表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜澄みの蒼月、闇堕ち少女の夢革命  作者: 民折功利
“月”

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

93/286

81-希望に満ちた、悪夢の箱庭


:なんで

:うそだ…うそだぁ………

:そんなのってないよ…

:推しが推しだった。全方位死角ナシ!!フハハハなんでなんでなんでぇぇぇぇ!!!

:耐えれない

:死ぬ


 阿鼻叫喚の地獄絵図……悲鳴が飛び交う世界の中心で、正体を明かした僕は笑みを深める。人の不幸は蜜の味……その全てが、自分一人に向いているとなると、その感動も一入で。

 若干愉悦に浸りながら、動揺する敵を見据える。

 ……困惑から抜け切ってないコメットちゃんも、ずっと目を白黒させるデイズちゃんも、みんな可愛いね。今まで敵対していた怪人が、僕だって知ってびっくりしてる。

 そして、茫然と涙を流すエーテちゃんと、色々な感情がせめぎ合って、滂沱の涙を流すぽふるんも……付き合いが長いだけあるけど、現実から立ち直るには、まだちょっと時間がかかりそう。

 いやー、ごめんね?今更で。


 内心はニコニコ、外面は無表情を装う僕に、知っていたリリーライトが気安く話しかけてくる。


「ラピちゃんさぁ」

「当然の結果だろう?」

「まぁ……すっごい反響だね」

「そりゃあねぇ。死んだと思ってたヤツが、敵に寝返ってここに立ってるんだ。喃語も喋れない死体がうじゃうじゃ溢れてくるのも仕方ないよ」

「自信満々やめて。んもぅ、別にいいけどさ」

「アハ」


 いやー、吾輩口調しないの楽でいいわ。演劇ってマジで大変なんだね。


 久しぶりに履いたスカートを指で摘んで、ヒラヒラ。

 ……なんでボロボロなんだ?二年ぶりに変身したけど、まさかあの時のまま?いやでも修復はされてる……闇堕ち限定衣装ってことかな?なんか焦げてたり裂けてたりした跡が追加されてるの、多分そういうことだと思う。

 くっ、なんかカッコイイ。ダメージジーンズっぽくて、嫌いになれない。


 でも露出上がってない?スカートのスリットヤバいよ?下手したらパンツが見え……スパッツあったわ。こっちは汚れてないんだ。へぇ。

 安心した。


「なんかダークだな。カッコイイぜ」

「まな板タンクには負けます」

「は?」

「もうちょっとヒラヒラ増やさない?闇堕ち衣装に黒味を足そうよ!!」

「化石アイドルは黙っといて」

「は?」


 取り敢えず、先輩2人に喧嘩を売ってお茶を濁す。


 復活させたカドックバンカーとマーチプリズの扱いは、魔法少女時代から変わらずである。こんなんでもちゃんと許される空気がある。

 僻みと恨みで耳引っ張ってくるゾンビは突き放す。

 あー、はいはい。ぺったんこと年増アイドルは大人しく死んでくだしゃ。


「……私も堕天しよっかな」

「そんなオプション付いてないでしょ」

「呪いでなんのかできないのです?」

「なんで乗り気」

「ウケるw私様は最初っから悪役令嬢コスだから、皆より先取りしてるもんね!」

「剥ぐか」

「剥ご」

「あれ?」


 いつも通り調子に乗ったノワ、ミロロノワールが先輩の殴打を受けてるけど、どうでもいいから無視。ブランジェ先輩はわざわざ真似しなくていいし、フルーフ先輩はここで呪詛吐かんでもろて。

 ピッド?君は暇だからって焦げた電車に近付かないの。

 わちゃわちゃしてんな……今僕のターンだから、静かに黙っててほしいんだけど。


 死霊術の支配下にあるヤツが逆らうんじゃねぇーよ。


 そう内心飽き飽きしていると、漸く衝撃から立ち直ったぽふるんが僕に怒鳴る。


「ラピス!なんで!!」

「色々あって。不可抗力ってゆーか、リデルの策略負けで僕が勝ったってゆーか」

「はぁ?」


 怒んなよ。先に復活したリデルが、周りにあった肉片と魂とかを繋ぎ合わせて僕を作り直して、利用しようとして失敗したのが悪いし。お陰でエネルギー全部僕にいって、あいつ弱体化しまくったし。

 結果的にファインプレーだと思うんだよね。

 だって、今や僕がアリスメアーの首領なんだよ?すごい出世だよね。


「聞いてないんだけど」

「これ知ってるの僕とリデルしかいない」

「お仲間は?」

「なにも」


 証拠にグループLINEを見せて、と……うわぁ。

 「冗談っスよね?嘘って言って」「おい」「待ってそれ知らない」「帽子屋様…?」「ブルームーン?首領だって私聞いてない!!」「!?」「嘘やろ?あんたらいつの間に代替わりしとったん?」などなど。あと復活魔法少女……正式名称は後で考えるとして、そいつらもエネル顔。

