表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜澄みの蒼月、闇堕ち少女の夢革命  作者: 民折功利
“月”

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

96/286

84-死ねなかった2人の同舟共済

過去回想

〜リデルと潤空の慣れ始め〜

どぞ


───崩壊した魔城の最上階。瓦礫が浮かび、瘴気が漂う悪夢の国の深奥、背もたれを斜めに斬られた金の玉座に、全てを失った女王がいた。

 かつての威光は疾うに失われ、大穴の空いた天井から、異空間の黒い空をただ眺める。

 無言で黄昏れる敗戦者───リデル・アリスメアーは、満足に動かせない身体にムチを打って、なにもない黒空の模様を目でなぞる。


 恨むべきか、恐れるべきか。こんな忌々しい状態に己を追い込んだ魔法少女に、どんな文句を言うべきか。

 視線を落とした先、床に蹲る少女に言葉を投げる。


「それで。決断はできたのか? ───魔法少女」


 無気力に、玉座の傍で動かない青の戦乙女。ボロボロの燕尾服風コスチュームを身に纏い、凹んだシルクハットを床に置いて、体育座りする、月の化身。

 名を、ムーンラピス。または、宵戸潤空。

 女王を致命まで追い込んで、危うく地球を滅ぼす戦犯になりかけた魔法少女。


 決戦時は、リデルも狂っていた為に教えなかったが……本来、リデルの死は地球の滅びに直結する。今回は運良く理性の一欠片から復活できたが……危うくだった。

 ちなみに、地球が滅んでもリデルは死なない。

 一種の不死性と余力があったお陰で、弱体化したものの女王は健在だ。


「はァ…」


 身体にツギハギを這わせ、蘇った魔法少女は、現代初のゾンビとなっていた。


「……理解はした。今やるべきことも、取るべき選択も。その必要性も……納得は、してないけどね」

「ふんっ。強情なヤツだな。さっさと受け入れろ」

「うるさいな…」


 間違ったことをしたわけではない。ただ、誰も知らない真実だっただけで。危ない綱渡りをしていたことを知り、自分たちの戦いがどういうモノだったかを理解して。

 やる気を失った……スランプのラピスがそこにいた。

 倦怠期モードだ。目的を見失い、理由を奪われ、真相に立ち塞がれ。

 唯一無二の幼馴染も、死んでしまった。

 最後の一人、生き残って。否、一人生き返ってしまった苦痛と罪悪感に苛まれる。

 敵の親玉と運命共同体になったことも、吐き気と眩暈で気持ち悪い。


 残された選択肢はたった一つ───リデルの配下として暗躍すること。


 正直に言って、語られた話を彼女は信じていなかった。


 宇宙人だの、ユメが星には必要だの、怪人と妖精が実はイコールの存在だの。


 そんな真実()、信じたくなかった。


 ……結局、いつまでもジメジメしているのは、ラピスの性に合わないと、立ち上がって動き出すのが、彼女の強さであり、弱さでもあるのだが。

 そうして始まったのが、悪夢の尖兵となる道。

 苦渋の決断で受け入れた蒼月の、二年以上に及ぶ暗躍。後に世界に混乱を巻き起こす、宇宙からの災害、終わりのその時まで。

 青春も、日常も。全てを切り捨てた、始まりの半年。

 ……そして、リデル・アリスメアーとの関係が、歪んで拗れて愉快なモノになる、過去話。


「おい、邪魔だ。どけ」

「何故?私がいないとこに掃除機かければいい。わざわざ動いてやる必要性を感じん」

「このニートが…」

「黙れ小娘」

「ッ」


 とある日。2人……否、潤空が、崩壊させた城を修繕、再構築していた頃の話。瓦礫や血が散乱する廊下を魔法で片付け、作り直し。あまりに広くて、別にいいかと規模を縮小させて、城を小さく作り替えたり。

 何故僕がと一生呟きながら、独りで作業していた。

 ……ちなみに、喧嘩の内容は仰向けに寝転び幼年漫画を読んでいたリデルが、掃除機の進行方向を塞いで妨害した形だ。


 こんな喧嘩は日常茶飯事で、弱体化に伴い怠惰となったリデルの世話に、潤空がブチ切れては長杖を喉に添えたり威嚇したりと……

 怒声と罵声が絶えない環境となっていた。

 殺意を隠さない潤空と、害意をものともしないリデル。罵り合いは基本だ。


「腹が減った」

「……空腹だぁ?今まで食べてなかったのに?」

「この身体になったせいだな。不便な……今までは魔力で凌いでいたが、無駄みたいだ」

「チィッ」


 ゾンビになってから空腹を感じない、三大欲求が大幅に激減した潤空にとって、炊事を命令されては苛立たのみが湧き上がる。自分で作れと言いたいが、この幼女化女王にそんな器用なことができるとはまず思えず。

