第11話:王位返上、あるいは「世界統一」の宣誓
……もう、笑うしかない。
人間、絶望の臨界点を超えると、逆に心が凪のようになるんだね。
(始祖の聖域で、建国の王の肖像画と同じポーズで固まっている僕の前に……現役の国王陛下が、王冠を差し出して跪いている。これ、何のコント?)
目の前では、さっきまで威厳たっぷりにパレードを率いていた国王ガダルキア13世が、涙ながらに訴えていた。
「始祖ゼノン様! 数千年の時を超えた再臨、臣下一同、心より感謝申し上げます!
もはや私がこの玉座に座り続けるなど、不遜の極み……。
どうか、この王冠をお受け取りください! 今日からあなたが、この国の、いえ、全人類の真なる主です!」
(嫌だよ! なんで僕が王様にならなきゃいけないの!?
王様なんて、毎日書類にハンコ押して、暗殺者に狙われて、派手な服着て……僕が一番嫌いな『責任と目立ち』の塊じゃないか!)
僕は恐怖とストレスで胃が裏返りそうになり、思わず手に持っていた聖剣【グラディウス】を杖のように地面に突いて、震える体を取り繕った。
その際、足元がフラついて、思わず口から本音が漏れる。
「……全部、間違いだ(※訳:この状況、何かの間違いだから、今すぐ白紙に戻して!)」
静まり返る聖域。
国王の肩が、ビクッと跳ねた。
「……ま、間違い、でございますか?」
「……そうだ。こんな……狭い場所で、何を……(※訳:こんな埃っぽい部屋で、何やってるの? 早く僕を外に出して帰らせて!)」
僕が言いたかったのは、「こんな狭苦しい場所で茶番をやるのはやめて、僕をただの無職に戻してくれ」ということだった。
しかし、僕の背後で控えていた「勘違いのプロフェッショナル」たちが、驚愕の表情で顔を見合わせた。
「——っ! そうか、そういうことか師匠!!」
クラリスが、雷に打たれたような顔で叫ぶ。
「師匠は仰っているのです! 『ガダルキア王国という狭い枠組みで、王に収まるなどという間違いを犯すな』と!
始祖であるあなたにとって、この国はもはや家の一室に過ぎない……。
真に統治すべきは、この狭い国土ではなく、魔界をも含む全大陸……いや、この世界そのものだ、と!!」
「……流石は主様。建国の王という過去の名光に安住せず、さらなる高みを目指せと。
『世界を一つに塗り替える』——。その宣誓、しかと魂に刻みました」
(違うううううう! 一文字も合ってない!
『狭い』のはこの部屋の心理的圧迫感の話であって、領土の話じゃないんだよぉお!)
僕は否定しようとして、慌てて手を横に振った。
その拍子に、聖剣の柄が王宮の壁に掛けられていた「世界地図」に、ガツンと当たってしまった。
僕のパニック魔力が聖剣を通じて地図に伝わり、地図上の「国境線」を描いていた魔導インクが一瞬で消滅し、世界が一つの色に染まった。
「……ああ! 聖剣が、地図の境界を消した!?」
「『国境などという、人の作った間違いを私が消してやろう』……。なんという、なんという壮大な御意志!!」
国王はもはや感動のあまり過呼吸になり、地面を叩いて泣き崩れた。
「わかりました、ゼノン様! 私めはあなたの足元を固める『総督』として粉骨砕身いたしましょう!
直ちに周辺諸国へ伝令を! 『始祖ゼノンによる、世界統一政府の樹立』を宣言せよ!!」
(待って、待ってってば! 国王様、立ち上がって!
勝手に変な宣言しないで! 僕、他国の言葉なんて一つも喋れないんだからね!?)
僕は絶望のあまり、ふらふらと聖域の奥へと後退りした。
その背中が、周囲には「新世界の創造へ向けて歩み出した、孤独な王の背中」に見えたのは、もはや言うまでもない。
「……はぁ。もう、好きにして(※訳:現実逃避させて。もう何も見たくない)」
「はっ! 『世界を好きに作り替えろ』との御命! 承りました!!」
クラリスとリル、そして古龍王アレスが、かつてないほど禍々しくも神々しいオーラを放ちながら、世界を征服……いえ、世界を「勘違い」で包み込むために動き出した。
こうして、隠居を夢見る二等兵は、ついに「世界皇帝」としての第一歩を、本人の知らないところで踏み出したのである。
第11話をお読みいただき、ありがとうございます。
蒼井テンマです。
「全部間違いだ(早く帰らせろ)」が「世界統一宣言」に。
ゼノンの言葉は、もはや本人の意志を離れて、勝手に歴史を書き換える「神託」と化しています。
さて、世界皇帝(仮)となったゼノン。
次回、彼のもとに「世界中の国々から貢ぎ物(ヒロイン候補含む)」が殺到し、
ナラクの門に続いて、王宮までもが「カオスな魔窟」に変わる!?
「ゼノン、いよいよ逃げ場が宇宙しかなくなったね(笑)」と思った方は、
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