第二話
「違う世界って言っても私の世界のアニメとか小説とかのですか?」
「アニメ?それは私知らないかも。小説とかで出てくるかって言うと微妙にはなるけど、多分君の考えてるものであっていると思うよ。」
ここが本当に異世界である事なのはまだ不明な点が多すぎる。魔法も色んな魔法があるわけだし、ハリー◯ッターに近いのか、よくアニメとかで見るハーレムばっかりのああ言った系統なのかもしれない。異世界って言ってもそれは何かが重なり合った…(省略)。
で、このカディオ(以下略)と名乗る女性がなんで私の目の前にいたのかも、どれも悩ましい。
そうしてただ自分で情報過多な今の状況を整理しつつ、なんとなくだがカディオに視線を送った。私の視線に気付いたのかカディオは再び私の方向を見て、?を頭の上に浮かべてから納得した顔をして
「ごめんね、混乱してるのに。少し休んでて。私もちょっと準備とかあるし。」
そう言うとこの場所から席を外す。さて、改めて頭の整理といこう。
まず私は今日からまた仕事だよとか考えながら山を越えーの、海を越えーの、丘を越えーの、昨日の自分を越えーの、なんか順序違うな、いやそもそも盛りすぎたな。で、授業の準備をして教員らしく堂々と教室を入った。そしたら、真っ暗+奈落。そんなこんなで今の状況。なんだよそれ!?まだ異世界とも決まってないし、カディオも素性が明らかじゃないし。待てよ、私が教室に入る時に持ってた「授業セット」はどこに…
キョロキョロしているとカディオが何かを持って出て来た。
「まだゆっくりしてていいよ。私はちょっと用事があって来ただけだから。」
「すみません、一つだけお尋ねしたい事があるのですが。」
「どうしたの?」
「私が持っていたプラスチックのカゴみたいな物って、どこかにあったりしませんか?」
プラスチック?のカゴ?と首をかしげた。
「あのーなんかこう四角っぽくて中に教材、じゃなくて本とかが入ってる、」
手振りで頑張って伝える。授業で手振りほとんどしないから慣れない…
「あぁ〜。あるね。ちょっと待ってて。いや、どっち先にしよう。こっち処理しないとあっちにすごい影響与えちゃうし、いや待たせるわけにはいかないし…」
この優先順位について考える姿はなんか私っぽいな。まぁ自分にそっくりな言動見てて自分が悲しくなるだけだからちょっと助言を添える事にしよう。
「そちらも用事があるのでしたら、そちらから済ませてもらった方がこちらも楽なので。」
「ごめんね。じゃあこっちから。」
そうするとカディオは私が座っている固すぎるベッドのような石でできた物に近づき、今更気付いた魔法陣に、手に持っていた紙を握りつぶして魔法陣の横に置く。その動作だけでは何をしようとしているのかも全く分からず、分かった事としてカディオが何かをやっている、ぐらいだ。
何をしてるんだろう?本当に率直な疑問が浮かんだ。この世界では変な疑問になるだろう事を考えてカディオを見つめていると紙は内側から黒く染まっていく。
「一つお聞きしても?」
「どうしたの?」
さっきの疑問をぶつけてみよう。とりあえずね、とりあえず。
「何をされて?」
「あぁ〜、これは魔力残滓の吸収だね。私が君をこっちに来させるために使ったのがこの魔法陣なんだけど、あっちの世界とこっちの世界を繋ぐために色々な事が行われるんだよ。例えばこっちの世界のどこを中心としてあっちの世界で魔力発生させる原点をどこにするかとか、言語理解、そして会話するための脳内変換、召喚する人物の魂から魔力を発生させる、などなど。」
いやいや魔力とか残滓とか魔法陣グル◯ルとか、それは関係ないか。よくできた設定だな、とか言ったら怒られそう。実際まだドッキリなんて言われてないのならオチがあるはず。GPでもオチあるし、Dが出てくるでしょう。出てこなかったらどうしようか。
すると、カディオが先程の作業が終わったようで、よいしょ、と立ち上がる。
「ごめんね。すぐ君の荷物持ってくるよ。」
「あ、ハイ。」
授業セットの事忘れてた。
数分後。
「これだよね?」
「そうです、それですそれ!」
あって良かった。いやぁ〜これから社会が教えられなくなったらどうなるかと…待てよ、私今教師なのか?これがドッキリでも一日分無断欠勤って事じゃないか?そしたら四捨五入してドッキリ常連の芸人に肩書きが変更されてしまうのではないか?
