82-だからって尋問はよくないよね
意見は割れた。魔法少女とは、完全に対立した。最早、これ以上の問答は無意味。予定通り、外野の民間人共には内容を周知できたから、今はそれで良しとする。
【悪夢】の侵攻によって“大切”を失った人は、それこそ世界中にいる。
家族を、友人を、仕事を、幸福を、未来を奪われた者。
どうしようもない苦しみの中、今も忸怩たる思いを抱く誰かに向けたメッセージ。
逃げ場はここにある。一緒に行こう───そう誘って、ユメ計画の賛同者に名を連ねさせる。
幸せな夢の中なら、あらゆる喪失を癒せるのだから。
なーにが肉体の有無は大事だの、地球は帰る場所だから捨てちゃダメだの……そんなに言うんなら、宇宙への対抗措置をそっちも考えろっつーの。
今の技術で、オマエらだけの魔法で、それは無理だ。
なにせ、魔法少女技術職の枠はほぼ僕が担ってるんだ。最大手がこっちにいるのと、脳筋のオマエらじゃなんにもできないことは自明の理。
……そこで諦めずに、自分の想いをぶつけてくるのは、嫌いじゃないけど。
「ふぅ……はァ……仕方ない。交渉決裂、これ以上は全て平行線だ。宇宙の虫ケラ共を全滅できただけ、無駄被害を防げただけ、まだヨシとするか」
「なぁに、帰るの?」
「そりゃあ、もう用ないし。戦ってもいいけど、オマエは兎も角、後輩ちゃんたちはキツそうだしね」
「……ありゃ、メンタルも来てるね。怒涛の展開で流石に疲れちゃったか」
主導権を握るのは、僕とリリーライト。後輩ちゃん達はお疲れの様子で、結構しんどそう。まぁ気持ちはわかる。死んじゃうぐらいの情報が連鎖してるし。
宇宙人襲来、13魔法復活、二代目首領僕……うーん。
一日に詰め込む内容じゃないね。しんどそうな顔してる子達に配慮して、ここは帰るよ。
「お姉さん…」
「あはは、そんな顔しないでよ。まるで僕が悪いみたい、いや悪いな?うん……まぁ、ごめんね?」
「一ミリも思ってない謝罪やめて」
「姉に似てきて辛辣だな……成長を感じるような、なんか悲しいような」
穂花ちゃんの目が冷たくなってるの、なんか心に来る。
「まぁいい。積もる話はまたいつか───精々足掻いて、最後の輝きを見せてくれ。今回の防衛戦で、まだ君たちの必要価値を見い出せてなくてね」
「ッ、お姉ちゃんも言ったけど……そのユメ計画、私も、納得してないから!!」
「私もっ!先p、あなたの思い通りにはいかせないっ!」
「そーだそーだ!勝手に壊すとか、閉じ込めるとか、絶対やらせないからっ!!」
「相変わらず威勢のいいこと……いいよ。期待しないで、待ってるよ」
抵抗する強さは、人一倍、か。初々しい微笑ましさだ。
穂花ちゃんも蒼生ちゃんもきららちゃんも、いーっぱい迷惑かけてるからなぁ……印象は最悪だろうけど、どうか挽回したいところ。
夢の中で健やかに生きて欲しいけど、無理そうだなぁ。
無理に決まってるよなぁ。魔法少女に選ばれてるんだ。意志は強い、か。
「さて、帰るぞ───ゾンビマギア。君たちからすれば、元敵地に当たる場所へ」
「ぇー、やだぁー。てか待って?ルビ?ねぇ」
「その総称で落ち着くんだ?それと罵倒にも程があるよ?あたし怒るよ?」
「ちゃんと自分も入れろよ」
「事実だろうが。死んでも現世にしがみついてたバカ共は何処のどいつだッ」
「はーい」
「スっ」
馬鹿正直なヤツらだな。オマエらなんかバカゾンビ6で十分だよ。成仏したと思ったら悪霊並みに居残りやがってふざけんなよこんちくしょう。
特にピッド。何故か毎夜現る幽霊になってたのを二年前成仏させたのに、何故。最初びっくりしたんだからね……なんでまた帰って来てんの、ふざけんな、って。
……もう諦めて受け入れたけど。そういう子なんだってことは、知ってたし。
「次会う時は、また宇宙人が攻めて来た時……偵察部隊が情報ゼロで全滅したんだ。近いうちに、襲ってくるはず。その時こそ……魅せてくれよ?」
「……別にいいけど、協力してね?人類存亡の危機なのは変わらないんだし」
「考えとく」
長杖型のマジカルステッキを真後ろに払って、異空間の裂け目を開く。
「うわぁ」
