第25話:世界皇帝、辞職願を出す
……もういい。もう、はっきり言おう。
察してもらうのは無理だ。この世界の住人は、僕の『あ』の一言を『愛』だの『破壊』だのに変換する天才しかいないから。
(今日、この『世界統一記念式典』の場で、僕ははっきりと辞意を表明する。
王様、魔王、勇者、女神……全員の前で、土下座して頼むんだ。
『僕はただの弱虫のニートです。皆さんの期待に応えるのは無理なので、どっかの馬小屋にでも放り出してください』って!)
王宮のバルコニー。雲海の上まで届くような高い場所で、僕はマイク(魔導拡声器)を握りしめた。
目の前には、僕を崇める数百万の民衆。そして背後には、今日も「師匠、次は何を壊されるのですか?」と期待に満ちた目で僕の背中を焼く弟子たちが控えている。
「……えー。……僕は、辞めます(※訳:責任の重い仕事はもう嫌です)」
会場が、水を打ったように静まり返った。
クラリスが、リルの手が、震える。
「……じ、辞める? 師匠、それはどういう……」
「……僕は、ふさわしくない。……これからは、君たちが、やってくれ(※訳:僕はただの無能だから、これからは君たち優秀な人で勝手に国を回して。僕は寝るから)」
僕は勇気を振り絞り、衆人環視の中で深々と頭を下げた。
プライドなんてない。ただ、「辞めさせてくれ」という一心での、全力の土下座だ。
(よし! 言った! 公開の場で辞職を宣言したんだ。
これなら、もう誰も僕を縛れないはず……!)
しかし。
僕の土下座による「深すぎる低姿勢」は、民衆の目には**【天よりも高い地位にある者が、泥にまみれた地上の民と同じ目線まで降りてきてくれた、究極の慈愛】**にしか見えなかった。
「……ああ……ああああああ!!」
国王が、魔王が、女神が、一斉に涙を流して崩れ落ちた。
「なんという……なんというお方だ……っ!
自らの権力を、名誉を、神としての座を、すべて惜しげもなく我らに譲り渡すというのか!」
「『これからは君たちが主役だ』……。
あの方は、我らが『神』という依存対象から卒業し、自立することを求めておられるのだ!
この土下座は、我らへの別れではない……我らの魂を『対等な友』として認めてくださった、最高の祝福なのだぁああああ!」
(ちっがーう! 依存していいから! 依存していいけど、僕をトップに据えないでって言ってるの!
対等な友じゃなくて、ただの近所の無職のお兄さんになりたいだけなのぉおお!)
民衆の声が、地鳴りのように響く。
「ゼノン様、万歳!」「自立の父、ゼノン様!」「我ら、貴方の御意志を継ぎ、平和な世界を作ります!」
「……あ、あー。あー……(※訳:もう……いいよ、好きにして。僕は消えるから……)」
僕はあまりの絶望(と、誰も話を聞いてくれない悲しみ)で、ふらふらとバルコニーの奥へと歩き去った。
その背中こそが、後に**「すべてを授け終え、光の中へと帰還する真の救世主」**として、世界の聖典に刻まれる最後の挿絵となったのである。
第25話をお読みいただき、ありがとうございます。
蒼井テンマです。
ついに、ついにゼノン様が「辞める」と言い出しました。
公開土下座という、小市民としてのプライドを捨てた最後の一撃。
それが「神の卒業式」として全人類を涙させ、
世界から紛争を根絶させてしまうとは……。
皮肉にも、彼が「神」を辞めようとすればするほど、
世界は彼を「真の救世主」として固定してしまいました。
次話、ついに最終回。
誰もいない「虚無の果て」へ逃げ込んだゼノン様を待つ、
「最強の無能」としての本当の結末とは——。
「ゼノン、本当にお疲れ様……」と少しでも思っていただけた方は、
完結を祝して【ブックマーク】と【評価】をいただけますと幸いです。
皆さんの声が、ゼノン様の「最後の安眠」を守る結界になります!