 基本受け身で全てを任せてくる、遊んでばっかの女王に拳を握る。

 なにを言っても無駄だと、もうわかっているから。

 溜息だけを吐いて、渋々行動に出る。文句を言ったって純粋な目で見てこられるだけだ。


「おらよ」

「ほう……なんだ、これは」

「親子丼」

「おやこどん?随分と物騒な。ニンゲンは卵を産むのか。知らなかった」

「違う」


 人間社会に疎いリデルの誤解には、教育するしかないと諦めが生じた。


 そんなふうに、元敵同士の2人は交流を重ねていった。


「……ねぇ、手伝ってよ」

「めんどくさい…」

「甘えん坊がよぉ。そんな体たらくでよく人類の敵なんざ名乗れたな」


 なにもしないリデルに溜まる鬱憤。時が経つにつれて、仕方ないな〜と思うようになってしまった潤空。リデルはもう害されないとわかったせいか、かれこれずっと、この自由気侭な調子だ。

 宿敵の変化に、潤空の葛藤も徐々に薄れていく。

 それが演技であればすぐに見破れるが、邪念がない素の行動であるとわかってしまえば、もう。

 潤空の胸中を埋めるのは、諦観。環境に適応する慣れに抗えず、受け入れつつあった。

 内心では、それは悪だとわかっていないがら。

 魔法少女としてのプライドを、矜恃を捻じ曲げ、暫しの葛藤の末に口を噤む。


 もう戻れない。自分でどうにかするしかないと、心から理解してしまったから。


「なぁ、オマエ。名前は?」

「ムーンラピスだけど」

「違う。親に付けられた名前だ。それは魔法少女としての芸名だろう」

「その言い方やめろよ…」

「で?」


 絆されているのはわかる。もう、リデルという悪魔を、受け入れてしまっているのも。

 本名を伝えてしまえば、後戻りできない。

 真名を教えることが、どういう意味を持っているのか。潤空が知らないわけもなく。


 かといって、このまま伝えないでいると、幼女の本能で執拗く食い下がられることは明白で。


 結局抵抗を諦めて、潤空は名を告げる。


 ……それが、現状維持だった関係に、前進という結果を齎すとは思わずに。


「潤空。宵戸潤空。これでいい?」

「……うむ。わかった。なら、これからはオマエのことをうるるーと呼ぼう」

「は?」


 なにを言っていると胡乱気に見遣れば、リデルの手には『同居人と仲良くなる方法Best10』と書かれた、あまり信用できなさそうな本が。

 どうやら、そこに書いてあることを実践した様子。

 まずは、愛称から、と言ったところか。そんなので納得できるわけないが。


 苛立ち混じりに、潤空は少ない洗濯物を片付ける傍ら、絨毯に座るリデルを睨む。


「なにそれ」

「せっかくの主従関係なのもあるが……まぁ、オマエとはこちらから歩まないと、どうにもならんことぐらい、私もわかってるつもりだからな」

「……利害の一致、事務的な関係性。それでいいでしょ。友好的なあれこれなんて、僕はいらない」

「むぅ…」


 先に歩み寄ったのは、リデルから。だが、過去の非道や悪業に邪魔されて、上手くはいかない。当然のことだが、先行きは不安だった。

 潤空とて、内心ではわかっていても。

 それを受け入れられるかどうかは、別で。これ以降も、リデルから話しかけては接触を試みたり、あれやこれやと注文を付けたりするのだが……

 潤空は徹底的に、業務的に、差別的に、大人になれずに逆らい続けて。


「おい、早くこの手を取れ……うるるー、オマエを新たな女王に任命してやる」

「絶対にいやなんだが???」


 無駄な抵抗の末、首領の座だけは受け取ったが。


 それから半年経ち、ある死体を拾うまで。2人の関係は変わることがなかった。


 ……変わらざるを得なかった、とも言えるが。


 星の機構に成り果てた悪夢の女王と、その端末となった蒼月の奇術師。ギクシャクする2人の間に新たに加わる、無能な働き者と、社会から爪弾かれた3人の怪人。

 多少なりとも、変わらずにはいれない環境になって。

 とうとう折れた潤空が、マッドハッターとしての自分を受け入れて。


「……おいで」

「うむ!」


 粛々と、魔法少女としての憤りを沈めて。潤空として、リデル・アリスメアーという一個人の共犯であることを、友人であることを認めた。

 首領であることも、人類の敵であることも。

 悪夢の最高幹部という表向きの立場も受け入れ、蒼月は邁進する。


 もう、止められない。止まらない───信頼する味方がいなくなった世界で、ただ一人。

 己が定めた正義の道を、貫き通す。


 ───諦念と闇、絶望の先で。親友の妹と、その本人に悪の道を妨げられるとも知らずに。


 そして。


 この過去語りが、ラピスの心象回復の為と、アイドルに勝手に生中継されているとも知らずに。

 本当に、気付かないまま。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
化石アイドルさんだったかぁ…… 大事な役割ですけども……後でラピスに〆られようね
 アイドルオマエかー!  最近予想が外れて恥ずかしいやら嬉しいやら (前回メードあたりか?って予想したけど考えてみたら台所(城)壊したり女王on女王バズらせたりしてたけどちゃんと秘密は守る人だった。…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