突然の不安に襲われて泣き付くようにしてカディオに聞く。
「あ、あのー、」
「どうしたの?」
「ここでの職業って、もしかして“教師”じゃ…ないんですか?」
「“キョウシ”?職業っていうと貴族が中心だから国民の職業って言うと、商売、科学者、技術者、農民、先導者のような職業が私たちぐらいの立ち位置の就けるところかな。技術者とは言ったけど、織物とかそういう生活に使う物も作っているよ。私も公式の職業、いや表に出ない職業だからそれについてああだこうだ言える立場じゃないんだよね。」
「っく!やっぱりGP常連芸人になってしまうのか!」
「ジーピージョウレンゲイニン?一種の職業かなんか?」
「き、気にしないで下さい…」
カディオが心配そうに私の事を眺める。その視線、毒です。
「職業について知りたいのなら、すぐ自分の現在の立場が出せる物あるけど…使う?」
「是非!」
なんか食い気味に言ってしまった。
「そしたらこっちの部屋にあるからついて来て。」
まだふらつく足でカディオの後ろ姿を見ながら一歩ずつ歩みを進める。さっきの部屋は石でできた机なのかベッドなのか分からない物と本の数々、鏡など物語などで見る魔女の部屋などでは無い感じであった印象だった。それがガラッと変わって少し木材の温かみのあるような色であった。壁は木材、椅子も木材、机も木材、棚も木材、窓はガラスだな。さっきの部屋にあった本とは違い、本当にカディオの趣味の本という印象だった。奥には少し狭い空間があった。ちょっと覗いてみるとやはりキッチン。カディオが何を得意としているのかは気になるところではあるが、現在の職業について知る事が今の私の優先順位第一位だ!
「で、その物はどこにあるのですか?」
「実は君の目の前にあるんだよ。」
カディオは私の顔を覗き込みながら、得意気という感じではなく、悪戯っぽく微笑んだ。
「えぇっと…」
「ほーら、ここ、ここにいるでしょ。」
何処だ!なんだ、見えない物なのか!?
そうしてキョロキョロしているとカディオが小さく自分に指を指していた。そちらの“モノ”でしたか。失敬、失敬。
「カディオさん?なんですか?その“モノ”って。」
「そうです。私が例の“モノ”です。」
「本当にはかれるんですか?ほら、人がはかると独断と偏見が壁をして正確な判断が鈍るのでは…」
「まぁまぁ、試してみなきゃね。」
「そしたら部屋移動しなくても良かったんじゃ?」
カディオは腕を組んで言う。
「私はこっちの部屋の方がリラックスできるからね。あっちは小さい魔法を使うんじゃなくて、なんらかに影響を大きく与えちゃう魔法を使う時。あっちの部屋だったら魔法もあの部屋にしか影響が出ないし、そして魔法を使う為の基盤である魔力も圧縮されるから、必要がない魔力は無くなるし、強い魔力はより強大になるんだよ。」
カディオはそういった類の話をするのが得意、というより好きなのだろう。
「影響があっちの部屋にしかないのなら、さっきはなんであっちの世界に影響が…なんとかって?」
「一応、この世界の中のどこかが対象としているのなら抑えられるんだけど、あっちの世界に繋ぐとあの部屋の効力は不安定になるんだよ。だから最後に後片付けみたいな感じのをしなくちゃいけない、っていう規則?みたいになってるんだ。」
この世界の書物に書かれた出来事や、ルールの一種なのだろう。聖書などであれば、読む人数は多くなる。ならば、これはしてはいけない、これは許されるなど法律では決められていない、精神的な定めなのだろう。
社会を教えている、というだけで何故か心が躍る。自分の知らない世界について学びを深められる事で喜びが生まれる、これは人間特有なのかもしれない。
「そういうのってどこで決まるんですか?それとも誰かが?」
