第三話
冒険者ってもしかしてどっかから出てるクエストを受理して、達成できたら報酬がもらえる、あの冒険者ですか?」
自分が見ていたアニメにそういう職業あったな、と少し思い出を探るようにして話すと、カディオはクスッと笑った。多分、思い付いたことから話したから早口になっていたのだろう。恥ずかしい、癖でまた早口になってしまった…
「うん、合ってるよ。」
笑ったからか口角が少し上がって、カディオに似合う顔になった。カディオの笑顔を見るとこちらも少し嬉しい。
さて、盛り上がっているところでちゃんとした大人の話に入るとしよう。
「では、カディオさん。その冒険者になるためにはどういった条件が必要なのですか。」
「君の最初の質問『条件』について、今から話すね。」
カディオから話を聞くと以下の条件だった。
1.成人以上であること。
ちなみにこの世界だと成人は22歳だそうだ。成人年齢が22歳の理由は、魔法が上達しこれ以上の魔力の増加が見込まれないからだとか。加護も22歳からある、というかそういう系統の魔法をかけられるとかなんだとか。
2.プラントゴブリン討伐ができること。
このゴブリンは二足歩行ができる生物として、初めてこの世界に誕生したらしく、その生き残り?子孫がいるらしい。で、子孫を基準として考え、最低でも一匹は討伐可能でなくては冒険者の数も一気に低下するという話も出ていたんだとか。だから、これも条件の一つになっている。
3.道理があること。
誰にだって目標があり、大切なものがあるはず。なくてはならない。こういった精神的なことこそ一番大切にしているのだと。
4.死の覚悟があること。
言葉通り。一つとして保障はしないなし。
「えぇっと…これだけですか?」
カディオは首を傾げた。
「これだけって?」
「ほら、契約書とかはいらないんですか?」
あぁそれね、とカディオは左手を皿のようにして右手でポンと叩いた。
「なんか冒険者グループと組織、団で分かれてるんだけど、この中だと団しか契約書みたいな物はないよ。」
なるほど、こっちの世界のアルバイトみたいな職業なのか…それで死の覚悟?え…ナニコノセカイコワーイ。でも、この世界のことを少しは理解できた気がする。
懐かしいな。就活の時期の私。死に物狂いで勉強したなぁ。死ぬ覚悟なんてない。それが条件でも持ち合わせるつもりはない。私は自分の経験と勉強して分かった知識たちを生徒に伝え、生徒の人生に活かしてもらうことが『教員』だから。
「冒険者になりたいです。」
「冒険者としての人物像、心は完璧だね。では私から君に最上級の“モノ”をあげよう。」
吾輩は冒険者である。教師なので授業しようと思ったらいきなりGP常連芸人にされた刹那、冒険者に転職。かっこよく羽織ったコートに近いもの。授業セットに、差し棒とチョークを入れたポシェットみたいなのを腰に下げ、頭に入っている知識に、自分の体にまだ響き続ける経験、カディオから貰った魔導書。うん、完璧。アニメだったら無双できる感じだ。よし、行くか!
〜
「聞いてないって!無双できるでしょ、普通!そういうパターンっていうかルートじゃないの!最初は何もできないってことは着々とレベル上げみたいなことをして防御力を極められるんだよね!?もしかして戦って、強敵と会った時に敵に繋がる線が見えるとかなの!?」
図ったなカディオー!、って叫ぼうとしたが親切にしてもらった思い出がそれをさせなかった。
分からないだろうから説明しましょう。事は二十分前。
カディオから魔導書を貰って驚いていると、すぐにカディオに地図を渡された。
「これにクエストの掲示板がある場所が記されてるよ。多分私が印を付けてると思うからそこを目指して。」
って言われて出口を堂々と出て、行ってきます、とか抜かしてたっけな私。地図見ながら調子に乗って歩いてたらどデカい鯨が地中から出てきました。
そして今追いかけられてるって訳。意味わかんねぇや。意味分からないでしょ、逆に。
「カディオさん!お願いだから!助けて!」
「なんで砂から鯨が!?」
誰かがこう叫んだ。あぁ、私と同じ人いたわ。もう一緒に逃げますか?鯨から。走っているその人はフードを被っていて顔は見えなかった。腰に剣下げてるし。盗賊なのかな。
同じ人?自分の頭からすぐに出たこの単語に疑問を持った。同じ人って事は私と同じ地球で生まれた人…同類!?
