86-この身体、不眠不休で働けるんです
ペラペラ余裕こいて喋ってたら、暫定身内枠に内容全部すっぱ抜かれてたでござる。
なんでそんなことするんですか……?
あんまりな出来事に暫く茫然としてから、僕は天の岩戸ヨロシク部屋に籠った。
もう知らない。盗み見野郎共は自己解決してろクソが。マーチもマーチだ。なんで僕に許可取らねぇーんだよクソアイドルがぁ…
「ぅぅぅぅ〜……!!」
僕にだって、人並みの羞恥心はあるんだぞ。
魔法少女やってる時は吟じてても、役を羽織ってるから我慢できるけど……ッ!
クソが。
転移魔法でしか立ち寄れないこの密室。ふふっ、絶対に引きこもってやるからなァ……ッ!
……もう配信魔法の権限奪った方が早いな。やるか。
ったく、自由行動できるように制限をかけなかった僕も悪いけどさぁ。
魔法少女のコスチュームを着たまま、布団に寝転ぶ。
……あぁ、なんか違和感あると思ったら、寝転ぶの自体久しぶりなのか。
何徹目だっけ。もう覚えちゃいない。
不眠にも程がある。ゾンビの身体にかまけて、大分悪い生活してるな……
でも寝れるような状況じゃないし。眠くもないし。
そう眠気に抗ってゴロゴロしていると、今感じない筈の気配が隣に現れる。
「……なに」
「私も寝る」
「帰って…」
不法侵入リデルちゃんを遇らうが、こちらの主張は全部無視される。チラッと目線を寄越せば、両手で枕を抱えていて。こいつ、自前の枕まで持ってきてやがる……
ここで布団に潜ったら、絶対に入り込まれるよなぁ。
秋の肌寒さはこの部屋では無関係とはいえ、ないと少し心許ない……邪魔だなぁ、こいつ。つーか寝ねぇよ。人の思考横に逸らすな。
はァ…
「寝るぞ」
「寝ない」
「寝るったら寝るぞ」
「執拗い…」
「むぅ。よし、メード!チェルシー!手筈通りだ!」
「はい!」
「ん!」
「は?」
なんか増えた。待ってメードに拘束された。羽交い締めよくない。チェルシー?その手に持ったパジャマはなに?こっちにジリジリ近寄んな?
それと、どうやって入った。リデルの転移魔法はあいつ対象しか使えなくて、連れ添いとかは魔力の関係で無理な筈。
……ミロロノワールの鏡魔法?あぁ、確かに僕を対象に発動すればいけなくもない、か……
あいつも共犯かよ。
「着替える」
「いやです面倒臭い……君って躊躇いないよね。あの子に影響されでもした?」
「……わかんない。でも、そうかも」
「そっか…」
コスチュームを破らないよう丁寧に脱がされて、薄着のパジャマを着せられる。なに考えてんの。変身解けば別にいいじゃん。手間のかかることを……
魔法少女に変身したまま寝れってか?
……常在戦場だから、別にいいか。ぶっちゃけ、当時もそういう感じで寝てたし。
……よく見れば全員パジャマか。メードがメイド服以外着てるの違和感すごい。
ちなみに現在の時刻、午前6時。寝る時間ではない。
「雑魚寝でもする気?」
「ん!そういえばお姉さんと寝てなかったと思って」
「ノルマ制なの?それって」
「うん!」
わぁ元気……待って、寝るって枕元?丸くならないで?本当に猫ちゃんみたいな生態になってないか君。メードはもう布団に寝転んでスタンバってるし。
……リデルは、いつの間にか僕の腕の中にいるし。
えぇ……マジで寝なきゃなの?こいつらと?確かに眠い眠い眠い×100けど。
んんぅ……まだやることあるのに……不貞寝決め込むと嘘はついたけど、どうしようか。
眠気はあっても寝れなきゃ意味な……ンヒィっ!?
「んばっ、メード、貴様!?」
「くすくす…可愛らしい反応ですね、蒼月様」
「キモいっ!!」
「酷いです」
耳舐められた!右耳!こいつ、穂希と似たようなことを気持ち悪いっっっ、あっ、ヤバいリデルに腕拘束されて、身動き取れな、あひっ!?
うぅぅ〜!水音気持ち悪い!気持ち悪いって思わないとヤバい!!
「ふむ、彼奴から聞いたが、本当に身体が硬直して身動きできなくなるのだな」
「んっ……無力化成功です。このまま脱力させます」
「うわぁ…」
「もう脱力ッ、してるから!やめっ、やめろって言ってんだろうがッッッ」
「あばっ」
耳弱いって言ってんだろうが!あとあいつの入れ知恵かやっぱりな!!後で絞める!!
