第13話:暗殺の宴、あるいは「浄化の吐息」
……もう、胃に穴が開く。
(なんなの、この仰々しい晩餐会は!
金のお皿に、見たこともない紫色のスープ、そしてこの真っ赤なワイン……。
どれもこれも『毒が入ってます』って言わんばかりの見た目じゃないか!
実際、さっきから向こうの席の貴族たちが、ニヤニヤしながらこっちを見てるし。絶対何か盛ってるよぉお!)
世界皇帝(仮)となった僕を快く思わない旧勢力、通称『王都守旧派』。
彼らは、この晩餐会で僕を毒殺しようと企んでいた。
僕の目の前に置かれた最高級のワイン——そこには、一滴で象をも即死させる禁忌の毒『冥界の涙』が混入されている。
(……このワイン、色が濃すぎる。
もしかして、僕が昔飲んで吐き出した苦い薬と同じ味がするんじゃ……?
怖い。飲みたくない。でも、一口も付けないのは失礼だってクラリスさんに怒られそうだし……)
僕は絶望的な気持ちで、ワイングラスをじっと見つめた。
「毒が入ってませんように」と祈りながら、無意識に全魔力を視線に集中させてしまう。
その瞬間、グラスの中の液体が、僕の魔圧に耐えきれず激しく沸騰を始めた。
「……っ!? 見ろ、ゼノン様がグラスを見つめただけで、中の毒が『悲鳴』を上げているぞ!」
「……おのれ。あの男、視線だけで物質の分子構造を書き換えているというのか!?」
(違う! 手が震えてグラスがガチャガチャ鳴ってるだけだよ!
というか、なんでこのワイン、パチパチ炭酸みたいになってるの!? 怖いよぉお!)
僕はえいやっと覚悟を決め、グラスを口に運んだ。
しかし、あまりの緊張で喉が閉じ、一滴も飲み込めない。
僕は「ふぅ……」と、重いため息をグラスの中に吹き込んでしまった。
その瞬間。
僕の吐息に含まれた聖なる魔力が、ワインに含まれる毒素を完全に中和……どころか、ただのワインを**【万病を癒す神の雫】**へと昇華させた。
ワインの色は禍々しい赤から、透き通るような黄金色へと変化する。
「……はぁ(※訳:やっぱり飲むのやめようかな……)」
「——な、何ということだ! 毒を、吐息一つで『聖水』に変えられたぞ!!」
計画していた貴族たちが、椅子から転げ落ちた。
「我らの一致団結した殺意を、溜息一つで浄化された……。
あの方は、毒すらも慈悲で包み込むというのか……っ!」
(違う! 飲み込む勇気が出なくて、息を吐いただけなんだってば!)
その時だった。
会場のシャンデリアの影から、最後の手札——帝国最強の狙撃手が、毒矢を放った。
音もなく、光よりも速く、僕の眉間を貫こうとする一撃。
(……あ、鼻がムズムズする。
さっきのお姉さんたちの香水のせいだ。くる、くるぞ……!)
「ハ、ハ、ハックシュンッ!!」
僕が全力で放ったくしゃみ。
それは、パニックによる全魔力解放を伴う「指向性衝撃波」となった。
ドォォォォォォン!!
正面から飛来していた毒矢は、くしゃみの余波で粉々に粉砕され、そのまま衝撃波は天井を突き抜け、潜んでいた狙撃手を遥か成層圏まで吹き飛ばした。
さらには、会場の厚い壁を突き破り、王都の外にある「不吉な暗雲」までもが綺麗に吹き飛んで、夜空に満天の星空が現れた。
「……え?(※訳:鼻、痛い……)」
静まり返る会場。
誰もが、鼻を押さえて涙目になっている僕を、畏怖の眼差しで見つめていた。
「……くしゃみ一つで、天を割り、伏兵を屠り、ついでに王都の天候まで変えられた……」
「『私の前で小細工(暗殺)など、くしゃみ程度の価値もない』……。そういう意味ですね、師匠!!」
(違うよ! ただの生理現象だよ!
というか、今の爆発で僕の晩餐会の料理、全部吹き飛んじゃったんだけど! お腹空いてるのに!)
僕はあまりの空腹と悲しさで、ガックリと項垂れた。
「ああ、見てください! 暗殺者の命すら奪わず、空へと逃がしてやるあの慈悲深さ!
ゼノン様は、この世界の悪意そのものを、くしゃみで笑い飛ばされたのです!」
「……あ、あー。あー……(※訳:もう、お茶漬け食べて寝たい……)」
僕の力ない呟きは、その夜、「全人類への和解と共生の福音」として全大陸に発信された。
暗殺を企てた貴族たちは、その圧倒的な格の違いに魂を折られ、翌朝には全員が出家してゼノン教の修道士になったという……。
第13話をお読みいただき、ありがとうございます。
蒼井テンマです。
「毒のワイン」が「エリクサー」に。
「くしゃみ」が「対空迎撃魔法」に。
もはやゼノン様の周辺では、物理法則すらも「忖度」を始めています。
さて、王都の不穏な空気を「物理的に」吹き飛ばしたゼノン。
次回、そんな彼の噂を聞きつけた「隣国のわがまま王女」が、
『私を満足させられたら属国になってあげる』と無茶振りをしにやってくる!?
「くしゃみで星空を作る男(※無自覚)」をこれからも応援してくださる方は、
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皆さんの評価が、ゼノンの「次のくしゃみ」の威力を高めます!




