85-軽く絶望するぐらいの衝撃
視点が現代に戻ります
前話の過去語りを口頭で言ってるようなシーンです
一部内容が重複するのは気にせんでもろて…
運命共同体。僕とリデルの、本来相容れない不倶戴天の関係は、思わぬ形で壊れることになった。決戦のあの日、全てが終わったと思っていた後。
地球がある限り消滅しない、星の機構に成り果てていた悪夢の女王が復活した。そいつはなにを思ってか。いや、失った戦力を整えることで、宇宙の連中から身を守ろうと画策したのか。
異空間に漂う、己の周囲に散らばっていた破片を集め、意識を失っていた魂に器を与えて、自分の新しい駒を……忠実な兵士を作ろうとした。
気持ちはわかるよ。自画自賛になるけど、それって僕の残骸なんだし。
そんで人形を作ろうとした結果。女王の頼みの綱だった力の源が、何故か僕の方に逆流しちゃって。
ぜーんぶ、そっくりそのまま僕に移っちゃったわけ。
つまりね?
今の僕、ムーンラピスの力と、リデル・アリスメアーの両方の力が備わってるわけで。
「最強じゃん」
「これ以上強くなってどーすんの?」
「半分ぐらい寄越せよ」
「……呪力に変換できるかな」
「どうか!燃料に!」
「やばぁ」
ちょっと外野は黙ってて?僕の一存、指パッチン一つで永久お口チャックできるんだよ?死霊術っぽい歪魔法と、マペットプリマーレの糸魔法で基本操作できるのを、僕がオマエらを思って自動操縦にしてるだけなんだよ?
そこんとこわかってる?
……わかってたのフルーフ先輩だけかよ。まぁあんたの魔法使ってるしな。
んんっ、話を戻すよ。
そんなこんなで、リデルとの主従関係は、想定と違って僕が主導権を握ることになった。
哀れ、リデルは無力なクソガキに成り果ててしまった。
最初はまだ威厳のある、全盛期のクソうぜぇ女だったんだけど。
───魔法少女。この身体に慣れん。肩を揉め。
───!? なんだこの甘味は…
───ラピスッ!!オマエまた変な魔法をっ……いい加減ポイ捨て感覚で置くのやめろ!!
───むぅ…
───なんか眠い。おい、膝貸せ。死人でも温もり程度はあるだろ……ない…だと……
───うるるー?
───ふわぁ…
一年も経てば完全に幼児退行して、今の性格のリデルに落ち着きました。日に日に変わっていく女王の成れ果てに暫く顔面蒼白と戦々恐々のコンボ食らってたよ。
想像してみ?あの傲慢不遜なクソデカが、幼女になって甘えてくるんだぞ?
吐き気よりも眩暈がすごかった。もう慣れたけど。
でもまぁ、半年時点だとまだ喧嘩腰ばっかで、今よりは甘えてなかったな。だいたい、メードが加入してきた半年過ぎた辺りから、加速してった気がする。
……そんな私知りませんって顔すんなよ。マジだから。君が来てから本格的に女王のロールプレイングやめてガチ幼女になってったんだぜ。
本当に意味わからん。
……今思えば、基本言い争いになる僕と違って、ずっと受け身のメード相手だったから、軟化するのが早かったのだろう。
僕がアリスメアーを再結成して、再スタートを切らせた理由は、まぁ宇宙関連の話。わかりきってるね。あいつらぶち殺さないと、地球滅びるって言われてさ。
……んで、それなら、先に地球滅ぼしといて、狩るモノ無くしちゃえばいいじゃんって思ってさ。
本末転倒だけど。
あと勘違いしないで欲しいんだけど、リデルの死=地球BADENDなだけであって、地球の滅びの巻き添え食らってリデルの死に繋がるわけではないから。
今は、リデルさえ生きてれば、どうにでもなると思ってもらえればそれでいいよ。
リデルを守る為に、宇宙への対抗手段を得る為に、君ら三銃士を集めた。ユメ計画施行後の管理者に、そこの金が取り柄のおっさんを引き入れた。
復活怪人と魔法少女は、量産できない兵器枠。
そして僕は、悪夢の外側で、火に飛んでくる夏の虫共を狩り尽くす。
これでもねぇ、ちゃーんと考えて動いてるんだよ?あの頭お花畑なピカピカ女と違って。
……本当だよ?なにその訝しむ目。こちとらムンラピの中の人やぞ。
謀略大好き魔法技術者やぞ。脳筋と違うんだよ。
第一、あいつが戦力拡充なんてできるわけないだろいい加減にしろ。
社会の荒波に飲まれてたうさ公も、籠の中の眠り猫も、裏切りを乗り越える蜥蜴も、最後の時まで全てを見届けた腐乱人形も、悪意をもって富を成す怪物も、恨みを背負う心を壊された殺人人形も、全てがどうでもいいと諦観する青虫の喫煙者も。
今膝の上で船を漕いでいる女王も、それを羨ましそうに睨んでいる車掌も、それ以外の同朋たちも。
全て、僕が死に物狂いで集めたパズルのピース。
【悪夢】が宇宙に勝つ為に、本当の意味で争いのない、平和な楽園を作る為に。
……でも、絶対にあの子たちは抗うだろうから、此方も全力で抵抗せねば。
一先ず、僕がアリスメアーと共謀する理由はわかった?確かに言ってないことはまだあるけど、概ねこの星の為に行動していると思ってくれ。
二代目首領は、まぁ体裁的に。よわよわリデルを悪夢の象徴に据えて、僕が実質統率する。
うん、仕事押し付けられただけだね。
アリスメアーによくある組織運営は、最近になって少し多くなってきたかな?