 うん、最高幹部ってのは表向きの肩書きだ。というか、今のアリスメアーを運営してたのほぼ僕だし?代行にしか見えないけど、実は社長でしたってオチ。

 いやはや、不義理にも程がある。なにやってんだか。


 ……リデルの全てを奪う形で、全盛期と変わらぬままの復活を果たした僕。ある程度の交流をもって、不本意だが共犯者となることを是とした、あの日。

 メードもいなかった最初期に、僕は支配者となった。


───生前退位する。今日からオマエが女王だ。

───は?柄じゃないから嫌だが。てかいきなりなにを、待ってやめてって!!


 お飾りを自称する、なにもできなくなった悪夢の女王の突然の引退宣言。なんとか引き止めて、アリスメアー首領の座は受け継いでやったが、悪夢の国の女王は全力拒否でそのまま持たせといた。

 せめて宮廷道化師とかそーゆー遊べるポジションの方が楽でいい。

 女王なんてやってられるか。もう国として機能してないとはいえ、だ。


「おねぇ、さん…」

「ふふっ、なぁに。昔みたいに所構わず抱きついてくれていいんだよ?その分実姉を揶揄う理由ができる。いやー、あの時の激怒と嫉妬が綯交ぜになったバカの泣き顔は、今思い返しても傑作だよ」

「会話の流れで私にパンチ食らわせるのやめよ?」

「いつものことだろ。こんぐらいの空気感で罵り会うのが僕たちだろう?」

「私が一方的に罵られてるの間違いだよね?」

「え?」

「は?」


 しらばっくれ体操第一〜!!大きく首を傾げすっとぼけ運動〜!!!両手を小賢しく上げ、肩をすくめて〜、はいいっちにさんし。

 いやぁ、軋む身体に効くね。


「気持ちはわかるよ。死んだと思った人間が生きていて、アリスメアーの最高幹部に……それどころか、首領の座を戴く敵になってるんだもん。そっち側にいたら、僕だって驚く自信がある」

「……まぁ、性格的に、最善策がどーたらこーたら言ってそっち着きかねないし……」

「僕のことよくわかってんじゃーん。そうだよ」

「否定してほしかった…」

「ね」


 もう10年近い付き合いなんだ。それぐらいわかるか。


 ごめんねぇ、穂花ちゃん。今まで会ってたのに、正体を偽ってて。


 さて。


「───配信をご覧の諸君。ご機嫌如何かな。二年ぶり、とでも言おうか」


:ラピ様!!

:なんでなんでなんで

:裏切り者ー!

:おい待てぃ、あの蒼月様が、悪夢絶許なキラーマシンが生半可な理由で悪夢につくか?

:……確かに!

:天才か?


 酷い言われよう。そして納得の速さが可笑しい。何故。


「相変わらず能天気な。いや、現実逃避が得意なヤツら。こんなんが僕の視聴者とか……はァ、まぁいい。見知ったアカウントばっかで気が滅入るけど」

「なっ、覚えてるの!?」

「残念ながらね。ブルーコメット、これでも僕は記憶保持検定世界記録を逃した女。記憶力には自信があるのさ」

「落としてるじゃない」

「シャラップ」


 事実陳列罪は法律で重罪化してるんだよ。知ってた?


 ……まぁ、魔法少女の仕事で忙しくて、そんな勉強する余裕がなくって。検定の日時が来ちゃって、頑張ったけど無理でした。

 そもそも記憶力を鍛える云々って、結構難しいよね。

 結局無資格で人生幕閉じしちゃってるから、なーんにも言えん。


 はい、無駄話はここまで。


「却説、本題に進もう。時間が惜しい。暇な視聴者諸君も耳を傾けたまえ」

「口調戻ってんぞ。戻せ戻せ」

「はいはい……ふぅ。改めて宣言と行こう。僕はこの星を悪夢に閉ざす。ユメ計画をもって、この世界を、僕成りの考えたやり方で、救済するの」


:肝心な御内容は…

:それ本当に大丈夫なんスか

:不穏


「気にしすぎだよー。うんうん。別に……二度と悪夢から覚めないってだけで」

「は?」

「え?」


:ほらやっぱりー!!!


