白鷺ーシラサギー
あの日、吐き出す言葉の全てが宝石のようにキラキラ光りながら彼女の身体を通り抜けて、コンビニエンスストアの蛍光灯をイルミネーションと形容しても過言でないほどに綺麗に見せた。
もう少しで私の高校生活も終わりをむかえようとしている。特出して素晴らしい三年間だったわけでもなく、みんなが通る普通の高校生活をすごしたと思う。それなりに恋愛して、それなりに青春というやつを謳歌し、それなりに勉学に励んだ。大学もそれなりのとこを受験して、春からもそれなりの人生を続けるのだと思う。今までの人生にも満足しているし、これからもきっと何の不満もなくそれなりを謳歌するのだ。雫とは幼馴染で、小学校の入学式隣の席に座ったのがきっかけで仲良くなった。その後も中高と同じ学校に入学し、今日までに至る。所謂草腐れ縁というやつだろう。
雫「おはよう。今日も寒いね。明日から自由登校になるけど、馨はどうするの?」
馨「おはよう。私は受験終わったし、とりあえず行こうと思った日だけかなあ。することもそんなにないしね。雫はどうするの?受験、終わったでしょ?」
雫「私もそうしようかな。登校する日は連絡してよ。」
馨「うん。そういえば、お母さんがまた泊まりにおいでって。」
雫「そうだね。なんだかんだお泊まりはできてないし、今度行くよ。これから少し忙しくなりそうだから、いつとは言えないけど。」
馨「そっか。今年、だもんね。」
春の日差しが徐々に顔を出し始める時期、地元では祭りが行われる。祭りといっても田舎の小さなもので、無事に冬を越せたことを土地の神様に感謝するものだ。古くからの習わしで、その年の祭りの最後には次の年の祭りの白鷺と呼ばれる巫女が選ばれる。去年の祭りで今年の白鷺に雫が選ばれた。この話をするときの雫はいつもどこか心踊る様子だ。道行く町の人も、皆雫を見てニコニコしている。もうすっかり有名人といったところだ。
馨「今日、帰りにコンビニ寄らない?」
雫「賛成。教室で待っててよ。」
馨「わかった。待ってる。」
ー放課後
窓際の席から雪の積もったグラウンドを眺めながら雫を待つ。我ながら陳腐な感想だとは思ったが、ただその景色を綺麗だと感じた。
雫「お待たせ。なんか担任の話がいつもに増して長くてさ。自由登校といえど今日が最後なわけでもないのにね。」
馨「原先生だもんね。想像つくよ。じゃあ、行く?」
雫「行こ!」
冬の残り香が雫の白い肌を抱いて、口元まで覆ったマフラーから覗く鼻先をもぎたての林檎の様に真っ赤に染めている。
お店の前で小さく縮こまった雫は、温かいコーンポタージュの缶を両手で包んで、白い息を溢しながら話をしていた。
雫「おじいちゃんは私が生まれた時、すごく嬉しかったんだって。お母さんが2人目の女の子を産んだって町中の人に自慢してまわってたって聞いたんだ。私も巫女として白鷺をつとめられることをすごく光栄に思ってるし、楽しみだなあ。」
馨「二年前の祭りの白鷺は雫のお姉ちゃんだったもんね。いいなあ。私も選ばれたかったよ。選ばれるのは十八歳だけだから、私はもうないもん。でも、私の親友の奉納を見られるのは誇らしいかも。」
雫「蜉ゥ縺代※縲ら刈迚イ縺オ縺エ繧翫◆縺上↑縺」
馨「ん?」
雫「ううん。そろそろ帰ろっか。」
馨「そうだね。また連絡する。ばいばい!気をつけてね。」
雫「うん!そっちもね。ばいばい!」
馨(あれ、もうすっかり暗くなってる。そんなに話したかなぁ。ついさっきのことなのに、全然会話の内容覚えてないや。)
あの日から一週間、雫からの返信も、連絡もなかった。
祭りのための準備で忙しかったのだろうとあまり気に留めていなかったし、今日がその祭りなので、会った時話せばいいや、と思ったのだ。
小さな祭りとはいえ、町中の人が集まるので境内はとても賑やかだった。人混みを抜けて雫が奉納のため待機している場所へ向かった。遠ざかる人々の声を背に歩いていると、純白の白衣と舞衣に身を包んだ雫を見つけた。
馨「久しぶり!綺麗だね。すっごく似合ってるよ。」
雫「うん。」
馨「いやあ、ついに、だね。今日が楽しみで眠れなかったよ。」
雫「うん。」
馨「特等席で見てるから!じゃあね!」
雫「うん。」
消えいりそうな声で返事をして、浮かない顔をしながら雫は奉納のために神社の中へ入って行った。本当は白鷺になりたくなかったのだろうか。この町の女の子であれば皆がなりたいというのに、なんて傲慢なんだ。実際、数週間前までは浮かれた様子だったのに。私や他の子への当てつけだろうか。とりあえず、特等席で奉納を見られるのだし、気を取り直そう。本人がどうであれ、親友が白鷺に選ばれた事実は揺らがないのだから祝ってあげなければ。
白鷺に選ばれた雫の親友、ということで、町の方のご厚意で特等席をとってもらえた。高鳴る胸の鼓動をどうにか落ち着けようと深呼吸をする。なんせ、身近な人の奉納を見るのは初めてだった。
鈴の音が鳴る
幕が開く
雫だ。雫が出てきた。
華奢な体にはとても身合わない大きなナタを持って、一歩一歩踏み締めている
先程までとうって変わって境内は静寂に包まれる
雫が木の目に沿って歩く音だけが響く
ああ、なんて美しいのだろう
皆の視線の先には、雫だけがいる
雫は立ち止まって、その場で正座した
宮司「土地神様。本年も冬を無事に越すことができました。感謝申し上げます。どうか次の年もお力添えを頂きたく、本年は、小日向 雫 を白鷺として仕えさせることとなりました。白鷺を贈る奉納を始めさせていただきます。」
大勢に見守られながら奉納が始まる
雫は宮司にナタを両手で手渡す
ゴッッッッ!!!!
鈍い音だ
大きく振りかざされたそれは、雫を割いた
何度も、何度も、雫へ刃が落ちるのを誰もがただ無言で見ていた
高揚した
おめでとう。よかったね。
あれ、そういえば私、雫とは小学校から一緒にいるはずなのに、去年からの記憶しかないなあ。ま、いっか。
特等席には、“雫”が舞って飛んできた
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【移住者募集】
活気に溢れる住みやすい町
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町の人の声
「子供のいる家庭に優しく、娘がいるので助かっています。移住してよかった。」
「小さい町なので閉鎖的だと思っていたけど育児に協力的で優しい人ばかり」
「一度ここへくるともう他へは行けません!」
✖︎✖︎県✖︎✖︎市✖︎✖︎町
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