て一キロ先まで散歩してきて」と(涙目で)頼んだら、「……承知しました。孤独を愛する覇者の嗜みですね」と勘違いして、素直に出ていってくれた。


(今なら逃げられる。このままナラクの門を捨て、王都からも離れ、誰も僕を知らない隣国へ……!

 さらば、異常な弟子たち! さらば、地獄の門番生活!)


 僕は最低限の荷物を背負い、かつて見つけた「獣道」へと飛び込んだ。

 それは地図にも載っていない、鬱蒼とした森へと続く道。ここなら追っ手も巻けるはずだ。


(怖い。暗いし、なんか不気味な声が聞こえるけど……

 クラリスさんに『明日の朝稽古は何を?』とキラキラした目で聞かれる恐怖に比べれば、魔物なんて可愛いものだ!)


 僕はパニックを必死に抑え、がむしゃらに森を突き進んだ。

 ところが、僕が「ただの獣道」だと思っていたその場所は。

 実は、魔王軍が人間界を奇襲するために数百年かけて整備した、次元の歪みに隠された**【秘匿軍路】**だった。


「……ん? 前方が明るい? 出口かな?」


 森を抜けた先にあったのは、平穏な隣国ではなく。

 魔王軍の軍勢が一万、そして彼らが極秘裏に建造していた**【戦略級対神攻城兵器】**が鎮座する、最前線のキャンプだった。


「……ダレダッ!? ココハ秘匿キャンプ地ゾ!」


 見張りの魔族が僕に気づき、槍を突きつけてくる。

 その数、数百。背後には巨大なゴーレムが唸りを上げている。


(ひいいいいいいっ!? なんで!?

 なんで出口に軍隊がいるの!? 死んだ! 完全に包囲された!)


 極度の恐怖。脳が真っ白になった僕は、逃げ道を確保しようと、リュックに入れていた「唯一の武器(?)」を力任せに投げつけた。

 それは王都を出る際、近所の子供が「お守り」としてくれた、ただの**【泥団子】**だった。


「こ、こっちに来るなあああああ!」


 絶叫と共に放たれた泥団子。

 しかし、それが僕の手を離れた瞬間。

 僕の全身から溢れ出した「逃げたい一心」の膨大な魔力が、泥団子の粒子一つ一つに「質量爆弾」並みのエネルギーを与えた。


 ドゴォォォォォォン!!


 それは、もはや爆発というよりは、局所的な「事象の消滅」だった。

 泥団子が直撃した攻城兵器は、一瞬で原子レベルに分解され、その余波で魔王軍のキャンプ地は地図から消滅。

 一万の軍勢は、戦う間もなく「空圧」だけで遥か彼方の魔界まで吹き飛ばされた。


「……え?」


 後に残ったのは、月明かりに照らされた平らな更地と。

 腰を抜かして、その場にヘナヘナと座り込む僕だけだった。


(……何が起きたの?

 泥団子って、あんなに光るものだっけ?

 もしかして、最新式の魔導爆弾を子供が間違えて僕にくれたの?)


 その時。背後から凄まじい速度で接近する二つの気配。


「——流石です、師匠!!」

「——恐れ入りました、主様!!」


 クラリスとリルが、感極まった表情で僕の前に膝を突いた。


「師匠……。まさか、深夜に独りで姿を消されたのは、魔王軍の奇襲計画を事前に察知し、未然に防ぐためだったのですね!

 私たちが気づかぬ間に、大陸滅亡の危機を『泥を投げるだけ』で救ってしまうとは……。その深謀遠慮、まさに神の如し!」


「主様……。我ら四天王ですら知らされていなかった極秘キャンプを、これほど正確に、かつ一撃で。

 『夜逃げ』をするふりをして敵を油断させ、本陣を叩く。なんと鮮やかで、なんと恐ろしい兵法か……っ!」


(違うんだよ……! 本当に夜逃げしたかっただけなんだよ!

 なんで爆発するの!? なんで全滅してるの!? 誰か嘘だと言ってぇええ!)


 僕は絶望のあまり、夜空を見上げて嗚咽を漏らした。

 それが彼女たちの目には、「強敵がいなくなった虚無感に浸る、覇者の横顔」に見えたのは言うまでもない。


「……ふん。……疲れた(※訳:もう一歩も歩けない。誰か実家に連れて帰って)」


「はっ! 勝利の後の心地よい疲労ですね!

 すぐにお連れします、師匠! あなたが守った、あの『ナラクの門』へ!」


(嫌だあああああ! あの地獄に戻されるうううう!)


 僕の悲痛な叫びは、夜の風に乗って虚しく消えていった。

 翌朝、王国には「ゼノン卿、一夜にして魔王軍一万を泥を投げて殲滅」という、もはや意味不明な英雄譚が国境を超えて広まることになる。

ゼノンの「全力の逃走」が「伝説の奇襲」に。

誤解の雪だるまは、もう誰にも止められません……!


ゼノンを襲うさらなる不運と、勘違いの加速を応援してくださる方は、

ぜひ【ブックマーク】と【評価】をお願いします。

皆さんの「星(評価)」が、ゼノンの投げた泥団子よりも重く、物語を動かす力になります。


次話、ついに王都から「国王直属の使者」がやってくる!?

「英雄」として迎えられるゼノンの、血の気の引くような受難をお楽しみに!

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