「あ!あの!」
「あのってあの芸人ですか!さすがに知らないか…そこの逃げてる方ですか!俺に話しかけたの!」
「そうです!芸人の話してませんし!一つ確認しても!いいですか!?」
「い、嫌です!」
えぇぇぇええ!?
「やっぱり!いいですよ!確認しても!自分でも分かる確認でお願いします!」
「分かり、ました!はぁはぁ…確認一つ目!今の税金は、何、パーセント、ですか!?」
「じゅ、10%!」
日本人の可能性あり。もしかしたら違う世界からこの異世界へ、の可能性もあるけど…いやパラレルワールドかも。
「確認、ふた、つ、目!あなたの、好きな、ゲーム、またはアニメの、作品って、あ、ありますか!?!?」
「ゲームは、『オセロ』!アニメ、じゃなくて、小説だったら!小説は、『non title』です!」
決定した。完璧に私と同じ地球だ。
「確認、は終わり、です!私は!大竹、信村!!!」
「大竹…信村…先生…!?」
先生?なんで先生が付いてるんだ?
すると、その人のフードがとれた。青年であった。見るからに青年であるが、体付きはよく筋肉があった。あれ?見たことある顔な気がする。
「もしかして、提出物をちゃんとやればテストで高得点取れる、“氷河冷都”じゃない?」
「やっぱり、大竹先生!?なんでこの世界に!?ていうかなんですか、その異名!?」
「ちょっと!安心した!」
「安心してる場合なんですか!?」
「切り抜ける方法って!なんかある!?」
「急にそれですか!?考え中です!?」
「腰に下げてる剣じゃ!無理!?」
「やりますか!?」
「ごめん!私は役立つこと、できないし!」
「分かりました…なので課題出さなかったの許してくださいね!あと成績…」
「ハイハイ!分かった!分かんないけど!」
ふぅ、と深呼吸を一つして、右足を前に出して綺麗に回ってみせた。鞘を左手でおさえながら、右手で剣を抜いた。
「何でそんなに錆びてるの!?ボロボロじゃん!?」
思わず出た声に氷河(以下略)は怒りながら、
「しょうがないでしょ!これしか落ちてなかったんだから!」
あぁもう、と言いつつ剣を持つ手に力を入れていた。
氷河の構えはいたって綺麗であった。剣道の構えが一番近かったけど、少しアレンジも加えられていた。そのまま振りかぶり鯨と向かい合う。その距離はすでに30メートル。氷河の深呼吸には白くなった息が行き交っていた。周辺は気温が段々低くなり氷河の体には氷がつき始め、背中からは氷柱が生えた。ボロボロだった剣なんて原型が見えなくなるほどの巨大な氷ができ、モン◯ンで見るような剣をはるかに超えたすごさ。
「おぉ、さ、サブッッッッ!」
鯨は口を開けて私と氷河を飲み込もうとした。 ここで既に気温はマイナス21℃。
「俺はこれまでのクラス全部を冷たい空気にした!先生に提出物忘れたり無くしたりして、担任と保護者の三者面談のあの氷河期みたいな空気も切り抜けたんだ!自分の期末の点数が悪くて友達に見せたらみんな90点台だった時も何とか切り抜けた!だからこの状況も、断ち切れる!」
長ったらしい酷い文章を言い終えると剣を力のまま振った。鯨に当たると、辺りは一気に真っ白に染まり、何も見えなくなった。
「氷河冷都くん!?」
視界が開けていくと、目の前にはさっきの鯨の表皮があった。表皮はゆっくりと倒れて氷河の姿が見えた。もう氷もなく地面は潤いが戻るようにしてさらっとした質感になっていた。
「先生、切り抜けました。断ち切れました!!!先生、提出物の件と成績を…」
「無事で良かった。提出物と成績の件はまぁ、こんな状況だもんな。保留でいいよ。」
氷河はこの言葉を待っていた!と言わんばかりの満面の笑みを浮かべた。




