第19話:聖なる昼寝、あるいは「万象の沈黙」
……やっと、やっと暗くなった。
(門をブチ壊して天界の照明(?)を落としたおかげで、ようやく部屋が暗くなったよ……。
もう一歩も動けない。女神ルミナさんも、なんか『主様の枕になります!』とか言って足元に転がってるけど、もう気にする余裕もない。
僕はただ、このふかふかのベッドで、永遠に……せめて三日三晩は泥のように眠りたいんだ……)
僕は全ての思考を放棄し、吸い込まれるように意識を手放した。
極度の疲労とストレス。それが僕の魔力を「スリープモード」へと移行させた。
だが、最強の魔力を持つ僕が本気で眠りについた瞬間、その波動が宮殿全体を包み込み、物理的な「時間の流れ」すらも緩やかにしてしまった。
(……すぅ、すぅ……)
宮殿の庭では、壊れた門から降ってきた何十人もの下位女神や天使たちが、パニックに陥っていた。
しかし、彼女たちがゼノンの寝室の前まで辿り着いた瞬間、そのあまりに深く、静謐な「沈黙」に息を呑んだ。
「……な、何という静寂なの?
天界の門を壊した直後だというのに、怒りも高揚も感じられない。
ただ、世界の中心で、万物を慈しむようなこの凪……」
「……見なさい、あの寝顔を。
数多の神々を退け、大陸を統一した男が、まるで赤子のように無防備に、しかし深淵のような威厳を纏って眠っているわ」
そこに、監視を続けていたクラリスとリル、そして筆頭メイドのイヴが静かに合流した。
彼女たちの目には、ゼノンの周囲に漂う「安眠魔力」が、**【外敵を拒絶し、世界の因果を停止させる絶対結界】**に見えていた。
「……師匠は今、自らの魂を冥府と現世の境界に置き、神界の追撃からこの国を守るための『魂の防衛』に入っておられるのです」
「……主様。眠りながらにして、全人類の罪をその身に引き受け、浄化されているのですね。
『私が眠っている間、世界は止まる』……。その言葉通り、風すらも主様の寝息に合わせて止まってしまいましたわ」
(……むにゃ、むにゃ。……あっち、行って……)
ゼノンが寝言で漏らした言葉が、結界を通じて宮殿中に反響した。
「——っ! 『あっちへ行け(=次元の彼方へ消えろ)』!?
いえ、違います! あれは『既存の理を捨て、私の懐へ飛び込んでこい』という意味ですわ!」
ルミナが恍惚とした表情で、ゼノンのベッドに潜り込んだ。
それを見た他の女神たちも、「私も救われたい!」「始祖様の結界の中で眠りたい!」と、次々にゼノンのベッドの周りに集まり、添い寝を始めた。
「……卑怯ですよ、女神! 私も師匠の守護を最前線で務めます!」
「……主様の影は私です。ベッドの下は私の領分……」
結果として、ゼノンのベッドの周囲は、聖騎士、元魔王、古龍王、そして数十人の女神たちが入り乱れて眠る、**【人類史上最も美しく、最も魔力が過密な地獄】**と化した。
†
翌朝。
鳥の囀り(※古龍が気を利かせて調節した優しい音色)で目を覚ました僕は、視界が真っ白なことに気づいた。
「……あれ? 目の前が白い? 天国かな?」
いや、違った。
僕の腕の中には女神ルミナが収まり、右足にはクラリスが、左足にはリルが抱きつき、枕元には知らない天使たちが十人くらい折り重なっていた。
「……おはようございます、ゼノン様」
(…………ひっ)
恐怖。
あまりの恐怖に、僕の喉は完全に痙攣した。
「……ひっ。ひ、ひぃいいいいいいいっ!!(※声にならない絶叫)」
パニックになった僕の魔力が、目覚めと共に爆発した。
神殿の屋根が再び吹き飛び、その衝撃波は王都の上空に溜まっていた全ての雲を消し去り、さらには神界の残存勢力までをも「目覚めの挨拶」として叩き伏せた。
「……おお、見よ! ゼノン様の目覚めと共に、世界に真の光(※物理的な衝撃波)が戻ったぞ!」
「『おはよう(=全次元の再起動)』……。何という、何という壮大な目覚めだぁあああ!」
(違う! 違うんだってばぁああああ!
起きたら部屋が知らない女の人だらけだったから、ビビって叫んだだけなんだよぉおお!)
僕はベッドから転げ落ち、そのまま全速力で宮殿の廊下を走り出した。
その必死の逃走は、周囲には「新たなる世界創造へ向けて、神速で動き出した王の姿」にしか見えなかったのである。
第19話をお読みいただき、ありがとうございます。
蒼井テンマです。
「起きたら修羅場」が「世界の再起動」に。
ゼノン様の心臓への負担は、もはや国家予算規模の治療費をかけても足りないレベルです。
さて、第2章もいよいよ大詰め。
次回、ゼノン様のあまりの「美女子の侍らせっぷり」に、ついに天界の最高神(ゼノンよりも年上っぽいロリっ子)が、
『わらわを無視して宴を楽しむとは不届き千万!』と、直接殴り込みに来て……!?
「ゼノン様、ついに寝る場所すら失ったね(笑)」と思った方は、
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皆さんの評価が、ゼノン様の「防犯ブザー」を最強の結界に変えます!




