第24話:終焉の試験、あるいは「存在の抹消」
……これだ。これしかない。
(なんなの、この学園生活は! 保健室に逃げれば聖騎士と魔王に挟まれるし、廊下を歩けば『導師様!』って生徒全員が土下座するし……。
もう耐えられない。だから僕は、禁書の棚で見つけた究極の魔術を使うことにしたんだ。
その名も、自己封印魔術**【アブソリュート・ゼロ】**。
これを使えば、術者の魔力と『存在感』を完全に消去し、ただの石ころのような一般人に戻れるらしい。これだ、これこそが僕の求めていた『究極の退職願』だ!)
学園の卒業試験当日。
全校生徒と、王都の重鎮たち、さらには天界の女神たちまでが観客席を埋め尽くす中、僕は試験会場の演台に立った。
「さあ、ゼノン・クライン君。君の『真の力』を見せてくれ!」
グレイ教官が興奮で鼻血を出しながら叫ぶ。
僕は震える手で、古びた魔導書を開いた。
(よし。今ここで僕という『偽りの神』を消して、ただの無能に戻るんだ。
さようなら、世界皇帝。さようなら、始祖様。僕は、自由になるぞぉおお!)
僕は全魔力を注ぎ込み、自分自身をターゲットにして【アブソリュート・ゼロ】を発動した。
次の瞬間、僕の体から「真っ黒な光」が溢れ出し、世界から僕の輪郭が消えていく。
(……あ、消える。視界が真っ暗になる。成功だ!
これで僕は、誰の記憶にも残らない、ただの通行人Aになれるんだ……!)
しかし。
僕が放出した「自分を消したいという切実すぎるエネルギー」は、あまりに純粋で巨大すぎた。
その「虚無の波動」は、僕を消すどころか、**【この世界に存在するあらゆる「限界」という概念】**を標的にして、それらを一斉に消去し始めたのである。
――パリンッ!
という音が、世界中に響いた。
「……な、……ななな、何ということだ……っ!?」
観客席で、主神アストライアが椅子から転げ落ちた。
「あの男……自分を消そうとしたのではない!
自らを『虚無の器』とすることで、この世界の住人に課せられていた『成長の限界』という法則そのものを、身代わりに引き受けて消滅させたというのか!?」
「……見てください! 学園の生徒たちが、……魔力が、魔力が無限に溢れ出していますわ!」
僕が自分を消そうとした余波を浴びた「落ちこぼれ」の生徒たち。
彼らの魔力回路のロックが次々と外れ、全員が瞬時に大賢者クラスの魔力を持ち、病人は治癒し、枯れた木々には花が咲き乱れた。
(……え? あれ? まだ僕、ここにいるんだけど。
というか、なんでみんなキラキラ輝いて、僕を見て泣いてるの!?)
僕は消えるどころか、かつてないほど神々しい光を放ちながら、演台の上でポツンと立っていた。
「ゼノン様……。貴方は、貴方という個を捨てることで、世界を『神の領域』へと引き上げられたのですね……」
シルフィが、神の如き剣気を纏いながら跪く。
「『私が居なくても、君たちはもう一人で飛べる』――。
その無言のメッセージ、魂に刻みました! 貴方はもはや、一個の生命体ではない。
この世界を回す『システム(理)』そのものになられたのですね……っ!!」
(違う! 違うんだってば!
僕はただ、自分だけ消えて無職になりたかっただけなの!
なんで世界全体のレベルを底上げしちゃったの!? 余計に僕の価値が上がっちゃったじゃないかぁああ!)
僕は絶望のあまり、あまりのショックで心が「無」になった。
その「無」の境地こそが、観衆には**「全知全能を超越した、究極の脱力」**として映り、大陸中の鐘が「救世主の完成」を祝して鳴り響いたのである。
第24話をお読みいただき、ありがとうございます。
蒼井テンマです。
「自分を消したい(退職届)」という切実な魔力が、
まさかの「世界の限界を消去する」という神のアプデに化けてしまいました。
本人は視界が真っ暗になって「成功だ!」と喜んでいたのに、
目を開けたら世界が黄金に輝いている……。
ゼノン様の絶望、皆さんに届きましたでしょうか?
いよいよ物語は、ゼノン様が全人類に「引退」を叩きつける最終局面へ。
「辞めさせてくれ!」という魂の叫びが、
またしても最悪(最高)の形で聞き届けられてしまいます。
最後までゼノン様の受難を見届けてくださる方は、
ぜひ【ブックマーク】と【評価】をお願いします!
皆さんの評価が、ゼノン様の「消えたい欲求」をさらに加速させます(笑)。