「ねぇ、普通に鏡使わない?」
「使い慣れとる…」
「むむむ…」
「覚悟!」
まだ慣れないのか、尻込みするゾンビ仲間を無理矢理で亀裂に叩き込む。
はいはーい、悪夢行き直行便でーす。はよ入れや。
「それじゃ」
不安な表情を隠さない後輩ちゃんたちと、勝つ気満々の幼馴染に、手を振った。
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───色々あって、悪夢の庭に帰ってきた僕たち。宇宙の脅威は一先ず去ったから、安心してここにいるわけ、なのだけど。
「待ってたぜェ」
「さぁ、説明してもらうッスよ!!」
「以下同文、右に同じく」
「帽子屋様……御覚悟はよろしいでしょうか。ちなみに、これは拘束済みの女王陛下です」
「ブルームーン!!」
「うわぁ、待って、ホンマに復活しとる……悪夢やなくて現実なんやな……」
「Ulrr…」
なにも知らない面々から、盛大な出迎えを食らった。
あー、説明必要?必要だわな……リデルは兎も角、他の全員情報ゼロだもんなぁ。メードとチェルシーは僕の正体までは知ってるけど、真の首領云々は知らないし。
一部の魔法少女が復活できる状況だったのは、リデルと僕だけの秘密だったし。
他の面々はマージでなにも知らない状況……なんなら、背後に隠れたゾンビたちも初対面なわけで。新生三銃士と復活怪人の素も知らないわけだしなぁ。
仕方ない。双方に面識があって、全部知ってる僕が説明やるかぁ。
あとリデル?縄でぐるぐる巻きにされてるの、すっごい滑稽で面白いんだけど?
「わかった、話す。話すから。座ろう。椅子用意してよ。ちゃーんと一から十まで話すから」
「おう……だが、その前に」
「すいません先輩の方々、その人拘束しといてッス」
「万が一がある…」
「信用ないな…」
「そりゃあ魔法少女であることも教えてくんなかったッスからねぇ!!なんでチェルシーは知っててオレらはなんも教えて貰えてねぇーんだっつーの!!」
「成り行きで。後、自分語りで痛くない?」
「気持ちはわかるけども」
「あ〜」
わかってくれるか厨二病発症者共。悪の幹部って時点で言い逃れできないからな。
取り敢えず、落ち着いてくれて良かった。
……ねぇ、ピッド?その手を離して?別に逃げないし、説明責任は果たすし……そんなに信用ないか?ないよな、うん、そりゃあ。
現役時代、必要最低限だけ告げて、全てが終わってから説明した回数、片手じゃ足りないもんね。
前科ありでした。
一先ず舞台を整えて、みんなでティーパーティー形式。
「何処から話そうか……僕が、吾輩になった経緯からでもいいかな?いや、面倒いな……リデルとの馴れ初めとか、聞いててもつまんないだろうし」
「いやそこをめちゃくちゃ聴きたいんだが?」
「予想つかねェーよ。なんで仲良くなれてんだよ。マジでなにがあった」
「蜥蜴の兄ちゃんと同感だな。オレ様も聞きてぇ」
「ぶっちゃけワタシたちが擬似的に蘇ってることよりも、そっちの方が気になる」
「うんうん」
「えぇ…」
いや本当に。四六時中啀み合って、付かず離れずで常に行動しなきゃでストレス溜まりまくってて、なんの進展もなかった半年を、こんな大勢の前で語らなきゃわけ?
戦場跡地でメードの“何故か腐ってない”死体見っけて、そっから関係改善が進んだぐらいで……
うん、今の関係に落ち着いたのは、半年経ってからか。
……その期間までに、生前退位だの首領交代だのあったわけだが。
「そこが一番重要なんやけど?」
……二代目首領なぁ。正直、重たいよ。
流石の女王も、実力不足を嘆いて、力の移行先であった僕を取り立てる方針にして、色々あってこうなったとか、あんま語りたくない。
恥ずいやん。
なんかこう……続編とか第二部とかのラスボスになった気分で、ちょっとだけテンション高まってた事実は、別に伝える必要はないとして。
小っ恥ずかしい。やめようかなこの説明会。僕がかなりダメージ受けるだけじゃね?
解散。
「……おい、それよりも早く私を解放しろ。この縛り方、めっちゃキツイんだ」
ごめん忘れてた。