はァ、はァ……くっ、こんな辱め、久しぶりだよ。
制裁は絶対だ。最高幹部(首領)の耳を舐めるとか、普通極刑モノなのわかってる?
殺すよ?
「はい、眠れー」
「これで眠れるかこんちくしょうめ……」
「アロマ焚いたよ」
「……言われたままに実践しましたが、効果ありましたかこれって」
「……さぁ?」
「おい」
寝かせることにおいては大失敗この上ないだろうな!!
憤怒の形相でそう吠えるも、チェルシーに頭を抱えられ強制就寝。背にはメードが張り付き、ある胸にはリデルが上目遣いでしがみついている。
前門の女王、後門の無能、頭上の猫か。困ったな。
逃げ出すのは不可能……無理にやってもいいけど、別にそこまで拒絶する内容でもなくて。これで僕を殺す為とか拷問の為とかだったら、容赦なく殺して逃げるんだけど。
ただ寝かせるだけのつもりみたいだしなぁ…
どうしよ。
「寝るぞ」
「寝ますよ」
「寝る」
そして、3名共ご覧のように押しが強い。睡眠への圧が強すぎやしませんかね。
……諦めるしか、ないか。
そう決意を固め、仕方ないと諦めの空気を漂わせてから目を瞑り……
「……zzz」
「…すぅ……すぅ……」
「んぅ…」
「……あれ?」
おい、僕より先に寝てどうする。
呆れてものも言えない……でも、らしいっちゃらしい。一度でも納得してしまえば、もう終わりだ。そういうものだと受け入れてしまった僕は、拘束された身体をそのままに魔法を使う。
掛け布団が全員にかかるように。頭上のチェルシーにも個別でかけてやって。
僕は目を閉じる。
……最悪な夢見にはならないように、いもしない神様に祈りながら。
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───それから、少し経って。
色々と名前の多い、潤空が眠りについてから、数時間が経ったころ。
浅い眠りから目覚めたリデルが、突然虚空に目をやる。
「もういいぞ」
そう合図すれば、空中に半透明の青い画面、配信魔法のコメント欄が出現した。
:おはよう
:エッチでやんした…
:もっと寝て。寝かせてあげて。
:後で怒られない?
:へーきへーき
:黙れば宜し
そう、この女王たち、共犯者には内緒で寝かしつけから寝るまでの一部始終を配信していたのだ。本人には一切の了承を取らずに。
リデル曰く、部下に人権はないとのこと。
魔法少女の変身のまま、本名の愛称で呼ばなかっただけマシだと思えとのこと。
最低である。
そもそも、いつになっても寝ようとしない潤空が悪い。彼女をリデル也にも心配して、引きこもられた後に画策と実行をしただけだ。
……目の下のクマが酷かったのも、理由の一つだ。
お陰様と言うべきか、ムーンラピスに向いていた世間の風向きは、多少和らいだ。
甘すぎである。
「……む?」
本気で寝ている部下2人を他所に、リデルは真上にあるムーンラピスの顔を見つめる。
なにやら険しい、苦しそうなその顔を。
:寝苦しいとか?
:そりゃ、前後上を取られれば、まぁ…
:安らかな寝顔見せて
:変態しかおらん
:お前もな
リデルが思うに。
マッドハッターを、ナハト・セレナーデを名乗っていた宵戸潤空は、定期的に悪夢を見ていた。魔法少女として、悪夢と戦っていた時の記憶、目の前で仲間を失う記憶……それら全てが、夢となって今の彼女を襲う。
例え彼女が悪くなくても、過去は躊躇いを知らない。
そんな悪夢が連続して襲ってくれば……寝なくなるのも当然で。
「……仕方ないやつだ」
その原因の一端が、自分にもあることは棚に上げて。
もう一度布団に蹲り、潤空の無防備な胸に顔を埋める。少し息がしずらいが、必要経費だと割り切って。
「そういうわけだから、オマエの相棒は私たちと寝るぞ。精々歯噛みして、ここに来れない自分を恨むんだなぁ」
「zz…うるさい……」
「あだっ」
リリーライト@悪夢絶殺
:ころします。背後に気をつけて
:NTRやんけ〜!
:BSSかもしれん
:よう見とる
:殺意すっご
:南無三
軽く宿敵を煽ってから、リデルはもう一度、夢の世界へ旅立つのだった。
……共犯者が、夢の中で仕事しているとも知らずに。
99話か…
よく連続投稿できてんな自分…
ではまた明日




