最終話:門番、ついに「無」に至る
……ふぅ。
(なんなの、あの怒涛の数年間は!
門番をクビにしてくれと言えば守護神にされ、隠居させてくれと言えば世界皇帝にされ、辞めさせてくれと言えば自立を促す聖人として崇められ……。
でも、ようやく、ようやく終わったんだ)
数年後の、大陸の最果て。
そこには、どんな高位の魔法使いも、神界の追跡者すらも辿り着けない、常に深い霧に包まれた「虚無の湖」があった。
その畔に建つ、小さくてボロい、かつての門番所を思わせる木造の小屋。
僕は今、そこで一人、木製の椅子に深く腰掛けて、湯気の立つハーブティーを啜っていた。
(……静かだ。
あの辞職宣言の後、追いかけてくる弟子たちや女神たちの熱視線に耐えられなくなって、僕は持っていた聖剣で適当に空間を切り裂いて飛び込んだんだ。
気づけばこの『次元の隙間の隔離空間』にいた。
ここでは、誰も僕を拝まない。僕の失態を『神託』だと言う人もいない。
朝起きて、魚を釣り、昼寝をして、夜は星を見て寝る。
……あぁ、これだよ。これが僕の、二十年かけて探し求めていた『最強の無能(隠居人)』としての人生だ……!)
ゼノン・ギリアムは、心からの安らぎを感じていた。
彼が次元を切り裂いた際、その「逃走の軌跡」が偶然にも、新世界の**【全魔力の供給源】**の詰まりを解消し、宇宙全体へ無限のエネルギーを供給する「バイパス」へと直結してしまったことなど、彼は露ほども知らない。
そして。
彼がときどき漏らす「あぁ、幸せだ……」という、噛み締めるような小さな独り言。
それが次元の壁を越え、現世では「世界の理を安定させる絶対の福音」として全宇宙に優しくエコーしていることも。
†
その頃、下界では——。
「……ああ、聞こえるか。あのお方の……『幸せ』という名の波動を」
かつての教え子シルフィは、世界皇帝代行として玉座に座りながら、空を仰いで涙を流していた。
聖騎士クラリスも、メイドのイヴも、主神アストライアも。
彼女たちは、ゼノンが「自分たちを信頼して、背景(神)へ徹してくれたこと」に、魂からの敬意を捧げ続けていた。
「始祖ゼノン様。貴方は自らを『虚無』へと置き、この世界の全ての重圧を一人で背負いながら、なおも『幸せだ』と仰ってくださっている……」
「我らが平和に過ごすことが、あの御方の喜び。さあ、今日も全力でこの世界を守りましょう!」
ゼノンが小屋でダラダラすればするほど、世界は「神の満足度」に比例して豊作になり、紛争は消え、人々の心は満たされていく。
本人はただのニートの隠居生活を送っているつもりだが、その実、彼は**【世界の心臓】**として、全人類に愛され、永遠に崇められ続けることになったのである。
†
(……ん? 今、空から『万歳!』って数億人分くらいの歓声が聞こえたような……?)
ゼノンは首を傾げた。
(……いや、気のせいだね。ここには僕しかいないんだから。
……よし、ハーブティーも飲んだし。……二度寝しよう)
ゼノンは幸せそうに目を閉じ、お気に入りの使い古した毛布を被った。
その瞬間、宇宙全体の魔力出力が「120%」に跳ね上がり、全銀河に祝福の花火(超新星爆発)が打ち上がった。
本人のあずかり知らぬところで、世界は今日も、最高に平和だった。
——「頼むからクビにしてくれ!」と言いながら地獄の門を守っていたら、いつの間にか【三界の唯一神】として崇められていた件。
【完】
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
蒼井テンマです。
ついに完結を迎えました。
ゼノン様が手に入れたのは、「誰にも邪魔されない隠居生活」……
のフリをした、「世界そのものと同化する」という究極の永久就職(?)でした。
本人は「逃げ切った!」と大満足していますが、
世界中の人々が「ゼノン様、見ててね!」と毎日頑張ることで
世界がどんどん発展していく……。
この終わらない「勘違いのループ」こそが、彼への最大の報酬なのかもしれません。
PVや評価の数字に一喜一憂することもありましたが、
こうしてゼノン様を「彼らしい場所」に導けたのは、
ひとえにここまで応援してくださった読者の皆様のおかげです。
ゼノン様の胃痛がいつか完治することを願って。
そして、また次の物語でお会いできることを楽しみにしています!
本当に、ありがとうございました!!