昔は三銃士を暴れさせた先の記録とか、次の候補地とかやるだけで済んだのにねぇ。
……いやだなぁ。時が経つのは早いもんだ。
僕の正体バレも、案外早くやっちゃったし。最初は絶対言わないまま、悪役として大暴れからの退場を計画してたぐらいだったのにね。
おっと、脱線だ。うーんと?次はなにを話せばいい?
はい?私たちの復活基準〜?なんであんたが聴くんだよマーチ先輩。説明したでしょ……あぁ、悪夢側への?まあ説明は必須か……
誤解が生まれないように先に言っておくと、ここにいる魔法少女以外の復活、蘇生は無理。不可能だってことを、先に断定しておく。
そこの6人は、死後も現世にしがみついてたおバカさん代表なんだよ。悪霊といってもいい。輪廻の輪に乗らずに地球に張り付いてたのさ。まぁ、魂の状態だから、そこに意識はなくて、無我の状態でフラフラしてた、が正しいんだけど。
……ちなみに、ゴーゴーピッドとかいうチビは、マジの幽霊として死後数週間も怪奇現象を起こして、現役の僕に成仏させられたおバカさんだ。
そして、何故かまだ現世にいた二重のバカだ。
こちとら天に昇ったと思って安心してたのに……まさか復活条件に当て嵌ってるのを知った時は、発狂するよりも困惑が勝ったよ。
ふざけんな。
「ごめんなさいなのです!」
「えちょっ、オマエ幽霊になってたの!?」
「……あぁ〜、あの怪奇現象。夜中に電車が走ってるって噂話、マジだったんだ」
「ヤベぇ、オレそれ知ってる…」
「有名な怪談じゃねェか」
……復活条件は、輪廻の輪に乗らずにまだ地球にいた、つまり、戦う気力がまだあるヤツら。あの世にも行かない悪霊であることが、一番の理由だ。
他の魔法少女たちは、多分あの世で有名になってるよ。
逆に、ちゃんと成仏しただけマシだ。僕たちみたいに、死んどいて生き返ってるヤツらが一番タチ悪い。
犯罪的だね。
せっせと魔法で器で作って、無我でふらついていた魂を捕獲して、肉体という器にぶち込んで、慣れさせて、暫く幸せな悪夢の中で眠らせて、順応させていた。
……夢の内容は、個々人のプライバシーだから知らん。
気になったら本人にでも聞くといいよ。ちょうど身近にいるんだし。
……喉乾いた。ジュースちょうだい。んっく……ふぅ、なんか疲れた。
ねぇ、ここら辺で説明終わりにしてもいい?ぶっちゃけこれ以上ないんだよね。現に、君たちが一番知りたかった魔法少女関連の話題はこれで終わりだし。
終わりでいい?
「いいよー!あっ、それとラピスちゃん」
なんですか、マーチ先輩……そういや、なんで支給したスマホこっち向けてんの?
「生中継してた☆」
……は?
「ラピスちゃんがどれだけ苦労して今の地位についたか、その選択肢を取ったのか。外野になにも知らないで兎や角言われたくなくてね。勝手にやっちゃいました☆」
「悪くねぇ判断だと思うぜ。こいつがやんなきゃオレ様がやってたし」
「……やってることは盗撮だけどね」
「いーのいーの。メンタル終わってたラピピが、進行形でぶっ壊れ寸前なのが伝わっただけマシだよ」
「お布団どこなのです?」
「それならこちらに」
「耳元でお経唱えてあげるね」
「宗教違くね?」
……こ、このゾンビ共……な、なに勝手なことしてくれちゃってんの???
唖然とする僕のマヌケ顔が、全世界に配信されている?それどころか、こちらの思惑も、計画も、魔法少女復活の経緯まで知られた?
有象無象に?
こんな真夜中に配信見るような、酔狂な連中に?いや、よく見れば視聴者数が三桁万……?
いっぱい見られた?
いっぱい聞かれた?
いっぱい知られた?
……。
…………………………………………………………………………………………。
オワッタ…
:オマケ:
他の13魔法が復活しなかった理由
“正義” キルシュナイダー
→女王の攻撃による魂の磨耗が激しすぎた
“斬魔” モロハ
→魔法少女狩りとの死合で満足成仏
“雷精” オルドドンナ
→暴食婦人の体内にずっといたせいで魂が摩耗、地上に残ろうとするも耐えきれず昇天
“傀儡” マペットプリマーレ
→死んだ親御さんのお迎えが来た
“色彩” イリスミリエ
→あの世で最高の画家として引っ張りだこ
落差が酷い…




