第1話:今日から俺は無職のはずだった
はじめまして。あるいは、いつも応援ありがとうございます。蒼井テンマです。
本作は「とにかく働きたくない、目立ちたくない」という、どこにでもいる(?)
小市民な主人公が、周囲の猛烈な勘違いによって、
不本意ながら世界の頂点へと押し上げられてしまう物語です。
「本人は泣きながら逃げているのに、周りは神と崇める」
そんな温度差を楽しんでいただければ幸いです。
もし「クスッときた」「ゼノンの胃腸が心配だ」と思ってくださったら、
ブックマークや評価などで応援していただけると、執筆の励みになります!
それでは、地獄の門番(自称・最弱)の物語をお楽しみください。
「……それで、本当に良いのだな? ゼノン・ギリアム二等兵」
重厚な執務机の向こう側で、王国軍の人事総監が苦虫を噛み潰したような顔で僕を睨んでいた。
その鋭い眼光に、僕の心臓はさっきからドラムセットを乱れ打ちにしている。
(ひっ、ひいいい……! なんでそんなに怒ってるの!?
僕、何か悪いことした!? ただ『一番楽な職場に行きたい』って言っただけだよ!?)
僕、ゼノン・ギリアムは、この日をもって王都守備隊をクビ……もとい、円満退職するはずだった。
魔力測定では「計測不能(低すぎて測定器の針がピクリとも動かない)」という前代未聞の無能ぶりを晒し、訓練では常に最下位。
僕にあるのは、「戦いたくない」「働きたくない」「平和に寝ていたい」という、小市民としての崇高な志だけだ。
「……はい。僕のような無能には、その……相応しい場所があると思いまして」
実際は恐怖で声が裏返りそうだったのだが、極度の緊張で顔の筋肉が硬直した結果、僕の言葉は低く、冷徹な響きを持って室内に響いた。
おまけに、ガクガク震える膝を隠そうと無理に背筋を伸ばした姿は、総監の目には「並々ならぬ覚悟を秘めた者の佇まい」に映ったらしい。
「ふん……。無能、か。自らの力をひけらかさず、あえて汚名を被ると。
よかろう。貴殿の希望通り、辺境の『ナラクの門』への配属を許可する」
(やった……! 『ナラクの門』。名前はちょっと不吉だけど、誰も来ない廃墟の門番だって聞いてるぞ。
あそこなら、一日中日向ぼっこしててもバレないはずだ!)
僕は内心でガッツポーズを作りながら、総監に一礼して部屋を出た。
その直後、総監が震える手で書類に「極秘」の判を押したことなど、知る由もなかった。
「……ナラクの門だと? 過去千年間、一度として封印が解かれたことのない、大陸最悪の魔境の入り口だぞ。
そこへ一人で行くと、彼は……あの男は、笑って(※引きつり笑い)言ったのか。
王国は、とんでもない怪物を飼っていたようだな……」
†
一週間後。
僕は、絶望の淵に立たされていた。
「……話が……話が違うじゃないかぁああああ!」
目の前に広がるのは、どす黒い雲が渦巻き、紫色の雷光が絶えず降り注ぐ地獄のような光景。
巨大な石造りの門の向こう側からは、聞いたこともないような禍々しい咆哮が響いてくる。
(楽な職場!? 誰も来ない!?
当たり前だよ! こんなところ、人間が来たら一瞬で塵になるよ!
『ナラクの門』って、『地獄の入り口』って意味だったのかよぉお!)
逃げ出したい。今すぐ王都に帰って、総監の靴を舐めてでも復職させてもらいたい。
だが、僕の背後には、たまたま物資を運んできた補給部隊の兵士たちが、畏怖の眼差しでこちらを見つめていた。
「おい、見ろよ……。あのゼノン卿を」
「ああ、信じられん。あの瘴気の中に立って、欠伸をしているぞ……」
(違うんだよ! 怖すぎて酸素が足りなくて、脳がバグって大きな欠伸が出ちゃっただけなんだよ!)
その時だった。
石造りの巨門が、ギィィィ……と嫌な音を立てて震え始めた。
門の隙間から、ドロリとした漆黒の液体のような魔力が溢れ出し、一つの形を成していく。
――魔界の尖兵、グレーター・デーモン。
一国を滅ぼしうる災害級の魔物が、現世への侵攻を開始したのだ。
「ギ、ギギ……ニンゲン、ミツケタ……。ココハ、ワレラガ……」
(ひ、ひいいいっ!? 出たぁああああ!
死ぬ! 確実に死ぬ! せめて、せめて一矢報いないと……いや無理!
あ、足元に落ちてるこの小石を投げて、隙を見て逃げよう!)
僕はパニックになりながら、足元に転がっていた真っ黒な石を拾い上げた。
それは実は、この地の瘴気を数百年吸い込み続けた、超高密度の魔石だったのだが、僕には「ちょっと重めの石」にしか見えなかった。
「あ、あっち行けぇえええ!」
僕がヤケクソで投げつけたその小石は、僕自身の「無自覚に溢れ出ていた規格外の魔力」を導火線として、臨界点を突破した。
ドォォォォォォン!!
閃光。そして、鼓膜を突き破らんばかりの爆音。
僕が投げた小石は、音速を超え、空間を削り取りながらグレーター・デーモンの眉間に直撃。
それどころか、背後の雲をも吹き飛ばし、地平線の彼方まで続く巨大なクレーターを作り上げた。
「……え?」
僕の目の前には、何も残っていなかった。
さっきまでいた恐ろしい悪魔も、立ち込めていた瘴気も、ついでに門の一部も、綺麗さっぱり消し飛んでいた。
(……え? 今の、何?
もしかして、石の中に爆薬でも詰まってた?
それとも、あまりの恐怖に僕が幻覚を見てるの?)
呆然と立ち尽くす僕の背後で、補給部隊の兵士たちが、バタバタと地面に膝を突く音が聞こえた。
「……神だ」
「魔法も使わず、ただの石礫で……上位悪魔を概念ごと消滅させた……」
「見ろ、あの立ち姿を。まるで『散歩の邪魔をするな』とでも言いたげな、あの傲岸不遜な背中を!」
(違う、違うんだ!
腰が抜けて、一歩も動けないだけなんだよ!
誰か助けて! 怖すぎて、もう涙も出ないんだよぉお!)
こうして、隠居を夢見た僕の門番生活は。
「人類史上最強の守護神」という、最大級の誤解と共に幕を開けたのである。
「……ふん。この程度か(※訳:もう無理、おうちに帰りたい)」
僕の絶望に満ちた呟きは、兵士たちの手によって、翌日には王都中に「覇王の宣戦布告」として轟き渡ることになるのだが……。
それはまた、別のお話。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
蒼井テンマです。
「一番楽な仕事を求めたら、一番ヤバい場所の神にされていた」
そんなゼノンの受難の日々、楽しんでいただけましたでしょうか?
もし「この情けない勘違い野郎の今後が気になる!」と思っていただけたら、
ぜひ【ブックマーク】と、下の【☆☆☆☆☆】から評価をお願いします!
皆さんの評価が、ゼノンをさらに(不本意な方向に)追い詰める力になります。
次話、王都に広まる「ゼノン伝説」の爆走をお楽しみに!
当面の間は1日3話投稿予定です。
ブックマークしてお待ちください。