 言ってなかったね。ユメ計画の真髄。そうだよ、普通に受け入れられないのが、僕の思惑、その正体。

 不穏でしょ?気持ち悪いでしょ?その想いは正しい。


 目を細めて警戒態勢の、殺意混じりの視線を向けてくるリリーライトに、満面の笑顔をプレゼント。


「宇宙怪獣の目的が、リデルなのは知ってるね?じゃあ、その悪辣な異星人どもが、悪夢という概念を嫌い、身体に取り込めば死んじゃうぐらい拒否反応があるってことも」

「それは、まぁ…」

「うん。それでね……いっその事、地球をずーっと悪夢に閉じ込めて、隔離して、銀河から切り離せば。あいつらは手出できなくなる。永遠に、宇宙からの脅威を感じない、本当の意味での平和が訪れる。ね?」

「ッ…」


───“ユメ計画”。若しくは、“夢幻楽園化計画”……宇宙の支配者である“星喰い”とかいう気味の悪い存在から、この地球を、否、地球のみんなを守る為の計画。

 物騒かもしらないけど、ずーっとずっと、暗黒銀河から脅威に晒すわけにはいかない。

 リデルの敵、その親玉の正体は未だ不鮮明。

 仮にそいつを倒せたとしても、宇宙からの脅威は永遠に続くわけで。


 それなら───地球という星を放棄して、全人類、夢の世界で生きていた方が、安全だ。


「は?待って……それって」

「うん?あぁ、簡潔に言えば、皆で地球を捨てて夢の中で生きよう!って話。悪夢といっても、辛い夢じゃあない。ただそういう属性ってだけ。人間たちの集合意識の群れをなんやかんやしてね。幸福が実現する、夢のような楽園をみんなに提供するのさ」

「……身体も、捨ててるよね。未来も、全部」

「まぁね。あれだよ……SFとかでよくある、電子の世界で生活するってヤツ。現実世界を放棄したアニメとか、まああるじゃん。それの魔法版だよ。さして珍しくもない」

「……先輩たちは、オッケーしたの?」 

「あん?あー、まぁ」

「ッ」


 幸せな悪夢の中で、SFヨロシク生活する。なんとなーくディストピアっぽい風潮を感じるけど、そんなの今更だ。魔法少女の命で平和を維持した世界など、バッドエンドの塊みたいなもんでしょ。

 死闘を経験した先輩後輩たちも、僕の計画に、それこそ一定の理解を示してくれた。

 内心はどうあれ、受け入れてくれた。

 これ程まで心強い味方は、早々いない……だから、後はオマエだけ。


「ね。どう?」


 代わりに地球は荒廃するだろうし、宇宙人に占領されて終わっちゃうけど、もうそこに人間はいない。動物すらもユメの世界にお引越し。意識だけだけどね。

 身体や建物はぜーんぶ焼いて、無に帰しちゃうけど。

 でも大丈夫!ユメの世界じゃら誰も死なない。なんなら死者の魂を喚び起こして、死、そのものをなかったことにすればいい。


 人類を保護し、夢の中で安寧を築かせる。僕の希望。


 そんな、僕成りに頑張って考えたユメ計画を耳にして、彼女は瞳に陰を落とす。


「ラピちゃん。それは、ダメだよ」


 あぁ、やっぱり。リリーライトの拒絶に心は納得する。でも、抑えきれなくて。


「───なんで?いーじゃんか別に。星も肉体も、ただの魂の器に過ぎない。魂が死んでなきゃ、死には値しない。それが僕の持論」

「魂だけでも肉体だけでもダメ。どっちも生きててこそ、生きてるって言えるんだよ。地球を無くすなんて、もっとダメだよ……私たちには、帰る場所がいるんだから」

「それこそ夢の中で十分だ。夢の世界だからこそ、全ては自由に夢想できる」

「却下」

「死んでねぇーヤツがほざくなよ」

「生きてるからこそ、言えるんだよ」

「チッ」


 改めて、一番の理解者こそが“真の敵”なのだと。これが夢ではなく、現実として突き付けられた。


 悲しい哉。でも、仕様がない……ね。



これがラピスのユメ計画の真相です。

ここでわざわざ話したのは、聞いている視聴者の一定数が考え込むなり、夢の中に希望を見出して頷く者がいると、経験則でわかっているから。

賛同者を出すことで、世論を掻き乱す。

……というよりも。理解者が欲しかった、ただそれだけ、なのかもしれません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
 事実陳列罪は法律で重罪化  思考回路が同じじゃんね。  検定頑張ったけど駄目だった。頑張って考えたけど、お前は駄目って言うよね。現実なんてバッドエンドみたいなもんでしょ。死んでもないのにほざくなよ…
でもライトこれ今のラピ様否定してない?動いてること喜んでたのに体の生存も考えるならラピ様死んでるよ?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