「まぁ、微妙だね。私、本を読むのは好きで色々挑戦してみたりしてるんだ。いっつも一人だし。で、今日初めて召喚したんだよ。勿論君をね。」
カディオについて少しだけ知った気がする。挑戦を欠かさない事は良い事だし。流石にギリギリなラインの挑戦は控えていて欲しいが。
「私も本を読むのは好きです。」
「話が合いそうで何よりだよ。どっかで是非、君の好きな本とか、君の世界の事教えてね。」
「いつでも問題ないです。」
そっか、と少し悲しみが滲んだ声を出した。その声はいつかの記憶を思い起こしているような。それを繕うかのようにしてカディオは話を戻す。
「そうだそうだ。君の今の立場について、だったね。そしたら私の方に手を伸ばしてて。」
「分かりました。」
すっかり忘れていた。最近は忘れっぽくて困る。
カディオの言葉通り、手を伸ばす。そうすると、カディオは目を閉じてよく分からない手の動きをする。なんかの儀式にも見えるが決定的に違う。そりゃあ異世界だもんな。どんな文化があるのかも不明で、こっちの世界の礼儀なのかもしれない。
「よし、終わったよ。」
「もうですか!?」
「私は変な魔法なら得意なんだよ。」
得意気に言っているが、自慢なのか謙遜なのかが分からず、どう反応すればいいか困った。うん、濁そう。
「どう…でした?」
「うん…まぁ落ち着いて聞いてね。」
縦にぎこちなく首を振った。
「偏見なしで言うよ。君の能力…」
ごくり。
「後方支援タイプ、魔力ほとんどなしで恩恵あり、特殊魔法は料理スキルと経験…しかも合併特殊魔法って…」
「それって強いんですか…?」
「この世界のゴブリン、一番弱いヤツね。それが二頭分…。で、でも特殊魔法がどういう効力があるか、分からないから、ね。合併特殊魔法ってほとんど聞かないし。」
デスヨネー、アニメトカマンガ、ショウセツミタイナコトガオコルワケナイデスヨネー。慰めで言っていただろう最後の一言は、もう耳にも届かなかった。よし、濁そう。
「そんな事より、職業は!?」
そ、そ、そうだよね、と焦るカディオが言った。
「職業は…“元”教師…」
「“元”…教師…?」
どうも、元教師です。じゃないんだよ、元ってなんだ、元って。宋を滅ぼした国の事かな。
「あの、ていう事は…この世界では自称の類という感じ…でしょうか?」
カディオが私から目を背けながら、多分…ね、と言う。
「あぁ、あ、ハハハハハ。」
「気を!気を確かに!」
「は、はい。帰って来ました。」
「お、お帰りなさい。」
教師じゃない、GP常連芸人でもない、ならこの世界はドッキリじゃないかもしれない。そして、私は無職でもある。じゃあ、私はこの世界で何を職として生きるんだろう。
「私が働けるような職業って…ありますか?」
「あるよ。大竹君の働けそうな仕事。」
あれ?私、名前教えたっけ?なんで知ってるんだろう?
「すみません、私名前教えてませんでしたよね?」
「あ、ごめんごめん。私、今の魔法で名前分かったから。ついつい。」
「いえそんな事は。では改めて自己紹介させていただきます。私は大竹信村。一応、私立の中学高等学校の方で教師をしていました。ちなみに教えていたのは社会です。」
「社会?今の世界情勢とか政治、経済とかそう言う難しい事を教えてたの?」
「それは公民ですね。他にも地理や歴史、日本史、世界史などもあります。私は一応、どれでも教えられます。」
「なるほど、興味深いね。それもどっかで教えてもらうとして、君の働ける職業…それは、」
何秒か間を置いた。カディオは口角をほんの少し上げて言う。
この世界だとどうにもならない仕事、なら今目の前にある職業に食い付いて明日に繋ぐしかない。
「“冒険者”だよ。」